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第五章 暗い駕籠
五の七
呼吸を計り、向かって左の男が小源太の切っ先を弾くように刀を動かした。あきらかに牽制であったが、一歩引いた小源太を右の男が追うように迫り、迫りつつ刀を振り上げ、間合いに入ったとたんに刀を振り下ろす。闇を斬り裂くような剣を、かろうじてかわし、かわしたところに、左の男が下段から斬りあげてくる。小源太はさらに後ろにさがる。この刺客ふたりは剣術道場の同門だろうか、すばらしく息の合った連携攻撃であった。
小源太は生つばを飲んだ。
もう後がない。さらに一歩さがれば、土手のきわから堀の中へ転がり落ちる。
さらにまずいことに、左の男がその気になって数歩走るだけで、駕籠まで小源太よりも早く到達できるだろう。
いささか強引だが、小源太は短く気合いを発し、左の男に斬りかかった。
男は小源太の刀を受け流しつつ、数歩下がった。
さがらせてできた駕籠と男達との隙間に、小源太は陣取った。
駕籠の向こうから悲鳴があがった。
貝守がひとり斬ったようである。
小源太の右の男が、ちらとそちらに意識が奪われた隙を見逃さず、小源太は体をすべらせて、刀を薙いだ。
かっと呻いて男が飛び退る。右の二の腕を小源太は峰で打ったが、男は左腕一本で刀を構えた。骨にひびくらいは入ったはずだが、男はそれくらいではへこたれないようだ。
左の男が大上段に構え、気合い声とともに振りおろしてきた。空から岩が降ってきたような圧力を持って襲いくる剣を、小源太はかわす。かわしたところに、右の男が片手殴りに刀を振るった。強烈ではあったが、片手であった。威力の弱い攻撃を、小源太が体をひらいてかわすと、男はよろめいた。そこへ、左手を狙って、小源太は峰打ちを入れた。左の手首も折れたろう。ぬうと唸って、男は刀を落とした。
さらに、もうひとりが、ふたたび大上段から打ちおろす。雷撃のような一閃であった。
小源太は、力の乗った一撃を刀を合わせつついなすと、相手の刀は地面に喰い込んだ。すかさず、小源太は、手の甲を峰で打った。男は引き抜けぬ刀を手放し、右手を押さえつつ、後ろさがりに間合いをとった。
さらに、後ろで悲鳴が聞こえた。
小源太が振り向くと、襲撃者の刀が宙を舞い、さらに細かいなにかが数個、血の筋を引いて虚空に飛んだ。おそらく貝守に斬り飛ばされた指だろう。
「退けっ」
襲撃者のひとりが叫んだ。
男達は同時に身をひるがえし、闇の中へと消えていった。
彼らはいったいどういう手合いですか、と籠の中へ向けて訊こうとして、小源太は口をつぐんだ。
おそらく、これも小源太の知らなくていい事柄のひとつであろう。
そう思案しながら、刃に拭いをかけると、鞘にしまった。
駕籠は何事もなかったように、動きはじめた。
翌朝になって、金井半兵衛が小源太の長屋を訪ねてきた。
「駕籠の護衛はもういいよ。襲ってきた奴らも、しばらくはなりをひそめるだろうさ」
そう言って、手当ての金を懐から出して床に置いた。
その厚みから見て、十両ばかりは包んであるだろう。さすが張孔堂、あれほど広大な屋敷を持っているだけはある、太っ腹だ、と、内心にんまりとしつつ、小源太は思い切って、昨夜のみ込んだ言葉を口にしようとした。が、
「なにも訊かないでくれ」金井がとめた。「訊かれたって、俺にゃあ答えられないからなあ」
「しかし」と小源太もちょっと食い下がってみた。「何も教えてくれないんじゃあ、寝覚めが悪いと言いますか、胸の中のもやもやがいっこうに晴れません」
「しかたないなあ、じゃあ、ひとつだけ教えてやるよ」
「なんです?」
「昨日駕籠に乗っていたのは、うちの大将だ」
「やっぱり由井様だったのですね」
「昨日は、な」
小源太は眉根を寄せた。ずいぶん思わせぶりな金井の言い様である。
「あんまり悩むとお肌に悪いぜ。忘れちまいな」
そうしてからからと笑いながら、金井は帰っていった。
小源太は生つばを飲んだ。
もう後がない。さらに一歩さがれば、土手のきわから堀の中へ転がり落ちる。
さらにまずいことに、左の男がその気になって数歩走るだけで、駕籠まで小源太よりも早く到達できるだろう。
いささか強引だが、小源太は短く気合いを発し、左の男に斬りかかった。
男は小源太の刀を受け流しつつ、数歩下がった。
さがらせてできた駕籠と男達との隙間に、小源太は陣取った。
駕籠の向こうから悲鳴があがった。
貝守がひとり斬ったようである。
小源太の右の男が、ちらとそちらに意識が奪われた隙を見逃さず、小源太は体をすべらせて、刀を薙いだ。
かっと呻いて男が飛び退る。右の二の腕を小源太は峰で打ったが、男は左腕一本で刀を構えた。骨にひびくらいは入ったはずだが、男はそれくらいではへこたれないようだ。
左の男が大上段に構え、気合い声とともに振りおろしてきた。空から岩が降ってきたような圧力を持って襲いくる剣を、小源太はかわす。かわしたところに、右の男が片手殴りに刀を振るった。強烈ではあったが、片手であった。威力の弱い攻撃を、小源太が体をひらいてかわすと、男はよろめいた。そこへ、左手を狙って、小源太は峰打ちを入れた。左の手首も折れたろう。ぬうと唸って、男は刀を落とした。
さらに、もうひとりが、ふたたび大上段から打ちおろす。雷撃のような一閃であった。
小源太は、力の乗った一撃を刀を合わせつついなすと、相手の刀は地面に喰い込んだ。すかさず、小源太は、手の甲を峰で打った。男は引き抜けぬ刀を手放し、右手を押さえつつ、後ろさがりに間合いをとった。
さらに、後ろで悲鳴が聞こえた。
小源太が振り向くと、襲撃者の刀が宙を舞い、さらに細かいなにかが数個、血の筋を引いて虚空に飛んだ。おそらく貝守に斬り飛ばされた指だろう。
「退けっ」
襲撃者のひとりが叫んだ。
男達は同時に身をひるがえし、闇の中へと消えていった。
彼らはいったいどういう手合いですか、と籠の中へ向けて訊こうとして、小源太は口をつぐんだ。
おそらく、これも小源太の知らなくていい事柄のひとつであろう。
そう思案しながら、刃に拭いをかけると、鞘にしまった。
駕籠は何事もなかったように、動きはじめた。
翌朝になって、金井半兵衛が小源太の長屋を訪ねてきた。
「駕籠の護衛はもういいよ。襲ってきた奴らも、しばらくはなりをひそめるだろうさ」
そう言って、手当ての金を懐から出して床に置いた。
その厚みから見て、十両ばかりは包んであるだろう。さすが張孔堂、あれほど広大な屋敷を持っているだけはある、太っ腹だ、と、内心にんまりとしつつ、小源太は思い切って、昨夜のみ込んだ言葉を口にしようとした。が、
「なにも訊かないでくれ」金井がとめた。「訊かれたって、俺にゃあ答えられないからなあ」
「しかし」と小源太もちょっと食い下がってみた。「何も教えてくれないんじゃあ、寝覚めが悪いと言いますか、胸の中のもやもやがいっこうに晴れません」
「しかたないなあ、じゃあ、ひとつだけ教えてやるよ」
「なんです?」
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「やっぱり由井様だったのですね」
「昨日は、な」
小源太は眉根を寄せた。ずいぶん思わせぶりな金井の言い様である。
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