異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
428 / 555
ダークエルフの帰還

ツヌーク山の謎

しおりを挟む
 今回の騒動への見解が一致したところで、再びツヌーク山に向けて出発した。
 俺を含めた四人とも体力に余裕があるようで、足並みはしっかりとしている。
 人があまり立ち寄らなくなった影響が関係するのか、ネズミなどの小動物が顔を覗かせて、遠くの方にはシカの気配が感じられた。
 ゴブリンなどのモンスターはいないようで、マリオからもそういった話は聞かなかった。
 
 引き続き地図を元にして現在地に注意していると、ツヌーク山の麓に近づいた。
 ちょうど近くに看板が立っており、分岐点の先が山頂であることが分かる。 
 標高があまり高くないからなのか、登山口の先は緩やかな勾配が続いていた。

「山の麓に到着しましたけど、特に気になる点は見当たらないですね」

「たしかに至って普通の山って感じかな。登山客がいないのは噂が浸透しているってことだよ」

 クリストフと言葉を交わしながら、周囲の様子に注意を向ける。
 麓から山頂に向けて登山道が延びており、この辺りも自然が豊かだった。
 危険なモンスターという存在に結びつかない印象を受ける。

「どうします? とりあえず山頂を目指しますか?」

「それでいいと思います。見る限り脅威となりそうなものはありません」

「僕もマルクくんに賛成。まずは実際に確認しておこう」

 リリアとクリストフは同意を示してくれた。
 一方、ラーニャは難しそうな顔をしている。
 基本的な似たような表情でいることが多いのだが、ちょっとした違いが見極められるようになっていた。

「もしかして、何か気になることがありますか?」

「……いや、大したことではない。私も山頂に行こう」

 ラーニャは何かを気にかけている様子だが、無理に聞き出すわけにはいかない。
 四人の意見が一致したので、ひとまず山頂まで行って調べるところから始めよう。

 麓から続く登山道は緩やかな傾斜になっている。
 とはいえ、平坦な遊歩道よりも歩くのに体力が必要だろう。
 この辺りの気温は低めのため、暑さに困ることはないはずだ。
 頭上に木々が覆いかぶさり、日陰になることで涼しく感じる。
 
 時折、小鳥の鳴き声や聞いたことのない虫の音が届いて、豊かな自然を満喫するような心地になる。
 やはり、危険なモンスターが出るというのは誤った情報が広まっただけで、実はそんなものは存在しないというのが事実なのではないか。
 楽観的な考えかもしれないが、その可能性が妥当な気がしてきた。

 ラーニャはどこか違和感を抱かせる表情だが、リリアとクリストフは元気な様子で歩いている。
 王都で暮らす二人にとって、緑が豊かな環境はリフレッシュできるのだろう。
 異変が見当たらないとはいえ気を緩めるわけにもいかず、周囲を警戒しながら歩を進めた。

 やがて道の先に山頂が見えた。
 途中までは緩やかな勾配だったが、その手前には傾斜がついていた。
 手を借りなければいけないほどではなく、順番に上がることで山頂に到着した。

「ここは見晴らしがいいなあ」

 澄んだ青空と大きく開けた視界に広がる緑。
 素晴らしい景色に思わず声が出ていた。

 いくらか標高が高いため、周りを見下ろすかたちになっていた。
 遠くにはさらに大きな山がそびえて、下方には森林が広がっている。
 これだけ眺めがいい場所ならば、デュラスの人たちから人気があってもおかしくないように思われた。

 引き続きラーニャは難しい顔をしており、リリアとクリストフは心の洗濯をしているようなすっきりした顔つきだった。
 俺も鼻から空気を吸いこんで、ぐっと両腕を上げて背伸びをした。

 今のところ、マリオが懸念していることが掴めたわけではない。
 ここまで何もないと手がかりが見つからない気さえしてきた。
 ランス王国ならともかく、ここの土地勘がないことも大きいだろう。 
 気分転換が目的ではないため、山頂付近を調べてから下山することにした。

「結局、何も見つからなかったね」

 山頂を離れるところで、クリストフが声をかけてきた。
 兵士長として責任感があるからなのか、手がかりがないことを残念がっている。
 当然ながら彼ほどの男ならば、気分転換は二次的なものだと考えているはずだ。  

「冒険者として考えるなら何もない時も報告して、次にできることを考えます。マリオさんはお客が戻ることを望んでいるので、できる限りのことで協力するのも大事じゃないですか」

「その通りだね。兵士の僕に何ができるか分からないけれど、もう少し考えてみるよ」

 クリストフはさわやかな受け答えをした。
 どんな時でも感じがいいところは尊敬に値する。

 会話が途切れたところで移動を再開する。
 山頂に広がる平らな場所から下りの傾斜に近づいたところで、唐突に突き刺すような寒さを感じた。

「……あれ、何が起きたんだ?」

 段差があるところを下りるのに、何かに注意が逸れていては危険が伴う。
 俺は足を止めて状況を観察した。
 するとそこで、信じられない光景が目に入った。

 ついさっきまで抜けるような晴天が広がっていたのに、急激に空が曇って吹雪が舞い始めた。
 吹きつける風は強く、傾斜の下に落ちないように山頂側に引き返した。
 ここまでの寒さは予想していなかったため、今着ている衣服では雪と寒さをしのげそうにない。

「クリストフさん? ……誰かいませんか?」

 ほんの少しの前に会話をしていた相手がどこにも見当たらない。
 彼だけでなく、リリアやラーニャの姿も見失った。

「……これはまずいな」

 吹雪で視界が悪く、山頂を離れることもままならない。
 そんな状況で孤立してしまったようだ。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...