異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
482 / 561
彼女たちの未来

静かな決意

 ひとしきり喜ぶ様子が落ち着いたところで、皆を見渡して口を開く。

「……ただし、本格的に準備を始めるには、いくつかやることがあります」

 端的にそう告げてから、皆の視線がこちらに集まるのを感じた。
 
「モモカさんとの打ち合わせ、カルンでの出店許可、品揃えについて……あとは誰が中心になって動くかも決めないといけませんね」

 それぞれに説明した内容を理解しようとしているのか、ダークエルフの人たちは口を閉ざしていた。
 成り行きを見守っていると、意を決したような様子のフレイが一歩前に出た。

「私が進行役を引き受けます。薬草の知識は私が一番詳しいので。話をまとめることもできると思います」

 控えめながらも決意のこめられた声だった。 
 フレイのそんな様子に周囲の仲間たちが目を合わせてうなずき合う。

「それなら安心ですね」

 そう応じると、フレイが少し照れたように笑った。
 かすかに幼さの残る表情に微笑ましい気持ちになる。

「それで、店の名前はもう考えてるんですか?」

 俺が何げない気持ちでたずねるとフレイは静かになった。
 ちらりと皆の方を見やってから、ためらいがちに言った。

「……アンソワーレってどうでしょうか。古い言葉で陽の当たる場所という意味です。牢獄の中にいたから……太陽の下で生きていきたいな……って」

 しばしの静寂が訪れる中、誰もその言葉を否定しなかった。
 きっと誰もがその名前に深い意味を感じたのだろう。
 
「とてもいい名前ですね」
 
 俺はそう言って、もう一度うなずいた。

 「……うん、アンソワーレ」
 
 胸に染みこむようにその響きが残った。
 ダークエルフの人たちの長きに渡る囚われの日々。
 それが新しい扉が開くことによって始まるような、そんな感慨を抱いていた。

「じゃあ、その名前で動き出しましょうか」
 
 俺の言葉に同意を示すように、その場にいるほとんどの人がまっすぐな目で視線を返した。
 皆の瞳には希望の光が宿っているように感じられて、店を始めることが重要なのだと理解した。

「まずは試作品を作らないと。商品にするハーブのブレンドをいくつか考えてみます」

 フレイが思案するような顔つきで言うと、隣にいた年配のエルフが声をかけた。
 とても優しげな様子でフレイへの気遣いを感じる。

「乾燥させた葉の保存と管理は、我らが手伝おう。焙煎や刻み方にも工夫がいる」

「袋詰めや包装は、私が得意です」
 
 さらに別のダークエルフの女性が手を挙げた。
 彼女の細く長い指先は繊細な作業に向いていると思った。

 自然な流れで場の雰囲気が活気づいていく。
 さっきまで物静かだった彼らが、今や口々に提案や工夫を語っている。
 店の内装をどうするか、道具は何が必要か、店番を交代制にするか、カウンターは設けるのか――。

 その全てが「ただの準備」にとどまらず、自分たちの未来をかたちづくる作業であることを、皆が無意識に感じ取っているのだろう。
 俺が店を始めた時は仲間に手伝ってもらうことはあっても、基本的には一人で進めることが多かった。
 こうして、力を合わせる様子を見ていると大切な何かが分かる気がした。

「マルクさんは、いつまでこっちにいらっしゃいますか?」

 フレイがこちらを振り返って聞いた。
 彼女の表情には期待と遠慮の両方が窺えた。

「もうしばらくは滞在するつもりです」

「よかった……まだ、頼みたいことがたくさんあります」

 その言葉に、俺は苦笑いしそうになった。
 頼られるのは嫌いじゃない。だがそれ以上に――。

「……俺の方こそ皆さんから学ぶことが多いですよ。新しい土地で新しいものを生み出そうとする、その熱意からね」

 その瞬間、まるで誰かが意図して演出したかのように雲間から陽が差しこんだ。
 焚き火の煙の向こうに、ほのかに霞んだ春の光が広がっていく。

 アンソワーレ――陽の当たる場所。
 その名が静かにこの地に根を下ろし始めた。


 それから数日後。カルンの街角でフレイを待っていた。
 フレイたちが店を始めるに当たり、モモカからアドバイスがあり、「品揃えなどの詳細を詰める前にカルンの偉い人に面通しした方がいいのでは」と聞かされた。
 サクラギとエスタンブルクが協力関係にあることで、ヒイラギの領主であるモモカの口添えで、カルンの偉い人――商業組合の会長――との打ち合わせが設定された。

 待ち合わせの時間より少し早めに着いていたが、フレイもそう変わらない時間に現れた。

「お待たせしました。今日はありがとうございます」

「俺もさっき来たところですよ」

 フレイは人族でいうところの十代後半ぐらいの見た目なのだが、エルフもダークエルフも外見と年齢が一致しない。
 これまでの状況証拠から年上だと判断した結果、敬語で話していた。

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい!」

 フレイは控えめな性格だと思っていたが、今回は気合いが入っているようだ。
 エルフといえばアデルのイメージが強いものの、ラーニャとフレイを見た限りではダークエルフという種族自体がおとなしい人が多いという印象を受けている。

 俺は事前にモモカから聞いていた内容を思い返しながら、フレイと二人でカルンの街中を歩いていった。
感想 30

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

転生三男のまったり開発記 ~魔法がなくても、前世の知識とガラクタいじりで世界を便利に変えていきます~

戯言の遊び
ファンタジー
【前世のオタク知識で、不便な異世界をちょっと便利に大改造!】 前世は「何でも屋」の息子で、機械の解体と研究をこよなく愛する技術オタク。 そんな俺が転生したのは、魔法が存在するものの非常に不便な中世レベルのファンタジー世界だった。 しかも、辺境を治める貧乏男爵家の三男坊という、家督の重圧もない完全なる「自由枠」 豊かな自然という名の素材の宝庫を前に、俺の技術オタクとしての血が騒がないわけがない! 風で飛んでいく洗濯物と手荒れに悩むメイドのため、ただの木切れを削って作った『洗濯バサミ』 それが屋敷中で大絶賛されたのを皮切りに、気難しい凄腕の鍛冶職人や、利益の匂いに敏い若き女商人を巻き込んで、俺の「ちょっと便利なモノづくり」はどんどんエスカレートしていくことに!? 大げさな魔法もチートもない。 けれど、前世の知識と底なしの探究心で、不便な世界をまったりと便利に成り上がっていく、三男坊の領地開発記!

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。