赤髪探偵の事件簿

神部洸

文字の大きさ
7 / 8
第一章 本当に当たる占い師

第七話 復讐計画

しおりを挟む
 僕は、河野刑事と波多野刑事と一緒に覆面パトカーに乗っている。今回でパトカーに乗るのは2回目だが今回僕の手首に重い金属はついていない。

「それで赤髪。まだ言ってない話ってなんだ?」

 車が警察署を出てから少しして河野刑事が聞いてきた。

「そうでした。実は、大杉署長が巡査部長時代にこの事件に関わっていたんです。」

「そりゃあ昔からいる警官だったら操作に加わることぐらいあるんじゃないか?」

波多野刑事が言った。僕もはじめはそう思ったが、どうやらそうで無いと思われる状況があったのだ。

「当時、大杉署長、大杉巡査部長は本庁勤めでした。事件が起こった当時、大杉巡査部長は長期の休暇をとっていたんです。」

「あぁ、そういえばそんなこと聞いたことある気がするぞ。なんだったか大病をして入院してたって。」

「でも、4番目の事件の時に本庁刑事の中で一番早く臨場してるんです。」

 車の中という密室の中に「まさか」と言う雰囲気が流れた。河野刑事がアクセルを強く踏み込見込むと、それと阿吽の呼吸で波多野刑事がパトランプを取り付けた。



 同じ頃、代々木公園。

「加藤さん。お久しぶりです。」

 老年期に差し掛かろうとしている男が同じ年くらいの女に話しかけた。

「まさか、あなただとは思わなかったですよ。大杉刑事。」

 女はゆっくりと振り返り、声の主を確認した。一見彼女の目は衰えているように思えるが、芯の部分は細く鋭くなっている。

「30年という時間は凄いですね。あの頃私は巡査部長だったけど今では署長にまでなりましたよ。」

 そう語る大杉の姿は、普通の中年男性のようだった。まるで警察官、犯罪者のようには見えなかった。

「私は、あなたが怪しいと思ってた。でも、まさか警察官があんな事するだなんて。」

「心外ですよ。加藤さん。私が何をしたって言うんですか。」

「あんたがここに来た時点で分かってる。あんたは、30年前の事件の犯人だろう。」

 加藤千恵子の鋭い言葉が、辺りを冷たい空気に変えた。

「それがどうしたって言うんですか?実際、私が犯人だったとしても罪に問われることは無い。」

「許さない。私は絶対に許さない……」

 加藤は上着のポケットから果物ナイフを取り出した。カバーを抜き取り、大杉の方へ先を向ける。

「物騒なことしないでくださいよ。逮捕しますよ?」

 このような状況にあっても、大杉は軽く笑えるほどの余裕を見せた。それが一層、加藤千恵子と言う一人の母親を怒らせたのだろう。彼女の手に込められる力がだんだんと大きくなっていく。

「待ちなさい!」

 河野刑事が叫んだ。僕も右側に並ぶ。

「加藤さん。復讐なんてやめましょうよ。そんなことしたって…」

「死んだ娘は喜ばないよ。」

大杉署長の態度が急変した。安否のわからない被害者たちの死を知っているということは、大杉署長が30年前の事件の犯人ということだ。

「あんたまさか、恵美子を殺したのかい?」

 老いた母親の答えに大杉は一度笑ってから答えた。

「あぁ。殺したよ。誘拐した娘は全員。ヤり切ったら早々にな。」

 千恵子の瞳から一筋の涙がこぼれた。僕たち三人の眼にも悲しみのしずくが浮かんでくる。

「それからどうしたんだ。死んだ恵美子をどうしたんだ!」

「死んだ奴らは全員焼いたよ。骨は砕いて粉にしてから川に流した。だから、遺体はこれっぽっちも残っちゃいないよ。アハハハハ。」

「大杉。あんただけは殺す。絶対に殺して道ずれにしてやる。」

 娘を亡くした母親の顔は、決意の色に満ちていた。僕は時間はあまりなさそうだと悟った。

「加藤さん。僕の話を聞いてくれますか?」

「いやだね。」

「復讐って、何にも生み出さないって言いますけど本当は悲しみとか恨みとか、そういう負の感情をたくさん生み出すんですよ。だって、今ここで大杉さんを殺しても、その遺族さんがあなたのことを恨んで、あなたや佐藤さん。その他親族に危害を加えたらどうするんですか?原因はあいつだからって逆行しますか?それからまた復讐、報復をするんですか?」

千恵子が果物ナイフの鋭い先端を僕らの方へ向けた。一直線上に僕と千恵子さんの視線がぶつかっている。

「確かに、大杉さんを法律で裁くことはできない。でも、あなたが法律で裁かれる必要はないはずだ。あなたや、あなたの周りの人々にこれ以上罪を重くさせてはいけない。」

「もう遅いよ。どうせ……」

「裁判では僕が弁護します。僕が、千恵子さんたちにかかるものを少しでも小さくします。だからお願いです。これ以上罪を重ねないでください。娘さんを、恵美子さんを殺人者の娘にさせないでください。」

「う、うぅぅ…」と泣きながら、加藤千恵子はナイフを地面に落として泣き崩れた。それと同時に、河野刑事が加藤千恵子を「銃刀法違反」で現行犯逮捕、波多野刑事が逃走しようとした大杉宗道舎人署長を重要参考人として連行した。


 誰も居なくなった公園に僕だけがぽつんと立っていた。誰も僕のことを気にしないかのように作業を進め、帰っていった。

「えっ⁉僕だけ置いてけぼり⁉」

悲しい春の出来事だった……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...