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第二章 幻の虹
二の九
「あ、来ました、あれです」
善吉が指をさした。
田畑の間を、西のほうから五人の男達がぞろぞろ歩いてくるのが見えた。想定よりも人数が多いのは、どこかで人を集めてきたのだろう。まだ二町ほど向こうにいるのだが、三人は彼らに向かって歩み寄っていった。多嘉の家からはなるべく遠い場所でやりあおうと考えていた。多嘉には気づかれずに始末をつけたい。
憤りのようなものが、小源太の腹の中に湧いてきていた。老人から金を巻きあげるのに、大の男が五人も首をそろえてやってくる。
――年老いて弱っていく人を、いたわるどころか食い物にすることしかしない。
と小源太は思う。人の世はこれほどまでにすさんでいる。他人を踏みにじって自分が得をすることしか考えない。人間とはこれほど愚かな生き物なのか――。
五人の前に立ちふさがった小源太達を、ねめつけるように男たちは見た。中のひとり、駒市は父親の善吉をみとめて、ちょっとたじろいだ様子であった。
「なんだ、爺と若衆が何か用か、え?」
先頭にいた、あきらかに堅気の者とは違う雰囲気をまとった、目つきが刃物のようにするどい男が言った。武家を敬うつもりはもうとうない口調であった。
「このままおとなしく引き返してもらおう」小源太は怒りを抑えて言った。「それとも、痛い目を見たいかね」
五人の男達に、小源太を愚弄するような笑みが浮かんだ。
小源太達を取り巻くように、五人が広がった。
そこは、人がふたり並んで歩くのがやっとなほどの道幅であったが、左右の田はまだ起こされておらず、表面は硬く乾いていた。そこに男達が踏み入った。
男達が得物を引き抜いた。三人が匕首を握り、ふたりが長ドスを構えている。この備えからみて、たかりなどという生易しいものではなく、押し込みに来たようだ。
小源太と幸太夫も刀を抜いた。邪魔にならぬように、善吉がさがっていく足音が小源太の耳に聞こえた。
――まったくけしからん。
小源太の怒りがさらに勢いを増し燃えたちはじめた。
「しゃらくせえッ」匕首の男がひとり、腰を落として飛び込んできた。
小源太は、切っ先で匕首を弾くと、刀を返して峰で男の首元を打つ。男はうめいて田の中に転がった。
小源太が押すように間合いをつめると、男達はふたつに割れて、道を間に両側の田に決闘の場が広がった。正眼で構える小源太の前には、長ドスを持った男ふたりが、腰を落として構えている。およそ喧嘩剣法であろうが、場数を踏んできたらしい、油断のできない構えであった。
耳をつんざくような気合いとともに、右の男が腰を落として突っ込んできた。小源太が刀でいなすと、左からもうひとりが、長ドスを振り下ろしてくる。その鋭い一撃を後ろに跳んで、小源太は躱した。
左右から挟み込んで男達は圧迫してくる。左の男は大上段に構えて、右の男はぐっと腰を落として這うような姿勢である。
ふたりは息を合わせて、同時に斬りかかってきた。
わずかに早いと見た左から振り下ろされる一撃を、小源太は刀ではじいた。そうして、足もとを薙いでくる右からの攻撃を跳びあがって躱し、着地するとともに、右側の男の、体が伸びきってがら空きになった首筋を峰で打った。左の男が、刀を翻して切りあげてきた。小源太は体をひねりながら刃を合わせ、くるりと切っ先を回転させ、長ドスをからめて宙に飛ばした。飛んだ長ドスが地面に突き刺さるまでの間に、小源太は相手の肩を打った。よろめいた男のぼんのくぼに峰打ちを入れると、男は前に転がって、田に倒れ伏した。
後ろで、怒号がして振り返ると、幸太夫が駒市を叩き伏せているところであった。もうひとりはすでに倒れ、悶えている。
即座に、善吉が走り寄ってきて、倒れた駒市の胸倉をつかむと、頬を数発平手打ちに殴りつけた。
「この、馬鹿者、馬鹿者っ。お前にはもうほとほと愛想が尽きた。今日で親子の縁を切る。二度と家の敷居をまたくことはゆるさんっ」
善吉の鳴き叫ぶような声を聞きながら、小源太と幸太夫は刀を納めた。
そうして、立ちあがる男達に小源太が言った。
「今後ふたたび、あの家に近づくんじゃないぞ。私は神田の平助親分とは親しいからな。ちょっとでもおかしなことがあれば、すぐにお前達をしょっぴいてもらうぞ」
名前しか知らない平助親分の名を勝手に借りたのだが、効果はあったようだ。男達はすごすごと引きあげて行った。
駒市達が見えなくなるまで見張って、小源太達は多嘉の家へと向かうのだった。
善吉が指をさした。
田畑の間を、西のほうから五人の男達がぞろぞろ歩いてくるのが見えた。想定よりも人数が多いのは、どこかで人を集めてきたのだろう。まだ二町ほど向こうにいるのだが、三人は彼らに向かって歩み寄っていった。多嘉の家からはなるべく遠い場所でやりあおうと考えていた。多嘉には気づかれずに始末をつけたい。
憤りのようなものが、小源太の腹の中に湧いてきていた。老人から金を巻きあげるのに、大の男が五人も首をそろえてやってくる。
――年老いて弱っていく人を、いたわるどころか食い物にすることしかしない。
と小源太は思う。人の世はこれほどまでにすさんでいる。他人を踏みにじって自分が得をすることしか考えない。人間とはこれほど愚かな生き物なのか――。
五人の前に立ちふさがった小源太達を、ねめつけるように男たちは見た。中のひとり、駒市は父親の善吉をみとめて、ちょっとたじろいだ様子であった。
「なんだ、爺と若衆が何か用か、え?」
先頭にいた、あきらかに堅気の者とは違う雰囲気をまとった、目つきが刃物のようにするどい男が言った。武家を敬うつもりはもうとうない口調であった。
「このままおとなしく引き返してもらおう」小源太は怒りを抑えて言った。「それとも、痛い目を見たいかね」
五人の男達に、小源太を愚弄するような笑みが浮かんだ。
小源太達を取り巻くように、五人が広がった。
そこは、人がふたり並んで歩くのがやっとなほどの道幅であったが、左右の田はまだ起こされておらず、表面は硬く乾いていた。そこに男達が踏み入った。
男達が得物を引き抜いた。三人が匕首を握り、ふたりが長ドスを構えている。この備えからみて、たかりなどという生易しいものではなく、押し込みに来たようだ。
小源太と幸太夫も刀を抜いた。邪魔にならぬように、善吉がさがっていく足音が小源太の耳に聞こえた。
――まったくけしからん。
小源太の怒りがさらに勢いを増し燃えたちはじめた。
「しゃらくせえッ」匕首の男がひとり、腰を落として飛び込んできた。
小源太は、切っ先で匕首を弾くと、刀を返して峰で男の首元を打つ。男はうめいて田の中に転がった。
小源太が押すように間合いをつめると、男達はふたつに割れて、道を間に両側の田に決闘の場が広がった。正眼で構える小源太の前には、長ドスを持った男ふたりが、腰を落として構えている。およそ喧嘩剣法であろうが、場数を踏んできたらしい、油断のできない構えであった。
耳をつんざくような気合いとともに、右の男が腰を落として突っ込んできた。小源太が刀でいなすと、左からもうひとりが、長ドスを振り下ろしてくる。その鋭い一撃を後ろに跳んで、小源太は躱した。
左右から挟み込んで男達は圧迫してくる。左の男は大上段に構えて、右の男はぐっと腰を落として這うような姿勢である。
ふたりは息を合わせて、同時に斬りかかってきた。
わずかに早いと見た左から振り下ろされる一撃を、小源太は刀ではじいた。そうして、足もとを薙いでくる右からの攻撃を跳びあがって躱し、着地するとともに、右側の男の、体が伸びきってがら空きになった首筋を峰で打った。左の男が、刀を翻して切りあげてきた。小源太は体をひねりながら刃を合わせ、くるりと切っ先を回転させ、長ドスをからめて宙に飛ばした。飛んだ長ドスが地面に突き刺さるまでの間に、小源太は相手の肩を打った。よろめいた男のぼんのくぼに峰打ちを入れると、男は前に転がって、田に倒れ伏した。
後ろで、怒号がして振り返ると、幸太夫が駒市を叩き伏せているところであった。もうひとりはすでに倒れ、悶えている。
即座に、善吉が走り寄ってきて、倒れた駒市の胸倉をつかむと、頬を数発平手打ちに殴りつけた。
「この、馬鹿者、馬鹿者っ。お前にはもうほとほと愛想が尽きた。今日で親子の縁を切る。二度と家の敷居をまたくことはゆるさんっ」
善吉の鳴き叫ぶような声を聞きながら、小源太と幸太夫は刀を納めた。
そうして、立ちあがる男達に小源太が言った。
「今後ふたたび、あの家に近づくんじゃないぞ。私は神田の平助親分とは親しいからな。ちょっとでもおかしなことがあれば、すぐにお前達をしょっぴいてもらうぞ」
名前しか知らない平助親分の名を勝手に借りたのだが、効果はあったようだ。男達はすごすごと引きあげて行った。
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