赤髪探偵の事件簿

神部洸

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第一章 本当に当たる占い師

第二話 カツ丼ください

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 30分。これが何を指しているか。これは、僕が警察署の取調室に放置されている時間だ。

 時計の針を、僕が逮捕されたところまで戻そうと思う。

 手錠をかけた方のおじさんが河野刑事。もう一人が波多野刑事と言う。

 二人は、よく2時間サスペンスとかで見る、the・所轄の刑事みたいな感じで、誤認逮捕のくせして、我が物顔で同僚たちに手錠をかけた僕を見せびらかした。

 僕はそのままパトカーに乗せられて、警察署へと移動し始めた。

「あの~。質問いいですかね?」

「あぁいいぞ!」

 河野刑事はもう満足しているのだろう。気分が大きくなっているのが見て取れる。

「僕って、何で逮捕されたんですか?」

僕の質問を聞いて、僕の両サイドを挟む二人のおじさんと、パトカーを運転している警察官。合計で3人の顔色が急変した。

「何で逮捕されただ?お前なぁ。ふざけた髪色しやがって。自分の、心に聞いてみろ!」

そう言って河野刑事は僕の髪を掴んで頭を振り回した。

「痛いです!痛いです!」

「被害者の心もこれだけ痛くなってんだよ!」

結局、河野刑事は、僕の髪がボサボサになるまで頭を振り回した。

「僕、なんにもやってないです~!」

「うるさい!取調室で聞く!」

そう言って、河野刑事は僕の所持品をすべて回収すると、僕を取調室に中へ放り込んだ。それから、30分がたつ。

いや失礼。いま時計を見たら45分が経過していた。

その間、誰も目の前の扉を開けていない。放置だ。何?僕忘れられちゃった?


その頃、隣の部屋で~~

「河野さん。これまずくないですか?」

二人の後輩、相良巡査部長は冷や汗を書き始めた。

「カバンの中から出てきたのは、ブルーシート、懐中電灯、百均で売ってる重り、酒、惣菜、携帯とモバイルバッテリー、男物の財布。これ絶対…」

「上野公園で花見。だな。」

部屋の窓辺で所長の大杉が二人の刑事を睨んだ。

「被害者が入ってるものを間違えたのかもしれません。」

「バカを言うな!!ここまで来てもなお、あいつが犯人だというか。ひったくられた被害者は、買ったばっかの女性門の下着が入ってるって言ったんだぞ!」

流石に、手も足も出ない様子だった。

「あと少し。今日だけ時間を下さい。」

そう言って、河野は取調室に入っていった。


 僕が取調室で放置されてから一時間がたった。もう昼寝でもしようかと思って体制を変えたとき、扉が開いて河野刑事が入ってきた。

 僕は急いで座り直す。

「これから君の取り調べをする。河野次郎だ。」

「スミマセン。携帯返してくれますか?」

「なんでだ。」

「ボイスレコーダーで録音するんで。」

「大丈夫だ。こちらですべて録音されている。」

 絶対嘘だ。どうせ都合のいいところしか切り抜かない。そんなことも分からないほど馬鹿ではない。

「名前は。」

「赤田伸彦です。」

「チッ。髪も赤けりゃ名前も赤いってか。」

 なんだこの態度。すごくムカつく。

「職業は。」

「大学生です。」

「どこ大?ちなみに俺は慶応だ。」

こうやって自慢する人苦手なんだよなぁ。それに、絶対怒るし。

「T大です。」

「どこだよ!」

「東大です!赤門で有名な東京大学!」

 取り調べ室と言う小さな箱の中に、大きな隙間風が吹いた。ほら言わんこっちゃない。

「何でとったの?」

「何をですか?」

「何でひったくったのかって聞いてんだよ!」

 河野刑事は机を強く叩いて威嚇してきた。

「河野さん。先に言っておきたいことがあります。」

「僕がやりましたってか?」

「いいえ。違います。もし河野さんがこれからも僕を脅迫するようでも、僕は驚いても絶対に自供するような事はありませんししてません。あと、この件が一段落したところで僕は、裁判所に訴えを出します。下町所の河野という刑事に脅迫され、精神的苦痛を感じました。また、誤認逮捕による名誉毀損。よって、河野刑事個人と、この警察署の署長、それと研修を怠った警察全体を相手に3億8000万円の賠償金を求めて裁判を起こします。」

「バカ言え。そんな裁判。誰が弁護についてくれるってんだよ。」

「僕です。」

「はぁ?」

「僕司法試験合格してるんで、あともう一つ。」

僕は今までず~っと思っていたことを言った。

「カツ丼まだですか!?」
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