トカゲに見えますが、実はドラゴンの生き残りで、人間にもなれます。

四馬㋟

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第九話

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「君は……」
 
 
 魔獣の気配が完全になくなってから、私はヨルンの無事を確かめました。

 振り返ると、彼は信じられないといった顔で私を見ています。
 その表情からは敵意や警戒心といったものは感じられません。

 ただ驚きと、喜びにあふれていました。

「もしかして……」

 記憶力がよく、頭の回転が速い彼のことです。先ほどの行動で私の正体に気づいたのでしょう。
 彼が「イオ」と口にする前に、私は言いました。

「私の名前はナナです。ワイスさんに、貴方の友達になれと言われて来ました」

 ナナは前世の名前なので、嘘はついていません。

 イオだとバレてしまった以上、もう正体を隠す必要はないのかもしれませんが、「そうです、私は貴方のイオ(ペット)です」と人間の姿でその言葉を口にするのは、どうしても抵抗があります。ワイスさんが指摘した通り、私の心がまだ人間であろうとしているからかもしれません。

「私とお友達になってくれますか?」

 こんなこと言うのは小学生以来でしょうか。
 なんだか面はゆい気持ちです。

 緊張しながらヨルンの答えを待っていると、

「もちろん……もちろんだよっ」

 ヨルンは私の両手を掴むと、ぶんぶん振り回しました。 
 さらには両脇を掴んで私を抱き上げようとしますが、

「――っ、上がらない」

 そうでしょうとも。
 見た目は小柄な少女そのものですが、重量はドラゴンの時と変わらないので、ヨルンの腕力で持ち上げることは不可能です。


「もう十分なので、離していただけませんか?」

 
 まだ小さかった頃、ヨルンは私を抱き上げて高い高いしてくれました。
 私が空を飛べると分かってテンションが上がったのでしょう。
 
 ですがまさか、人間の姿の私にまでしようとするなんて……。

 これは明確な線引きが必要だと思い、見た目は子ども、頭脳は大人な私は断固として言います。


「ヨルン、私は年下に見えるかもしれませんが、精神年齢は貴方よりも年上です。ですから子ども扱いしないでください」


 友達というのは対等な存在です。今世ではまだ未成年ですし、クレイヴァル家に養われている身で偉そうなことは言えませんが、例え身分差や年齢差、種族の違いがあろうとも、友達を軽んじることは許されません。少なくとも私はそう思っています。
 
「分かったよ、イオ……じゃなかった、ナナ」

 本当に分かってくれたのでしょうか。
 やけに素直に聞き入れるあたり、怪しいところです。


 案の定、


「動き回ったからお腹がすいたろ? ここで待っていて、今食べ物を持ってくるから」

 いいえ結構です、夕食まで我慢できますと断っても、

「メイドを呼んで食事の準備をしてもらったよ。君の好きな甘い果物もたくさん用意した。一緒に食べよう」

 いいえ結構です、と再度断ろうとしましたが、みずみずしい果物の山を目にした瞬間、我を忘れてしまいました。
 両手を使って果物を貪り食う私の横で、ヨルンはニコニコしています。

「ほら、手が汚れてる。拭いてあげるよ」
 
 相変わらず、母親のように世話を焼いてくれます。

「食べ終わったら歯も磨いてあげるね。虫歯になるといけないから」

 これでは友達になるどころか、いずれヨルンのことを「お母さん」と呼んでしまいそうで、恐ろしくなってきました。

「どうしたの、ぼうっとして。もうお腹いっぱい?」
「ごめんなさい、ちょっとくしゃみが出そうだったので……」

 ごまかしつつも、じわじわと距離をとります。

「私の近くにいると危険なので、少し離れたほうがいいかもしれません」
「平気だよ、僕の服は全て防火用の素材でできているから」

 ヨルンは気にせず距離を詰めてきました。

「ドラゴンはお腹の中に高密度で濃縮された燃料袋を持っていて、そのおかげで強力な炎を吐き出すことができるんだよ」

 へぇ、そうなんだ、ふーん。
 ヨルンが爬虫類の話をしだすと長くなるので、私は強引に遮ります。

「もうヨルンがドラゴン語を覚える必要はありませんね」

 私が人間になれば、意思疎通は可能なのですから。
 けれどヨルンは笑顔で首を横に振ります。
 
「いいや、必要だよ。ドラゴンを人間にする魔法はとても高度で、長時間は持たないんだ。先生の魔力をもってしても、数時間程度ってところじゃないかな」

 説明の途中で、ぽんっとドラゴンの姿に戻ってしまいました。
 しばらくは人間の姿でいられると思っていたので、完全に油断していました。なんだかショックです。

「そんなに落ち込まないで、その魔法も必ず僕がマスターして、君を好きなだけ人間にしてあげるから」

 嬉しい言葉ではありますが、ヨルンにばかり負担をかけている気がして、いたたまれない気持ちになります。
 果たしてこのような状況下で、まっとうな友情を築けるのでしょうか。
 
「あと確認しておきたいんだけど、ドラゴンの時も君のことをナナって呼んだ方がいいのかな?」

 それは恥ずかしいのでやめていただきたい、断固として首を横に振ると、ヨルンは笑って頷きます。

「分かったよ、イオ。君のこと、もっともっと知りたいな」

 そういえばまだ、前世の記憶があることをヨルンには話していませんでした。
 私が前世で人間だったと知ったら、がっかりするかもしれません。

 彼は生粋の爬虫類オタクですから。

「大好きだよ、イオ。ドラゴンの君も、可愛い女の子の姿をした君のこともね」
 
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