382 / 555
発展を遂げた国フェルトライン
勘違い義賊
しおりを挟む
四人でからし菜の近くに行き、野草採りの感覚で採取を始めた。
からしの製法について詳しくないのだが、どうやら葉の部分ではなく種子を加工することで、ピリ辛なからしができるらしい。
ミズキに教わりながらからし菜を採り始めたところで、近くの小屋からゆらりと人影が出てきた。
「お前ら、からし屋の回し者か」
男は浪人のような風貌で右手に小刀を持っていた。
剣吞(けんのん)な男の様子に緊張が走る。
「この方はゼントク様の御子女ミズキ様である。御前での狼藉は許さぬ」
「……えっ、ウソだろ」
男はアカネの気迫に圧倒されたのか、小刀を地面に落とした。
人間相手に戦いたくはなかったので、あっさりと決着したことに胸をなで下ろす。
「うーん、これで信じる?」
ミズキは鞘に刀が収まったまま、帯からするりと引き抜いた。
すぐには彼女の意図が分からなかったが、そこに家紋のような刻印があることに気づく。
「ひえぇ、大変失礼しましたっ」
男は地面に伏して非礼を詫びている。
憐れに思えるほどに恐縮していた。
「そういうのいいから。ほら、頭を上げて」
「へ、へい、そうおっしゃるなら」
「あなたの名前は? ここで何してるの」
ミズキは寛容な態度で男に接している。
当主の威光を目の当たりにすると、姫という立場の影響力をひしひしと実感する。
あるいは彼女がフランクなだけで、本来はこうなのかもしれない。
「あっしはキイチと申しやす。恵まれない人のために盗んでは配っていたんですが、足がついて投獄されやした。今はからし屋が相場を上下させて不当な利益を得ていると聞きやして……からし菜の採取を邪魔してやす」
キイチは二十代半ばぐらいに見えるのだが、年齢など関係ないようで十代後半のミズキに低姿勢で話している。
雲の上の存在である彼女と話せることがうれしいようで饒舌だった。
「うーんと、サクラギに貧しい暮らしをする人なんていた? というか、からし屋が相場を操作しているなんてホントなの?」
ミズキは困惑した表情でアカネを見た。
そんな主君に反応するように従者は小さくせき払いをした。
「姫様、この男は町で人気の『がんばれゴウエモン!』に悪影響を受けたように見受けられます。あの物語に描かれる義賊は架空のことなのですが……。からし屋の件(くだり)は米問屋の回をサクラギで起きた相場の上下にこじつけているように思います」
アカネは冷静に説明しているが、いつもほど淡々とした様子は見られない。
キイチが義賊気取りになった背景を察していても、理解に苦しんでいることが見て取れる。頭が痛いといった表情だ。
「これは……蚊帳の外ですね」
「サクラギの文化を理解しているつもりだけれど、『がんばれゴウエモン!』なんて絵巻があるのね」
俺はアデルと言葉を交わした。
彼女もこの状況に理解が追いつかないようだ。
仕方なく二人でからし菜を探り始めた。
「マルク殿、この男を牢へ連れていく。素人の種取りは難しい故、採取は職人に任せた方がよかろう」
「それじゃあ、俺たちも戻ります」
「私もそうするわ」
男は観念しているようで、抵抗する様子は見られない。
当主一族の威光も効いているため、ミズキに逆らうこともないだろう。
こうして盗賊の件は解決して、からし菜は採取できるようになった。
城下町に戻った後、ミズキたちに盗賊を任せてハンクを探すことにした。
最後に地震があってから時間が経過しているため、破損した外壁や民家の修繕は進んでいるようだった。
あれから火山活動は落ちついているようで、揺れは起きていないらしい。
街の人にたずねながら通りを歩いていくと、休憩中の大工の人たちを見つけた。
当然ながらサクラギの人は黒髪なのだが、その中にがっしりした体格の緑色の髪をした男がいた。
「ハンク、元気そうですね」
「お……おお、久しぶりだな。旅から戻ってきたのか?」
「はい、ヤルマとフェルトライン王国に行ってきました」
「そっち方面は行ったことがないから、どんなところか興味があるな」
俺が立ったまま話をしていると、大工の人たちが座るところを用意してくれた。
アデルと二人でそれぞれに腰を下ろして話を続けた。
ハンクとの会話に懐かしい感覚を覚えた。
「――そろそろ、休憩が終わりだ。今日は昼までだから、昼飯を食いがてら続きを聞かせてくれ」
「分かりました。近くでお茶でもしてます」
俺とアデルは修繕の現場を離れて歩き出した。
「あまり話せなかったけれど、充実しているみたいでよかったわ」
「力仕事が多そうですね。別れた時よりも身体つきが大きくなってましたから」
Sランク冒険者の仕事にしては派手さがないものの、サクラギの人たちに役立っていて、本人も満足しているのならそれでいいと思った。
ハンクの現場から少し歩いたところに茶店があり、アデルと世間話をしながらすごした。
正午の鐘が鳴った後、先ほどの場所へと戻った。
「お疲れ様です」
「待たせたな。近所に美味いそば屋があるから、そこでもいいか?」
「いいですよ。……ところで、そちらの女性は?」
ハンクの傍らに和服美人が立っている。
単なる知人にしては距離感が近いがもしや……。
「はじめまして、サユキと申します」
「実はな、この子と結婚するんだ」
「「はっ!?」」
俺とアデルの声が重なり、ハンクは愉快そうに笑った。
からしの製法について詳しくないのだが、どうやら葉の部分ではなく種子を加工することで、ピリ辛なからしができるらしい。
ミズキに教わりながらからし菜を採り始めたところで、近くの小屋からゆらりと人影が出てきた。
「お前ら、からし屋の回し者か」
男は浪人のような風貌で右手に小刀を持っていた。
剣吞(けんのん)な男の様子に緊張が走る。
「この方はゼントク様の御子女ミズキ様である。御前での狼藉は許さぬ」
「……えっ、ウソだろ」
男はアカネの気迫に圧倒されたのか、小刀を地面に落とした。
人間相手に戦いたくはなかったので、あっさりと決着したことに胸をなで下ろす。
「うーん、これで信じる?」
ミズキは鞘に刀が収まったまま、帯からするりと引き抜いた。
すぐには彼女の意図が分からなかったが、そこに家紋のような刻印があることに気づく。
「ひえぇ、大変失礼しましたっ」
男は地面に伏して非礼を詫びている。
憐れに思えるほどに恐縮していた。
「そういうのいいから。ほら、頭を上げて」
「へ、へい、そうおっしゃるなら」
「あなたの名前は? ここで何してるの」
ミズキは寛容な態度で男に接している。
当主の威光を目の当たりにすると、姫という立場の影響力をひしひしと実感する。
あるいは彼女がフランクなだけで、本来はこうなのかもしれない。
「あっしはキイチと申しやす。恵まれない人のために盗んでは配っていたんですが、足がついて投獄されやした。今はからし屋が相場を上下させて不当な利益を得ていると聞きやして……からし菜の採取を邪魔してやす」
キイチは二十代半ばぐらいに見えるのだが、年齢など関係ないようで十代後半のミズキに低姿勢で話している。
雲の上の存在である彼女と話せることがうれしいようで饒舌だった。
「うーんと、サクラギに貧しい暮らしをする人なんていた? というか、からし屋が相場を操作しているなんてホントなの?」
ミズキは困惑した表情でアカネを見た。
そんな主君に反応するように従者は小さくせき払いをした。
「姫様、この男は町で人気の『がんばれゴウエモン!』に悪影響を受けたように見受けられます。あの物語に描かれる義賊は架空のことなのですが……。からし屋の件(くだり)は米問屋の回をサクラギで起きた相場の上下にこじつけているように思います」
アカネは冷静に説明しているが、いつもほど淡々とした様子は見られない。
キイチが義賊気取りになった背景を察していても、理解に苦しんでいることが見て取れる。頭が痛いといった表情だ。
「これは……蚊帳の外ですね」
「サクラギの文化を理解しているつもりだけれど、『がんばれゴウエモン!』なんて絵巻があるのね」
俺はアデルと言葉を交わした。
彼女もこの状況に理解が追いつかないようだ。
仕方なく二人でからし菜を探り始めた。
「マルク殿、この男を牢へ連れていく。素人の種取りは難しい故、採取は職人に任せた方がよかろう」
「それじゃあ、俺たちも戻ります」
「私もそうするわ」
男は観念しているようで、抵抗する様子は見られない。
当主一族の威光も効いているため、ミズキに逆らうこともないだろう。
こうして盗賊の件は解決して、からし菜は採取できるようになった。
城下町に戻った後、ミズキたちに盗賊を任せてハンクを探すことにした。
最後に地震があってから時間が経過しているため、破損した外壁や民家の修繕は進んでいるようだった。
あれから火山活動は落ちついているようで、揺れは起きていないらしい。
街の人にたずねながら通りを歩いていくと、休憩中の大工の人たちを見つけた。
当然ながらサクラギの人は黒髪なのだが、その中にがっしりした体格の緑色の髪をした男がいた。
「ハンク、元気そうですね」
「お……おお、久しぶりだな。旅から戻ってきたのか?」
「はい、ヤルマとフェルトライン王国に行ってきました」
「そっち方面は行ったことがないから、どんなところか興味があるな」
俺が立ったまま話をしていると、大工の人たちが座るところを用意してくれた。
アデルと二人でそれぞれに腰を下ろして話を続けた。
ハンクとの会話に懐かしい感覚を覚えた。
「――そろそろ、休憩が終わりだ。今日は昼までだから、昼飯を食いがてら続きを聞かせてくれ」
「分かりました。近くでお茶でもしてます」
俺とアデルは修繕の現場を離れて歩き出した。
「あまり話せなかったけれど、充実しているみたいでよかったわ」
「力仕事が多そうですね。別れた時よりも身体つきが大きくなってましたから」
Sランク冒険者の仕事にしては派手さがないものの、サクラギの人たちに役立っていて、本人も満足しているのならそれでいいと思った。
ハンクの現場から少し歩いたところに茶店があり、アデルと世間話をしながらすごした。
正午の鐘が鳴った後、先ほどの場所へと戻った。
「お疲れ様です」
「待たせたな。近所に美味いそば屋があるから、そこでもいいか?」
「いいですよ。……ところで、そちらの女性は?」
ハンクの傍らに和服美人が立っている。
単なる知人にしては距離感が近いがもしや……。
「はじめまして、サユキと申します」
「実はな、この子と結婚するんだ」
「「はっ!?」」
俺とアデルの声が重なり、ハンクは愉快そうに笑った。
17
あなたにおすすめの小説
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる