トカゲに見えますが、実はドラゴンの生き残りで、人間にもなれます。

四馬㋟

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第十六話

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 基本、雌をめぐる雄同士の戦いで、動物が死ぬことは滅多にありません。

 激しい戦いに発展することもありますが、彼らは単純に力比べをしているだけで、殺し合いをしているわけではありませんから。どちらか一方が負けを認めるか、逃げるかすれば、その時点で勝負がつきます。

 ヨルンとザイオンの戦いは拮抗していましたが、長くはかかりませんでした。
 戦いが長引くと判断したのか、ザイオンが突然、攻撃をやめて逃げ出したからです。
 
 
「イオくんのフェロモンにあてられておかしくなっとったが、どうやら完全に正気を取り戻したようじゃ。イングリット殿の残り香に気づいたのじゃろう」


 ヨルンが使っている弓はイングリットさんのお下がりです。
 しかもドラゴン素材で作られた一級品で、小型の魔獣なら一撃で倒せるほどの威力があります。

 ヨルンは最初、その弓を使うことを嫌がっていたようですが――イングリットさんのことを恨んでいるからではなく、武器としてドラゴンの死体が使われていることが許せなかったようです――ワイスさんに説得されて、しぶしぶ使うようになったとか。

 
「一度コテンパンにやられたせいで逃げ癖がついたようじゃ。かつては広大な土地を縄張りとする主(ぬし)であったのに……なんと哀れな」


 ワイスさんは大いに嘆いていましたが、私はホッとしました。

 でなければザイオンの攻撃で、この一帯は火の海と化していたことでしょう。
 ワイスさんが魔法で被害を最小限に留めてくれましたが、それでも森の一部は焼失し、狩猟小屋も破壊されて、ひどい有様です。

 ヨルンも追撃することなく、武器をおさめました。
 爬虫類好きの彼としては不本意な戦いだったでしょう……と思いきや、


「助けに入るのが遅れてごめん、先生に、少し様子を見るように言われて……」


 別の意味で落ち込んでいました。

 どういうことかと詰め寄ると、ヨルンはあっさり白状しました。

 二人は、結界を破られた時点でザイオンの侵入に気づいたそうです。転移の魔法で戻って来たヨルンは、すぐにザイオンを追い払おうとしましたが、「イオくんがその気になったらどうする? しばらく二人の様子を見るのじゃっ」とワイスさんに注意され――それでもヨルンはワイスさんを無視して私を助けようとしたらしいのですが、


「ドラゴンから繁殖の機会を奪うつもりかっ。彼らが本当に絶滅してしまってもよいのかっ」


 すさまじい剣幕でワイスさんに怒鳴りつけられてしまい、思わず考え込んでしまったそうです。

 ヨルンはどうあっても私(ドラゴン)のことを手放したくない、離れたくないのだそうです。ですが私を飼い殺しにするわけにはいかない、いつかはツガイを見つけて、家族を持たせてあげたいという気持ちもあり――そのことでずっと悩み、苦しんでいたと私に打ち明けてくれました。

「でも、ようやく解決策を思いついたんだ」


 ヨルンは私に顔を向けると、初めて出会った時のように、瞳をキラキラさせて言いました。


「僕が君のツガイになる。ドラゴンになるんだ」

 
 彼はペットロスを恐れるあまり、おかしくなったのでしょう。
 私は助けを求めてワイスさんを見ました。

 ですが、

「イオくん、君も見たじゃろう。ヨルンはザイオンとの戦いに勝利した。すなわち、子孫を残す権利を得たということじゃ」


 すかさずヨルンの味方をします。
 この二人は、自分たちがおかしなことを言っているという自覚はないのでしょうか?


「しかし今すぐに、とはいかん。人間をキツネや狼、猫に変える魔法は存在するが、ドラゴンに変える魔法はまだ開発されてはおらんからのう」
「これから魔法開発研究所へ行って、先生から圧力をかけて頂くことはできないでしょうか? 研究開発費は全てクレイヴァル公爵家が負担しますので」
「分かった、ザイオンにも協力させよう。あやつの遺伝子が必要じゃ」
「僕が実験台になります」

 お金持ちはなんでもお金で解決しようとしますが、魔術師は魔法で解決しようとするのですね。
 頭が良すぎるのか、自信過剰のどちらかでしょう。


 ――私が人間になって、ヨルンと結婚するほうが早いのでは?


 そう思いましたが、口には出せませんでした。

 それだとまるで、私がヨルンと結婚したがっているような……いいえ、私はこの生活に十分満足しています。不満なんてありません。そんなことを言えば罰が当たります。

 来世では、結婚はせずにバリバリ働くと誓った私です。

 たまたまドラゴンに生まれ変わったせいで、キャリアウーマンとしての道は閉ざされてしまいましたが、私なりにペットとしてヨルンに……飼い主に尽くしてきました。これからもペットとして、たまに友人として、彼を支えていくつもりです。

 そもそもヨルンには、ヨルンにふさわしい相手――お金持ちで賢く、美しい女性がいくらでもいるはずです。
 その女性がエルフで、できれば爬虫類好きだといいのですが。

 ヨルンが耳のとがった綺麗な女性と軽やかにダンスをしている姿を想像して、微笑ましい気持ちに……なりませんでした。
 それどころか気分が悪くなりました。胸がむかむかします。

 きっと薬の副作用のせいでしょう。

 
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