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連載
反省会
しおりを挟む『これより定例会議を始める。皆、席について』
『はーい』
『はぁい……ってか、どこにも椅子なんてないけど?』
『そりゃあね、ここ、メアリの寝室だし』
『ちなみにベッドの上だし』
『ちょっと、そこ、グシャグシャにしないでよ。さっきシーツ換えたばっかなんだから』
『口うるさいことを言うなっ』
『そうだそうだっ』
『あとでちゃんと直すのよ』
『オカンみたいなことも言うなっ』
『そうだそうだっ』
そこでぴたりと口を閉じると、
『ところでおやつ担当のアルガさん、今日のお菓子は何かな?』
『甘いものがないと頭が働かないよ』
『どうせメインはそっちでしょ……あ、メアリ、ありがとう。ごめんね、お茶まで淹れてもらって』
まるで我が子を見守る母親のような顔をしながら、部屋を出て行くメアリ。
パタンと扉が閉じると同時に、精霊たちのテンションが一気に上がった。
『よしっ、最終確認だっ』
『クッキー、良よしっ』
『アイシング、良しっ』
『硬さ、良しっ』
『ホロホロ感、良しっ』
『塩気と甘味のバランス、良しっ』
『紅茶の熱さ、良しっ』
『紅茶の味……苦っ。ハチミツを投入しろっ』
『いえっさーっ』
『ミルクもガンガン入れてこうぜっ』
『いえっさーっ』
『ちょっとあんたたち、ベッドの上にお菓子の食べカスこぼさないでよ』
『『いえっさーっ』』
ひとしきりもぐもぐした後で、進行役の精霊がおもむろに口を開いた。
『それではこれより、会議を始める』
『……まだ始まってなかったのね』
『我らが主人メアリにとって、この城は戦場だ。味方は少なく、常に命の危険に晒されている。つい先日も、皇帝の愛妾に殺されかけた。毒入りの甘いお菓子によってっ』
はっと息を呑む精霊たち。
――なんて卑劣なの。
――よりにもよって、お菓子に毒を仕込むなんて。
――そんなことしたら食べられないじゃない。
――悪魔の所業だわ。
ざわつく精霊たちを鎮めながら、進行役の精霊は続けた。
『二度とこのような悲劇を起こさないために、僕たちにできることは何かっ』
『メアリを危ないことに近づけさせない?』
『そうだっ』
『殺られる前に殺れ?』
『その通りっ』
高らかに言い放ち、進行役の精霊はぐるりと皆の顔を見渡した。
『しかし残念ながら、愛妾の件では、僕らの行動は後手に回っていた。愛妾の正体があの性悪の妹だと事前にわかっていたら、事件は未然に防げたはずだ。その反省を踏まえて、今後はいっそう、情報収集に力を入れていきたいと思う』
精霊たちは神妙な顔をしてうなずいている。
『では各自、仕入れた情報を報告せよ』
はいっと威勢良く一人の精霊が手を挙げて答えた。
『第五騎士団で、マルクス皇子が年上の騎士に告白されていました』
『な、何だって』
『いきなり爆弾落としてきやがった』
『あの子、可愛い顔してるもんね』
『ちなみに告白してきたのは男です』
『その情報っている?』
『……マルクル皇子の返事は?』
『あ、訊くんだ』
『のーです』
『普通に女性が好きなんだとか』
『ちっ、つまらんな』
『あんたたちはあの子に、一体何を求めてるの?』
『よし次だっ次っ』
『はいっ。ノエ・セルジオスが婚約者のためにサプライズを計画しているようですっ』
『なんだとっ。詳しく内容を述べよっ』
『キャー、言っちゃダメっ』
『メアリの陰口を言っていた某伯爵夫人は下着を履かない主義だとか』
『よしっ、公衆の面前で盛大にスカートをめくってやれっ』
『馬鹿っ、ダメに決まってるでしょっ』
『メアリのドレスにわざとお酒をこぼした男爵令嬢は、婚約者がいながら、庭師の男とやってますっ』
『よしっ、現場を押さえて、婚約者を転移させろっ』
『それは……そうね』
『恋人と遠距離恋愛している小間使いが、職場の男とイチャついてましたっ』
『二人はできていると噂になってますっ』
『それはメアリと関係なくない?』
『いや、純真無垢なメアリが知ったらショックを受けるかも』
『よしっ、現場を押さえて、恋人を転移させろっ』
結局そうなるのねと呆れるアルガ。
『そういえば、某中年貴族がメアリとすれ違うたびにチラ見していましたっ』
『そのくらい許してあげれば?』
『どこをチラ見していたっ?』
『胸か? 尻か?』
しかし追及の手を緩めない精霊たち。
『なんでその二択なのよ』
アルガのツッコミにも構わず、精霊は答える。
『どちらでもありませんっ。うなじですっ』
『うなじフェチかっ。それはまずいな……』
『まずいね』
深刻そうな表情を浮かて、互いに顔を見合わせる。
『早急に手を打たねば。報告は以上か?』
『あと一つ……』
『何だ? もったいぶらずに早く言え』
『とある宮廷魔術師が部屋にこもって、何やら怪しげな薬を作っています』
『とあるって、ニキアスしかいないじゃない』
『……まさか』
『ええ、おそらく惚れ薬かと』
『あの陰キャ野郎』
『そこまでしてメアリを……』
『ねぇ、あんたたち、この茶番、いつまで続くの?』
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