異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
460 / 561
ダークエルフの帰還

肉選びとマルク

 精肉店の一軒目、二軒目と見ていくうちに好奇心が刺激されていくのを感じた。
 どうやら店ごとに扱う肉の種類が違うようで、鳥肉中心の店があれば豚肉しか取り扱いのない店もある。
 どの店も鮮度管理がしっかりしているようで、使ってもいいような気になる。
 しかしそれでも、勝負どころで使うのならば牛肉を選びたい。

 ほぼ無言で肉を吟味する状態をリリアに申し訳なく思いつつ、やがて俺たちは牛肉専門の店の前で足を止めた。
 この店はひと目で品揃えが充実しているのが分かる陳列をしていた。

「らっしゃい。お客さんは旅の人だね?」

「はい、そうです」

「ようこそカルンの街へ! うちは品質に自信ありだから寄ってきなよ」

 店主は体格のいいおじさんだった。
 自分でも肉をしっかり食べているように見える体型だ。
 柔和な顔つきのおかげで接しやすい印象を受ける。

 ほどほどに言葉を交わしてから、陳列された肉の数々へと視線を注ぐ。
 今までに仕入れ先のセバスから色んな部位を紹介されたものの、この店で売っているのは名前の知らないものがいくつか見受けられる。
 魅力的な品揃えの中で一つの商品に目が留まった。
 
「その腸詰め美味しそうですね」

「おお、お目が高い。こいつはうちの自家製だから美味しいよ」

 俺は店主に笑顔で応じつつ、腸詰めから視線を外して品定めを続ける。
 腸詰めならば焼くだけでも美味いと思うが、それでは料理をする甲斐が薄れてしまうような気がするのだ。
 とはいえ、ステーキの類も焼くだけと言ってしまえばそれまでなのだが。

「ちなみに今日の中だと、そこのブリスケがおすすめだね」

 店主が指先で示したのは大きめの塊にスライスされている肉だった。
 牛肉なのにブリとはどういうことかと混乱しそうだったが、見るからに肉なので部位の名前だと理解できた。

「きれいにサシが入っていて質が高そうですね。お高いんでしょう?」

「いやそれほどでもないよ。そういえば、お客さんたちはどこから来たんだい?」

「俺たちはランス王国から来ました」

「それまた遠いところから。この国は牛の牧畜が盛んで、よそよりも相場が安いらしいよ」

 店主は感心したように漏らすと、何かおまけしないとなーとつぶやいた。
 価格というのは需要と供給のバランスで、供給が充実していればそれだけ価格は下がりやすくなる。
 エスタンブルクのように寒い国は牧畜に向いているとは思えないものの、標高が低い平野部を選ぶなどして工夫しているのだろう。
 
「エスタンブルクの肉事情をもっと聞きたいんですけど、人を待たせているので。そこのブリスケを買わせてもらいます」

 俺は希望する大きさへのカットを依頼して、必要な量を伝えた。
 店主は慣れた手つきでブリスケを塊から薄くした状態に切り分けた後、包み紙にくるんで渡してくれた。
 それから支払いを済ませるとおまけに袋に入った腸詰めを譲ってくれた。

「まとまった量を買ってくれてありがとう。腸詰めはホントに美味しいから、よかったら食べてみて」

「こちらこそ、いいお肉をありがとうございます」

 店主と笑顔であいさつを交わして、精肉店の前を離れる。
 調理場をたずねた際にダイモンから約二十人前の量を作っていると聞いたので、ブリスケもそれに合わせた量を購入した。 
 そのため購入したブリスケと腸詰めを持参した布袋に入れると重みを感じた。
 
 布袋を抱えながらリリアと二人で露店が並ぶ中を歩く。
 肉メインの料理で考えているが、これから付け合わせに使う材料を選んでいたら時間がかかってしまう。
 それに調理場では主食と副菜を兼ねるガレを用意していたので、一品料理を提供するだけでも十分だろう。

「これで材料が揃ったので、ヒイラギに戻ります」

「はい……」

「どうしました?」

 リリアが歯切れの悪い返事をした。
 もしかして、何か買っておきたいものでもあるのだろうか。
 そこでふと、どこからか甘い匂いが漂ってくるのに気づいた。
 匂いの元とリリアの視線は同じ方向を向いていた。
 どうやら、彼女はこの匂いが気になるようだ。
 
「あっ、なるほど。御者をしてもらいましたし、もう一軒寄るぐらいの時間はありますよ」

「私のために申し訳ありません。とてもいい匂いで気になってしまって」

 リリアは照れくさそうに笑みを浮かべた。
 慎ましい性格に感心しつつ、遠慮がちな彼女を先導するように一軒の露店に向かう。

 そこは必要最低限の設備ときれいな色に塗装された店だった。
 レモン色の外観からは可愛らしい印象を受ける。

「いらっしゃいませ!」

 店に近づくとエプロンを身につけた若い女性が俺たちに声をかけてきた。
 その手にはお玉のようなものが握られており、鍋の中をかき混ぜていた。
 冷えた空気の影響で鍋からは湯気が上がっている。

「甘い匂いに釣られて来ちゃいました」

「ははっ、よく言われるんですよ」

 露店の女性は笑顔で応じながら手を動かしている。

「ちなみにそれは?」

「はちみつミルクです! 身体は温まるし、甘くてほっこりする味です」

 女性の説明を聞いた後、リリアの様子を確かめる。
 リリアがしっかりと頷いたので、買ってみることにした。

「じゃあ、それを二杯ください」

「ありがとうございます!」

 俺は代金を聞いてから、硬貨を店先のトレーに置いた。
 露店の女性は手際よくこげ茶色のマグカップにはちみつミルクを注いだ。


 あとがき
 いつも読んで頂き、ありがとうございます。
 エールやいいねも励みになっています。
 ダークエルフのラーニャの目標が達成できたら完結しようと思い立ってから、
 今月で数か月が経ちます(笑) 
 更新頻度は下がっていますが、エピローグまで書き上げることができたらと思います。
感想 30

あなたにおすすめの小説

転生三男のまったり開発記 ~魔法がなくても、前世の知識とガラクタいじりで世界を便利に変えていきます~

戯言の遊び
ファンタジー
【前世のオタク知識で、不便な異世界をちょっと便利に大改造!】 前世は「何でも屋」の息子で、機械の解体と研究をこよなく愛する技術オタク。 そんな俺が転生したのは、魔法が存在するものの非常に不便な中世レベルのファンタジー世界だった。 しかも、辺境を治める貧乏男爵家の三男坊という、家督の重圧もない完全なる「自由枠」 豊かな自然という名の素材の宝庫を前に、俺の技術オタクとしての血が騒がないわけがない! 風で飛んでいく洗濯物と手荒れに悩むメイドのため、ただの木切れを削って作った『洗濯バサミ』 それが屋敷中で大絶賛されたのを皮切りに、気難しい凄腕の鍛冶職人や、利益の匂いに敏い若き女商人を巻き込んで、俺の「ちょっと便利なモノづくり」はどんどんエスカレートしていくことに!? 大げさな魔法もチートもない。 けれど、前世の知識と底なしの探究心で、不便な世界をまったりと便利に成り上がっていく、三男坊の領地開発記!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~

幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン異世界ファンタジー女性主人公部門 週間ランキング4位!★ 山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。 神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。 ①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】 ②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】 ③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】 私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること! のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!? 「私の安眠のため、改革します!」 チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身! 現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……? 気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!? あれ、私のスローライフはどこへ? これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。 【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】 第1章 森の生活と孤児院改革(完結済) 第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中) 第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ! 第4章 王都は誘惑の香り 第5章 救国のセラピー 第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション 第7章 領主様はスローライフをご所望です 第8章 プロジェクト・コトリランド 第9章 ヤマネコ式教育改革 第10章 魔王対策は役員会にて 第11章 魔王城、買収しました(完結予定)

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。