腰付きのバラッド

たかボー

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1話

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クッション性の良いお気に入りのスニーカー、地面にある白線の反射が気にならなくなる偏光サングラス、心を落ち着かせてくれるミドルテンポの音楽。
これらを身に纏い日課である朝の散歩に出掛けた。
日頃の運動不足解消のために始めた朝散歩。まだ朝方は肌寒い季節ということもあって最初は外に出るだけで億劫だったが、朝の朝日の下で歩く気持ち良さを覚えた今となってはすっかりハマってしまった。

今日もいつもどおりコースを歩いていると、女性が道の脇に座っていた。
この時間帯に人がいることも珍しいが、見た感じ犬の散歩ってわけでもないし、具合が悪かったら大変だと思い、声をかけてみた。
「あの・・・どうかされました?大丈夫ですか?」
「いえ、ちょっと疲れてしまったので休憩しているんです・・・あの?どうされました?」
こちらを振り返った女性があまりに綺麗で、思わず見入ってしまった為か、逆に女性に不審がられてしまった。
「あっすみません。体調を崩されたのかなと思い、心配で声をかけてしまいました」
「そうだったのですね、ありがとうございます」
そう言って、女性は立ち上がってお辞儀をした。

しかし、座ってる状態だとよくわからなかったが、この女性、中々に体つきが良いのである。
身長も女性にしては比較的高めで、肉付きも痩せすぎでも太り過ぎというわけではない。胸の膨らみも大きいわけではないが、着ているシャツの上からでもしっかりシルエットが分かる程だし、何よりも骨がしっかりしてるのが伝わる、どっしりして安定感のある適度な大きさの腰周りが素晴らしい。

恐らく彼女の体つきを注視していたのが伝わったのか、視線を彼女の顔に戻すと、そこにはコップから溢れんばかりの不信感を持った顔つきになっていた。
「あの・・・」

しかしこの顔もまた綺麗だ。もちろんメイクの努力の上だとも言えるが、細く知性を感じる目元、適度に赤みを持った頬、弾力性が豊そうな潤った唇、それに・・・。

「すみません・・・!」
「!・・・こちらこそごめんなさい!」

顔も注視したのがバレたと思い思わず謝ってしまった。しかし彼女は頭に?を浮かべたような戯けた顔をしてこちらに話しかけた。
「ごめんなさい、喉が乾いてしまって。そこのコンビニで水を買うお金を貸していただけませんか?」

これは驚いた。まさかセクハラまがいの視線を飛ばしたことにつけ込んで、金銭を要求するつもりなのだろうか?というつまらない邪推をしたが純粋に喉を潤したいようにも見える。
彼女の喉が静かに上下に動く、何かを求め貪りたい衝動を隠せない喉元、そんな喉元を見せられ、下心を見え見えな発言をするのに、そう時間はかからなかった。

「向こうのカフェでお茶でもしません?」
「お茶でもしません?」こんな前時代的かつ成功の見込みのない誘い文句があるのだろうか?まあこんな軽率な誘いに乗る時点でどうかと思うが・・・

「良いですね、行きましょうか」

まじかよ乗ったよ。
てっきり断られて「そーっすよね!」なんて言いながら渋々100円渡して終わるつもりだったのがまさかの展開で驚きである。しかしせっかく掴んだチャンスである天使の梯子である、ここを活かさない道はない。

しかしこちらが下心見え見えなのは向こうには丸わかりであるはずなのだ、友人の結婚式で知り合った女性とのカフェデートとは違い、スタート時点でだいぶ重い足枷をつけるハンデを負ってしまった。

そんなこと考えてたら女性がどんどんカフェに向かっていた。僕は散歩のお供で聴いていた音楽を止める手間さえ惜しんで、彼女の腰を追いかけて行った。
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