腰付きのバラッド

たかボー

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3話

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お互いに飲み物を一口飲み、ほんの数秒流れる無言の時間。お互い決して目を合わせることはしないが、右斜に向けられた視線を読み合う高度な心理戦。

意外にもお互い口を開かないので、わずかな視界から入る彼女を改めて見てみることに。

黒いロングヘアーは日頃から丁寧にケアされているのか、キューティクルも丁寧に磨かれたガラスのように輝いている。前髪もアシンメトリーで切られていて、決して単調ではない彼女の人柄を示しているように見える。
顔付きもまた丁寧に作られた造形物のように、整いすぎとまではいかないが、静かに物事を俯瞰しそうな目元、わずかのおサバさが垣間見える赤みがかった頬、思わず手を触れたくなる魔力を持った潤んだ口元、全てが絶妙なバランスで配置されていて、いつまでも見ていても苦痛に感じることはない。
女性らしく少し丸まった方から伸びる細く白い腕、そして指先、このオブジェの様な上肢が運動用の服装と思われる半袖のTシャツのためとてもよく映える。

しかし見れば見るほど素敵すぎる女性だ。思わずナンパしてしまったのも肯けるし後悔する必要性を感じない。
しかしなぜ彼女は俺の安易な誘いに乗ったのだ?もしかして最近のマルチ商法や宗教勧誘の方法なのだろうか?いやきっとそうだろう。一見困っている人に見せかけて、手を差し伸べて話しかけてきた心優しそうなやつなら下手に断らないだろうとタカを括っているのだ。最近のマルチ商法や宗教勧誘は人の親切に漬け込んだ鳩のフン以下の自尊心による行為に成り下がったのだろうか。

「なんで誘いに乗ったか不思議ですか?」
まさかの先手を取られた。こちらが余計な考察をしている隙を突かれた。思いもよらない一言で返す言葉が飛んでしまい、無言でうなずいた。
「実はちょうど誰かに聞いて欲しい話があって」
もはやマルチか宗教のどちらかで確定だろう。なんてことだ、あわよくば彼女を食べてしまいたいと思っていた自分が食い物にされるとは皮肉なものだ。

「何かの勧誘ですか?」
俺のばか!思わずストレートに聞いてしまった。これでは作戦もクソったれもない。俺は彼女を食うため、彼女に食われないために、直感を頼りに会話を展開していくしかなくなった。
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