帯刀医師 田村政次郎

第六話 悲壮の剣 前編

四

「この度は、襲われていた所を助けて頂いて、誠にありがとうございました。」
女は政次郎たちの下へやって来るなり額を畳に擦り付けて言った。
「我々はただ当然の事をしたまで。ところで、あなたのお名前は何と申される。これから話すにも呼びづらいのだが。」
「そうでしたね。名乗りもせずに申し訳ありませんでした。私、陽（ひなた）と申します。」
これまた土下座のような格好で名乗る陽に「そこまでしないでいいのよ。この人達は馬鹿なんだから。」と、陽をたしなめた。
　皆に一笑が起こり、それが収まると政次郎が切り出した。
「陽殿。なぜあなたは襲われていたのですか?」
「はい、私はあそこの近くにあります高田屋と言う呉服店でご奉公させて頂いておりました。」
「と言う事は、今は奉公をされていないと。」
失礼なこと言う綱氏に、政次郎は軽く睨むと陽に謝った。
「良いのです。実際、私は三月程前に店を追い出されてしまったので。」
陽はそう言うと、悲しげに頭を下げた。その背中をお花がさすっていた。
「無礼を承知で伺うが、陽殿はなぜ店を追い出されたのだ?」
そう聞いた政次郎の膝を、お花が思い切り叩いた。