462 / 555
ダークエルフの帰還
調理場を使う
しおりを挟む
声をかけた相手は引き締まった体躯の青年で、ダイモン隊長の部下のように見えた。
包丁や鍋の扱いよりも剣の扱いの方が得意そうな外見である。
「すみません。調理場を借りたいんですけど」
「それなら隊長から聞いてます。どうぞ好きに使ってください」
「ありがとうございます」
彼は手短に答えて立ち去った。
先ほどまでの慌ただしさは落ちついているが、まだ片づけが残っているようだ。
全体の様子を眺めていると、俺の質問に応じてくれた青年が洗い終わった調理器具をしまっているのが見える。
やがて人の気配がまばらになり、動線が重ならないことを確認したところで、空いた調理台に食材の入った袋を乗せた。
当初は付け合わせ程度に野菜を調理することを考えていたが、先に運ばれた料理にたっぷりあった。
そのため、俺が作る料理はがっつり肉という感じで問題ないと判断した。
調理の様子を見ていたので、どの道具がどこにあるかはだいたい記憶している。
俺は包丁やまな板などの必要ものを集めて調理台に乗せた。
ダイモンの協力がなければ部外者として追い出されたはずだが、残っている人たちも我関せずといった様子なおかげでやりやすい。
食材を仕入れてからここに至るまで、手に入ったブリスケでステーキを作るべきか考えていた。
しかし、ヒイラギの面々は和風国家であるサクラギから赴任しているため、ここにはナイフとフォークが見当たらない。
塊肉をドンと焼いて出したところで、嚙みきれない上に食べにくい。
「……やっぱり、Bプランにしておこうか」
鉄板や鉄網、それに焼き台がないため焼肉をしてもらうことはできない。
しかし、刻んだ肉をフライパンで炒めて、タレを添えれば完成度を近づけることは可能である。
それにブリスケは脂が多いので、適度にカットして火を通しても美味しく食べられる。
俺は塊に近い状態のブリスケをまな板に置いて、身体になじんだ動きでカットを始める。
刃が通りにくいような部位ならばともかく、ブリスケは普段使うような肉と大差ない柔らかさだった。
難しく考えるまでもなく、自分が必要とする大きさで枚数が揃っていった。
「――よし、こんなところだ」
スムーズにカットが完了して、ほどよい満足感を覚えた。
すでに味噌のような調味料は確認してあるし、それ以外にも使えそうなものは数種類あった。
そして、最初に調理場へ来た時、俺の目が間違いでなければ最も使いたい調味料を見かけた。
一旦、調理台から離れて調味料の確認へと向かう。
調味料は棚に整理されているため、簡単に見つけることができた。
ここで料理をする人たちは几帳面な性格が多いのかもしれない。
以前、サクラギでしょうゆが使われていることを確認しており、自分の店でも取り入れて久しい。
この調理場でも同じような容器で保存しており、ふたを開けたところでそれがしょうゆであると確信した。
容器から必要な分だけ取り出して、タレを作る容器に注ぐ。
ついでに甘みの調整に使う砂糖を追加して、空いた手でニンニクを掴んで調理台へと引き返した。
実際に使う前に味を確かめてみると、黒い液体は風味のいいしょうゆだった。
「うんうん、この味。これなら使える」
タレの完成形が予想できたところで、肝心のブリスケを焼くことにする。
きれいな状態のフライパンを手に取り、かまどへと向かう。
「火の始末はこちらでやっておくので、そのままでいいですよ」
「了解っす。灰は後で片づけるんで、火を消したらそのままで」
ちょうど調理担当の人がかまどの火を消すところだった。
俺の申し出に快く応じてくれたので、フライパンを火の上に置く。
調理が済んでから時間が経っているため、そこまでの火力はない。
むしろこれは、手間が省けると思った。
なぜならば、強すぎる火ではブリスケに火が通るのが早すぎる。
鮮度のいい牛肉であれば固くなるほど火を通さなくても十分に食べられる。
それに脂の旨みや食感を味わうためにも、ミディアムないしミディアムレアぐらいの火加減が適しているのだ。
フライパンを置いたまま、かまどの様子を確認して上に油を薄く引いた。
そこで調理台のところから切り分けたブリスケを運んでくる。
あらかじめ予想できていたことだが、二十人前となると一気に焼くことは難しい。
もしもの時はリリアやクリストフ、あるいはダイモンの手を借りようと思っていた。
「まあダメでもともと……彼らに頼んでみるか」
ダイモンが普段は兵士だという人たち。
彼らの中に手持ち無沙汰にしている人はおらず、それぞれ何かしらの作業をしているところだった。
その中で区切りがついたと思われる人に声をかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「……はい、何っすか」
俺がたずねてくることを予期しなかったのか、相手は少し驚いた様子だった。
すぐに立ち去ろうとするわけではないので、こちらの話を聞いてくれそうだ。
「配膳の人手が足りないので、手を貸してもらえたら助かるんですけど……」
モモカに出す料理とはいえ、見ず知らずの人に頼むのは気が引ける。
「はいはい、そうっすか。隊長から邪魔するなとだけ言われたもんで」
「じゃあ、お願いできますか?」
「もちろんです! 何でもおっしゃってくださいっす」
「ありがとうございます!」
たずねた相手が笑みを浮かべたことで安心感を抱いた。
配膳さえどうにかなれば、手順に問題はないだろう。
包丁や鍋の扱いよりも剣の扱いの方が得意そうな外見である。
「すみません。調理場を借りたいんですけど」
「それなら隊長から聞いてます。どうぞ好きに使ってください」
「ありがとうございます」
彼は手短に答えて立ち去った。
先ほどまでの慌ただしさは落ちついているが、まだ片づけが残っているようだ。
全体の様子を眺めていると、俺の質問に応じてくれた青年が洗い終わった調理器具をしまっているのが見える。
やがて人の気配がまばらになり、動線が重ならないことを確認したところで、空いた調理台に食材の入った袋を乗せた。
当初は付け合わせ程度に野菜を調理することを考えていたが、先に運ばれた料理にたっぷりあった。
そのため、俺が作る料理はがっつり肉という感じで問題ないと判断した。
調理の様子を見ていたので、どの道具がどこにあるかはだいたい記憶している。
俺は包丁やまな板などの必要ものを集めて調理台に乗せた。
ダイモンの協力がなければ部外者として追い出されたはずだが、残っている人たちも我関せずといった様子なおかげでやりやすい。
食材を仕入れてからここに至るまで、手に入ったブリスケでステーキを作るべきか考えていた。
しかし、ヒイラギの面々は和風国家であるサクラギから赴任しているため、ここにはナイフとフォークが見当たらない。
塊肉をドンと焼いて出したところで、嚙みきれない上に食べにくい。
「……やっぱり、Bプランにしておこうか」
鉄板や鉄網、それに焼き台がないため焼肉をしてもらうことはできない。
しかし、刻んだ肉をフライパンで炒めて、タレを添えれば完成度を近づけることは可能である。
それにブリスケは脂が多いので、適度にカットして火を通しても美味しく食べられる。
俺は塊に近い状態のブリスケをまな板に置いて、身体になじんだ動きでカットを始める。
刃が通りにくいような部位ならばともかく、ブリスケは普段使うような肉と大差ない柔らかさだった。
難しく考えるまでもなく、自分が必要とする大きさで枚数が揃っていった。
「――よし、こんなところだ」
スムーズにカットが完了して、ほどよい満足感を覚えた。
すでに味噌のような調味料は確認してあるし、それ以外にも使えそうなものは数種類あった。
そして、最初に調理場へ来た時、俺の目が間違いでなければ最も使いたい調味料を見かけた。
一旦、調理台から離れて調味料の確認へと向かう。
調味料は棚に整理されているため、簡単に見つけることができた。
ここで料理をする人たちは几帳面な性格が多いのかもしれない。
以前、サクラギでしょうゆが使われていることを確認しており、自分の店でも取り入れて久しい。
この調理場でも同じような容器で保存しており、ふたを開けたところでそれがしょうゆであると確信した。
容器から必要な分だけ取り出して、タレを作る容器に注ぐ。
ついでに甘みの調整に使う砂糖を追加して、空いた手でニンニクを掴んで調理台へと引き返した。
実際に使う前に味を確かめてみると、黒い液体は風味のいいしょうゆだった。
「うんうん、この味。これなら使える」
タレの完成形が予想できたところで、肝心のブリスケを焼くことにする。
きれいな状態のフライパンを手に取り、かまどへと向かう。
「火の始末はこちらでやっておくので、そのままでいいですよ」
「了解っす。灰は後で片づけるんで、火を消したらそのままで」
ちょうど調理担当の人がかまどの火を消すところだった。
俺の申し出に快く応じてくれたので、フライパンを火の上に置く。
調理が済んでから時間が経っているため、そこまでの火力はない。
むしろこれは、手間が省けると思った。
なぜならば、強すぎる火ではブリスケに火が通るのが早すぎる。
鮮度のいい牛肉であれば固くなるほど火を通さなくても十分に食べられる。
それに脂の旨みや食感を味わうためにも、ミディアムないしミディアムレアぐらいの火加減が適しているのだ。
フライパンを置いたまま、かまどの様子を確認して上に油を薄く引いた。
そこで調理台のところから切り分けたブリスケを運んでくる。
あらかじめ予想できていたことだが、二十人前となると一気に焼くことは難しい。
もしもの時はリリアやクリストフ、あるいはダイモンの手を借りようと思っていた。
「まあダメでもともと……彼らに頼んでみるか」
ダイモンが普段は兵士だという人たち。
彼らの中に手持ち無沙汰にしている人はおらず、それぞれ何かしらの作業をしているところだった。
その中で区切りがついたと思われる人に声をかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「……はい、何っすか」
俺がたずねてくることを予期しなかったのか、相手は少し驚いた様子だった。
すぐに立ち去ろうとするわけではないので、こちらの話を聞いてくれそうだ。
「配膳の人手が足りないので、手を貸してもらえたら助かるんですけど……」
モモカに出す料理とはいえ、見ず知らずの人に頼むのは気が引ける。
「はいはい、そうっすか。隊長から邪魔するなとだけ言われたもんで」
「じゃあ、お願いできますか?」
「もちろんです! 何でもおっしゃってくださいっす」
「ありがとうございます!」
たずねた相手が笑みを浮かべたことで安心感を抱いた。
配膳さえどうにかなれば、手順に問題はないだろう。
22
あなたにおすすめの小説
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる