腰付きのバラッド

たかボー

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4話

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「ひどいなー!違いますよ!」
彼女は少し砕けた笑顔を向けて言った。やましさも何もない無垢な笑顔、ああ・・・可愛い。

「最近になってこの辺りをよく散歩するようになったんですけど、時々変な匂いがすることがあるんです。何か知りません?」

何を聞かれるかと思えば、とりあえず妙なことじゃなくて安心した。
「匂い?俺はほぼ毎日この辺を散歩するが特におかしな匂いを感じたことはないな」
とりあえず正直に答えた。女性と話すときは共感が大事とよく言われるが、「するする!ほんと臭いよね!」と言ってもそれ以上に広がりそうにないと思ったからだ。

妙な匂いか・・・。比較的人通りの少ない遊歩道だし、たまに香るといえば周りの草木の
素朴な香りか、管理不行届けの罪に問わないといけない放置された犬のフン暗いだ。
「そうなんですね、じゃあ気のせいなのかな」
再び気まずい沈黙が流れる。流石にこれはいけないと思い最初の疑問を聞くことにした。

「そういや、どうしてあそこに座り込んでたの?」
「あー・・・実は靴紐を結ぼうと思ってしゃがんだらそのまま朝になってまして…。」

「…は?」
意味がわからない。しゃがんだら朝になってた?たった二つの情報しかないのに脳味噌の理解力がオーバーフローしてしまった。どんだけ濃厚な情報量なんだよ。

「意味わかんないですよね、ごめんなさい。しゃがんだら気を失ったみたいで、気がついたら朝になってました」
「いやいやその状況はわかるよ!その…体の方とかは大丈夫なの?」

純粋な疑問である。下心なんかもはやどうでもいいレベルの純粋無垢な疑問である。

「一応荷物とかは確認しましたけど、盗られた物とかは特にないみたいです。よかった」

「いや身体!」
失礼、思わず頭の中で叫んでしまった。体の心配をしてるのになぜ荷物のことを答えるのか、なんだかんだ身体目当てのナンパなんじゃないかって疑ってるから、無意識に体に関する情報を絞っているのだろうか。

「それはよかった、怪我とかはしてない?」
「ざっと見た感じ特に怪我はしてないみたいです、その、無事でした」

「何が!?」
また頭の中で叫んでしまった。何が無事なのか思わず尋ねたくなったが、おそらくセンシティブな事柄なのだろうからそこは聞かないことにした。俺まじ紳士、偉い、頭撫でてもらってもいいんじゃないのってレベル。

でもここで一本の道を見つけた。細くて狭くて、とても通れると思えない道だけど、たとえありきたりな道と思われても仕方がない。
しかし意外とおとぼけな彼女に対してなら、もしかしたら有効かもしれない。
なので思い切ってその道を通ってみることにした。

「もしかしたら背中とか自分で見えないところに怪我があるかもしれないよ!?僕が見ようか?」

はあ、誰がどう見ても成功率0.00%だこれ。小汚いおじさんみたいな発言じゃん。
もういいや、帰ったら録画してた好きなバンドのライブ中継でも見ようかな。とか考えながら、明らかに絶句してる彼女の返事を待つことにした。
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