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ダークエルフの帰還
ラーニャに起きた出来事
ブラスコは緊張した面持ちだったが、いつも通りの口調は崩さなかった。
リブラでの壮絶な日々を思えば、胆力があったとしてもおかしくはない。
彼の態度に勇気づけられる思いだった。
「じゃあ、わしのテントに来てもらおうかな。婿殿もついてきてね」
「分かりました」
「エンリちゃん、水差しに水を入れて持ってきて」
「承知しました」
俺とラーニャはブラスコに促されてテントへと移動した。
今回が初めてではないが、ブラスコのテントは広い空間が確保されている。
四角いテーブルを挟んで三人で向かい合うかたちで椅子に腰かけた。
「失礼します」
エンリケがトレーに水差しとグラスを乗せて持ってきた。
彼はそれをテーブルに置いて、そそくさとテントを出ていった。
「のどが渇いてない? よかったらどうぞ」
ブラスコはグラスに水を注いで、ラーニャに差し出した。
彼女はじっと中身に目を向けて、手を出さずに静止していた。
「……ああ、毒なんか入ってないよ。そんなことしても意味がないし」
ブラスコは自分のグラスにも同じ水を注ぎ、率先して飲んで見せた。
「お前はこの者たちの首領のようだ。私とて礼儀を弁えないわけではない」
「あははっ、そんな大層なもんではないけどね。遠慮なくどうぞ」
ラーニャはのどが渇いていたようで、一息にグラスの水を飲み干した。
すぐさまブラスコが注ぎ直したが、十分に潤ったようで手を伸ばさなかった。
「このマルクという男から、暗殺機構が壊滅したと聞いた。それは本当なのか?」
「暗殺機構? ベルンの凋落と並行して、今は跡形もないんじゃないかな。察するに命を狙われてここに隠れていたってところ?」
「そんなところだ。どうやらお前たちが私をだましているわけではないことは分かった。ただ、話を鵜吞みにするには情報が少ない」
ラーニャはブラスコの穏やかな話しぶりで、少し警戒を解いたようだった。
とはいっても、全幅の信頼となるには時間が必要のようだ。
誰も訪れない洞窟に隠れていた彼女のことが不憫に思えてしまう。
「この辺りにダークエルフはいませんけど、エルフの話なら信じてくれますか?」
半ば思いつきでラーニャに提案した。
彼女は不意を突かれたように反応して、両耳が驚きを表すようにピクリと動いた。
「私の知る限り、周辺にエルフはいないはずだ。歳月が流れてそれが変わったというのならその限りではないと思うが」
「分かりました。それじゃあ、俺が町まで連れてきますよ」
「同行者なしでお前一人で連れていくというのなら、その話を受けよう」
「それでいいですよ。馬車を一台借りられますか?」
ブラスコはこちらの投げかけに満面の笑みで応じた。
「もちろんだとも。そういえば、この人の名前は?」
「私はラーニャだ」
「ラーニャさん、よろしくね。わしはブラスコ」
お互いに名乗ったところで、ブラスコは馬車を用意させると言ってテントを出た。
ラーニャとテントに残された状態になり、何だか気まずい感じになる。
打ち解けるにはもう少し時間が必要であり、二人だけで移動するには場が持たないような気もした。
「これから案内するのはバラムという町です。俺の故郷ですけど、のどかでいいところですよ。馬車なら半日もかからずに行けます」
「……そうか。故郷は大切にした方がいい」
ラーニャはしんみりした空気を醸し出して、意味ありげに言った。
ここまでの話で故郷を追われたことは分かり、彼女にとって大切なことなのだと想像できた。
「お待たせー。すぐに出発できるから、いつでもいいよ」
「荷物をまとめる時間だけください」
「了解。ラーニャさんを案内しておくね」
「お願いします」
俺はそそくさとテントを出て、自分が泊まったテントに向かった。
探索用の荷物は携帯していたが、着替えや日用品は置いたままだった。
使わせてもらったベッドを整えた後、私物をまとめて収納した。
馬車が停めてあるところに向かうと、ブラスコとラーニャの姿があった。
二人は何かを話しているところだった。
馬がつながれており、出発の準備が整っているようだ。
「遺構の様子をラーニャさんに聞かせてもらったけども、第三階層まではモンスターを見かけなかったらしいよ」
「バラムから戻ってきたら、今後の探索についても聞かせてください」
「うんうん、そうさせてもらうね。それじゃあ、いってらっしゃい」
「色々とありがとうございます」
俺とラーニャは御者台の部分に乗りこんだ。
横長の席が一つで後ろの荷車は荷物専用になっている馬車だった。
少し距離を挟んで二人で横並びに座るかたちになっている。
「とりあえず、俺が手綱を持ちましょうか」
「馬車は始めてだ。お前に任せよう」
ここまでのラーニャの振る舞いを思えば殊勝な態度だった。
馬車は数える程度しか経験がないが、乗馬の応用と考えれば難しいことはない。
ベナード商会所有の馬は賢いようで、手綱を手に取っただけで歩き出した。
馬を従わせるのはあまり好きではないので、自分から動いてくれるのは助かる。
馬車はキャンプを出発した。
探索を切り上げて、アデルやエステルに会うためにバラムへ向かう。
リブラでの壮絶な日々を思えば、胆力があったとしてもおかしくはない。
彼の態度に勇気づけられる思いだった。
「じゃあ、わしのテントに来てもらおうかな。婿殿もついてきてね」
「分かりました」
「エンリちゃん、水差しに水を入れて持ってきて」
「承知しました」
俺とラーニャはブラスコに促されてテントへと移動した。
今回が初めてではないが、ブラスコのテントは広い空間が確保されている。
四角いテーブルを挟んで三人で向かい合うかたちで椅子に腰かけた。
「失礼します」
エンリケがトレーに水差しとグラスを乗せて持ってきた。
彼はそれをテーブルに置いて、そそくさとテントを出ていった。
「のどが渇いてない? よかったらどうぞ」
ブラスコはグラスに水を注いで、ラーニャに差し出した。
彼女はじっと中身に目を向けて、手を出さずに静止していた。
「……ああ、毒なんか入ってないよ。そんなことしても意味がないし」
ブラスコは自分のグラスにも同じ水を注ぎ、率先して飲んで見せた。
「お前はこの者たちの首領のようだ。私とて礼儀を弁えないわけではない」
「あははっ、そんな大層なもんではないけどね。遠慮なくどうぞ」
ラーニャはのどが渇いていたようで、一息にグラスの水を飲み干した。
すぐさまブラスコが注ぎ直したが、十分に潤ったようで手を伸ばさなかった。
「このマルクという男から、暗殺機構が壊滅したと聞いた。それは本当なのか?」
「暗殺機構? ベルンの凋落と並行して、今は跡形もないんじゃないかな。察するに命を狙われてここに隠れていたってところ?」
「そんなところだ。どうやらお前たちが私をだましているわけではないことは分かった。ただ、話を鵜吞みにするには情報が少ない」
ラーニャはブラスコの穏やかな話しぶりで、少し警戒を解いたようだった。
とはいっても、全幅の信頼となるには時間が必要のようだ。
誰も訪れない洞窟に隠れていた彼女のことが不憫に思えてしまう。
「この辺りにダークエルフはいませんけど、エルフの話なら信じてくれますか?」
半ば思いつきでラーニャに提案した。
彼女は不意を突かれたように反応して、両耳が驚きを表すようにピクリと動いた。
「私の知る限り、周辺にエルフはいないはずだ。歳月が流れてそれが変わったというのならその限りではないと思うが」
「分かりました。それじゃあ、俺が町まで連れてきますよ」
「同行者なしでお前一人で連れていくというのなら、その話を受けよう」
「それでいいですよ。馬車を一台借りられますか?」
ブラスコはこちらの投げかけに満面の笑みで応じた。
「もちろんだとも。そういえば、この人の名前は?」
「私はラーニャだ」
「ラーニャさん、よろしくね。わしはブラスコ」
お互いに名乗ったところで、ブラスコは馬車を用意させると言ってテントを出た。
ラーニャとテントに残された状態になり、何だか気まずい感じになる。
打ち解けるにはもう少し時間が必要であり、二人だけで移動するには場が持たないような気もした。
「これから案内するのはバラムという町です。俺の故郷ですけど、のどかでいいところですよ。馬車なら半日もかからずに行けます」
「……そうか。故郷は大切にした方がいい」
ラーニャはしんみりした空気を醸し出して、意味ありげに言った。
ここまでの話で故郷を追われたことは分かり、彼女にとって大切なことなのだと想像できた。
「お待たせー。すぐに出発できるから、いつでもいいよ」
「荷物をまとめる時間だけください」
「了解。ラーニャさんを案内しておくね」
「お願いします」
俺はそそくさとテントを出て、自分が泊まったテントに向かった。
探索用の荷物は携帯していたが、着替えや日用品は置いたままだった。
使わせてもらったベッドを整えた後、私物をまとめて収納した。
馬車が停めてあるところに向かうと、ブラスコとラーニャの姿があった。
二人は何かを話しているところだった。
馬がつながれており、出発の準備が整っているようだ。
「遺構の様子をラーニャさんに聞かせてもらったけども、第三階層まではモンスターを見かけなかったらしいよ」
「バラムから戻ってきたら、今後の探索についても聞かせてください」
「うんうん、そうさせてもらうね。それじゃあ、いってらっしゃい」
「色々とありがとうございます」
俺とラーニャは御者台の部分に乗りこんだ。
横長の席が一つで後ろの荷車は荷物専用になっている馬車だった。
少し距離を挟んで二人で横並びに座るかたちになっている。
「とりあえず、俺が手綱を持ちましょうか」
「馬車は始めてだ。お前に任せよう」
ここまでのラーニャの振る舞いを思えば殊勝な態度だった。
馬車は数える程度しか経験がないが、乗馬の応用と考えれば難しいことはない。
ベナード商会所有の馬は賢いようで、手綱を手に取っただけで歩き出した。
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