トカゲに見えますが、実はドラゴンの生き残りで、人間にもなれます。

四馬㋟

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第六話

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 このお屋敷にヨルンと同年代の子どもがいないのであれば、外から連れてくるしかありません。
 私はまず、彼の父親にこのことを相談することにしました。
 
 
「なんだい、イオ? じっと私の顔を見て。何か言いたそうだね」
「ギャっ、ギャっギャっ」
「ああ、そのことかい、悪いけど、ダメだよ」

 申し訳なさそうな顔をする公爵を前にしても、私は騙されません。
 なぜならこの男は、実の息子に平気で嘘をつくような人間です。

「ギャっギャっ、ギャっーギャっ、ギャーっ」

 当然、私は抗議しました。
 公爵は真剣な表情で私の言葉に耳を傾けてくれましたが、やがてプッと吹き出すと、

「君は時々、人間みたいな目をするからドキッとするよ。くらだらないことを考えるのはやめて、早く大きくなりなさい。そうだ、またおいしい果物をあげよう……ダメだ。ヨルンに注意されたんだった。君に甘い果物を与えすぎると、虫歯になるからと」

 どうやら、私が食べ物をねだっていると勘違いしているようです。

 他の執事さんやメイドさんに事情を訴えても、皆さん似たような反応ばかり。
 なんだか自分がとんでもなく意地汚い生き物に思えて、ショックでした。
 
 意気消沈してフラフラと寝床に戻ろうとした私でしたが、


「おや、君はヨルンの……」


 長いローブを着た白髪のおじいさんに声をかけられました。
 最近雇われた家庭教師の魔術師です。

 名前は確か……、
 

「ギャっ(こんにちは、ワイスさん)」
「こんにちは、イオくん」


 思わず耳を疑いました。
 すれ違いざまに軽く頭を下げて立ち去るつもりでしたが、私は立ち止まり、首を伸ばしてまじまじと彼を見ます。


「ギャっギャ、ギャー(もしかして、私の言っていることが分かるんですか)?」
「もちろんだとも。わしはこの国で、ドラゴン語を喋ることができる数少ないの人間の一人じゃからのう」


 ドラゴン語?
 パーセルタングに似たようなものでしょうか。

 いいえ、今はそんなことより、


「ギャっ、ギャーっ(私って本当にドラゴンだったのっ)」
「んん? 今さら何を驚いているのかね」


 パニックに陥る私を眺めながら、ワイスさんは困ったようにご自身の長いひげを撫でつけます。


「どうやら君とは一度、じっくり話をしたほうがよさそうじゃの」


 

 ***




 衝撃の事実を知って――ヨルンの父親が嘘をついていないと分かって、つい取り乱してしまいましたが、あらためて考えてみれば、確かに私にはドラゴンの特徴がすべて当てはまっています。それにサラマンダーはあまり動かない、待ち伏せ型の捕食動物のはずですが、私は常にウロウロしていますし、好奇心旺盛です。身体つきも、一歳のサラマンダーにしては大きすぎます。

 
「ギャー、ギャっ(ですが、ドラゴンは何百年も前に絶滅したはずでは?)」

「世間ではそう思われとるが、生き残りがおっても別におかしくはないじゃろ。ドラゴンは知能が高く、警戒心も強い。人間に見つからぬよう、巧みに卵を隠しているかもしれん」

 それで私の卵がサラマンダーの巣にあったのでしょうか。
 それとも、たまたま卵を隠した場所にサラマンダーが巣を作ってしまった、とか?

 ワイスさんの言葉に思わず納得しかけた私でしたが、

「ギャっ、ギャっ、ギャーギャ、(ワイスさんがドラゴン語を話せるのはどうして? もしかして私以外にもドラゴンがいるの?)」

 ワイスさんがヨルンたちと同じエルフであれば、口にしなかった質問です。
 ですが彼はどう見ても普通の人間です。

 そもそもエルフは成長することはあっても、年をとりませんから。

「ああ、いるよ。わしの知り合いに何人か……」

 知り合い? 何人?
 妙な言い方をするなと首を傾げる私に、ワイスさんは声をひそめて言います。

「ドラゴンは絶滅したわけではなく、絶滅の危機に瀕して姿を消しただけじゃ。強欲なハンターどもに追い回されて、みな疲弊しきっとる」
「ギャっ、ギャっ(ワイスさんはドラゴンの味方なんですね)」
「わしだけではないぞ。ドラゴンの絶滅を食い止めようとしているのは」

 答えながら、私の首に巻かれたリボンにそっと触れます。

「現にクレイヴァル家が君を引き取り、保護している。ヨルンは君のことをより深く理解しようと必死にドラゴン語を勉強しておるぞ」

 それを聞いて、胸がほっこりしました。
 私のことを守るというのは、そういう意味だったのですね。

「ドラゴンは美しい。わしはあれほど美しく、力強い生き物を未だかつて見たことがない。ハンターもまた、ドラゴンの美しさに魅了され、取りつかれた哀れな人間に過ぎんのじゃ」

 しんみりしてきたところで、私は本題に入りました。


「なるほど、君は君でヨルンのことを心配しているのだな」


 どうしてもヨルンに、同じ年くらいの友達を見つけてあげたい、子どもらしい青春時代を送らせてあげたいのだが、そのためにどうすればいいのか分からず、困っているのだとワイスさんに相談したところ、


「同種族の友人を見つけることは難しいじゃろう。ここ最近、エルフの出生率は著しく低下しておるからの」

 生々しい現実を突きつけられて、私はいっそうへこみました。

「それにヨルンはエルフの特徴を強く受け継いでおる。長命種ゆえに他者への関心が薄いのじゃ。そもそも本人に友人を作る気がなければ意味はなかろう」

 ワイスさんの言う通りです。ただ単に私がお節介なだけですから。
 肩を落としてすごすごと引き下がろうとしましたが、

「まあ、待ちなさい。わしにいい考えがある」

 ワイスさんはにっこり笑って、私を引き留めました。

「イオくん、君はとても賢いドラゴンじゃ。まだ生まれてから一年しか経っていないというのに、母親のような目でヨルンを見ている」

 前世の記憶があることを見透かされた気がして、内心ぎくりとしましたが、

「ヨルンに友人が必要だと思うのなら、君がなるべきだと思うが、どうかね?」

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