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ダークエルフの帰還
特製アップルパイ
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田舎にあるような素朴な食堂ならばいざ知らず。
ここ喫茶フィーカではメニュー表にこだわりが感じられる。
特に一押しはリンゴを使ったデザートのようだ。
装飾された文字に可愛らしいイラストが添えられている。
「この辺りはリンゴがよく採れるんですか?」
「はい! 雪のない時期にたくさん収穫できます。ちなみにあたしのおすすめはアップルパイです!」
リンゴのことに話題が及ぶと元気が何割か増しになった。
おそらく特産品のようで、店の娘の話しぶりに力が入っている。
「じゃあ、それと温かい紅茶を。どうぞ、みんなも頼んでください」
意図せず、先に注文するかたちになってしまった。
少しばかり申し訳ない気持ちになりつつ、テーブルに出されていたグラスに手を伸ばす。
適度に冷えた水がのどを通り、潤うような感触が伝わってきた。
結局、アップルパイを頼んだのは俺だけだった。
リリアとラーニャは焼きリンゴと紅茶
を注文して、クリストフはドリンクのみの注文だ。
店の娘が立ち去った後、くつろげる店内の雰囲気を感じながら会話を始める。
「この後は酒場で情報収集ですね」
「ギルドがあれば集めやすいけれど、エスタンブルクは冒険者がいないらしい」
「ある程度の規模の国ではいない方が珍しいですけど。何か冒険者がいない理由があるんですかね」
いささか疑問ではあるが、置かれた状況を整理すると妥当な気もする。
モンスターの数がランス王国周辺に比べると少ないようで、わざわざ依頼をしなければいけないほどのことが少ないような印象がある。
トローサの村からカルンへの道中において、モンスターを見かけることはほとんどなかった。
日常的な修理や見回り、ちょっとした仕事ならば冒険者までいかなくとも、街の便利屋などがいれば十分な気がした。
この街の規模を考えれば鍛冶師や金物屋、木工を扱う職人はさすがにいるだろう。
バラムにも便利屋的に一般家庭の雑務を担う職業はあるものの、冒険者とは明確な線引きがある。
俺がそんなことを考える間、リリアとクリストフは世間話をしており、ラーニャは興味深そうにメニュー表を眺めていた。
やがて先ほどの娘がドリンクや料理を運んできた。
「――飲みものから先に置いていきますねー」
テーブルにティーポッドが置かれて、三つのカップが用意された。
これは俺とリリアにラーニャの分だ。
続いて、クリストフの分のドリンクが提供される。
「ええと、こちらがシナモンミルクティーです」
「ありがとう。僕の分だね」
店の娘は引き続きクリストフに照れていた。
なんだか微笑ましい様子なので、あえて触れずに紅茶に手をつけることにする。
ちなみに名前の通りにシナモンが効いているようで、こちらまでいい香りが漂っている。
それからさらに少しして、アップルパイと焼きリンゴが運ばれてきた。
どちらも作ったばかりであることが分かるように湯気が浮かんでいる。
焼きリンゴにもシナモンが使われているようで、クリストフが注文したミルクティーと同じように香りがしている。
店の娘は料理の提供を終えると別のテーブルに注文を聞きに行った。
「俺はアップルパイ一択でしたけど、焼きリンゴも美味しそう」
「加熱されてとろけたリンゴ、たっぷりの生クリーム。これはたまりません」
リリアがうっとりするような表情を見せた。
アップルパイは味で勝負といったところで、焼きリンゴは味だけでなく見た目にも力を入れているように感じられた。
早速、ナイフとフォークを手に取り、食べやすい大きさに切り分ける。
サクサクの生地は適度な弾力があり、少し力を入れるときれいに切れた。
中に詰まったフィリングは黄金色に輝き、リンゴの粒は均等な大きさだった。
なかなかお目にかかれないクオリティなせいか、期待と緊張が高まる。
意を決して切り分けたうちの一つにフォークを刺し、おもむろに口へと運ぶ。
まだ熱が残っていることで噛むほどに生地の食感が伝わってきた。
フィリングにはほんのりと甘みがあり、リンゴの味を十分に感じることができる。
ここまで質が高いとは……予想外の出会いだった。
「すみません、俺たちだけ食べてしまって」
「ううん、気にせず食べてよ。それにこのミルクティー、なかなかいける」
クリストフは満足そうにカップを傾ける。
追加で注文するほどではないが、美味しそうに見えた。
アップルパイを数切れ食べてから紅茶を飲んでみると、味が組み合わさり満たされるような感覚になった。
最初は気づかなかったものの、菓子に合う茶葉が選ばれているように感じる。
そのうちに思い思いに食事を味わう時間になった。
会話は途切れたものの、特に気になることではない。
リリアとラーニャは焼きリンゴに夢中な様子で、クリストフはくつろいだ表情で店内を眺めながらミルクティーをすすっている。
そんな彼らに視線を向けた後、残りのアップルパイを口へと運ぶ。
名残り惜しいところだが、やがて最後の一切れを食べ終えた。
食後に少しぬるくなった紅茶を含むと、言葉で言い表すことが難しい満たされるような心地になった。
くつろぎやすい店の雰囲気と美味しいアップルパイの余韻に浸っていたいと思った。
あとがき
更新の間隔が空いており、お待たせしております。
いつも続き読んで頂き、ありがとうございます。
いいねやエールも励みになっています。
ここ喫茶フィーカではメニュー表にこだわりが感じられる。
特に一押しはリンゴを使ったデザートのようだ。
装飾された文字に可愛らしいイラストが添えられている。
「この辺りはリンゴがよく採れるんですか?」
「はい! 雪のない時期にたくさん収穫できます。ちなみにあたしのおすすめはアップルパイです!」
リンゴのことに話題が及ぶと元気が何割か増しになった。
おそらく特産品のようで、店の娘の話しぶりに力が入っている。
「じゃあ、それと温かい紅茶を。どうぞ、みんなも頼んでください」
意図せず、先に注文するかたちになってしまった。
少しばかり申し訳ない気持ちになりつつ、テーブルに出されていたグラスに手を伸ばす。
適度に冷えた水がのどを通り、潤うような感触が伝わってきた。
結局、アップルパイを頼んだのは俺だけだった。
リリアとラーニャは焼きリンゴと紅茶
を注文して、クリストフはドリンクのみの注文だ。
店の娘が立ち去った後、くつろげる店内の雰囲気を感じながら会話を始める。
「この後は酒場で情報収集ですね」
「ギルドがあれば集めやすいけれど、エスタンブルクは冒険者がいないらしい」
「ある程度の規模の国ではいない方が珍しいですけど。何か冒険者がいない理由があるんですかね」
いささか疑問ではあるが、置かれた状況を整理すると妥当な気もする。
モンスターの数がランス王国周辺に比べると少ないようで、わざわざ依頼をしなければいけないほどのことが少ないような印象がある。
トローサの村からカルンへの道中において、モンスターを見かけることはほとんどなかった。
日常的な修理や見回り、ちょっとした仕事ならば冒険者までいかなくとも、街の便利屋などがいれば十分な気がした。
この街の規模を考えれば鍛冶師や金物屋、木工を扱う職人はさすがにいるだろう。
バラムにも便利屋的に一般家庭の雑務を担う職業はあるものの、冒険者とは明確な線引きがある。
俺がそんなことを考える間、リリアとクリストフは世間話をしており、ラーニャは興味深そうにメニュー表を眺めていた。
やがて先ほどの娘がドリンクや料理を運んできた。
「――飲みものから先に置いていきますねー」
テーブルにティーポッドが置かれて、三つのカップが用意された。
これは俺とリリアにラーニャの分だ。
続いて、クリストフの分のドリンクが提供される。
「ええと、こちらがシナモンミルクティーです」
「ありがとう。僕の分だね」
店の娘は引き続きクリストフに照れていた。
なんだか微笑ましい様子なので、あえて触れずに紅茶に手をつけることにする。
ちなみに名前の通りにシナモンが効いているようで、こちらまでいい香りが漂っている。
それからさらに少しして、アップルパイと焼きリンゴが運ばれてきた。
どちらも作ったばかりであることが分かるように湯気が浮かんでいる。
焼きリンゴにもシナモンが使われているようで、クリストフが注文したミルクティーと同じように香りがしている。
店の娘は料理の提供を終えると別のテーブルに注文を聞きに行った。
「俺はアップルパイ一択でしたけど、焼きリンゴも美味しそう」
「加熱されてとろけたリンゴ、たっぷりの生クリーム。これはたまりません」
リリアがうっとりするような表情を見せた。
アップルパイは味で勝負といったところで、焼きリンゴは味だけでなく見た目にも力を入れているように感じられた。
早速、ナイフとフォークを手に取り、食べやすい大きさに切り分ける。
サクサクの生地は適度な弾力があり、少し力を入れるときれいに切れた。
中に詰まったフィリングは黄金色に輝き、リンゴの粒は均等な大きさだった。
なかなかお目にかかれないクオリティなせいか、期待と緊張が高まる。
意を決して切り分けたうちの一つにフォークを刺し、おもむろに口へと運ぶ。
まだ熱が残っていることで噛むほどに生地の食感が伝わってきた。
フィリングにはほんのりと甘みがあり、リンゴの味を十分に感じることができる。
ここまで質が高いとは……予想外の出会いだった。
「すみません、俺たちだけ食べてしまって」
「ううん、気にせず食べてよ。それにこのミルクティー、なかなかいける」
クリストフは満足そうにカップを傾ける。
追加で注文するほどではないが、美味しそうに見えた。
アップルパイを数切れ食べてから紅茶を飲んでみると、味が組み合わさり満たされるような感覚になった。
最初は気づかなかったものの、菓子に合う茶葉が選ばれているように感じる。
そのうちに思い思いに食事を味わう時間になった。
会話は途切れたものの、特に気になることではない。
リリアとラーニャは焼きリンゴに夢中な様子で、クリストフはくつろいだ表情で店内を眺めながらミルクティーをすすっている。
そんな彼らに視線を向けた後、残りのアップルパイを口へと運ぶ。
名残り惜しいところだが、やがて最後の一切れを食べ終えた。
食後に少しぬるくなった紅茶を含むと、言葉で言い表すことが難しい満たされるような心地になった。
くつろぎやすい店の雰囲気と美味しいアップルパイの余韻に浸っていたいと思った。
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