おばけやさん

有楽 森

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おばけやさん

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 公園のそばの電信柱に、一枚の張り紙があります。


『おばけの こまりごと かいけつします  おばけや』


 学校の裏の森のにある、古びた小屋。 そこにお化け屋さんはいました。

 お化け屋さんは黒くて、お洒落な帽子を被り、紅茶を飲みながら、今日もお客さんを待っています。






 はい、私が『おばけや』でございます。 お化けの困り事を解決いたします。


 ただし、二つだけ、お約束してください。


 一つ目は、私の事を決して、誰にも話さない事。 こんな商売ですからね、恨まれたくないんです。


 二つ目は、困り事に関するお願いは一度だけ。解決するのは一回だけです。


 良いですか。お約束は守ってくださいよ。 守ってくださるなら、あなたはお客様です。




 初めのお客様は……おや、お巡りさんですね。

 何と! 化け狐が皆を騙して、困っているですって!? ……そうですか。 それは本当に困りましたね。

 でも大丈夫。 簡単ですよ。 狐の天敵を連れてくれば良いんです。

 狐の天敵といえば…………オオカミです。

 そう、オオカミを連れてくれば、化け狐は怖がって逃げていきますよ。


 いえいえ、お礼なんて良いんです。 化け狐がいなくなると良いですね。




 次のお客様は……ああ、町長さんですか。 こんにちは。 どうなさったんですか?

 え? 吸血鬼が町にやってきて、人間を襲っているですって!?

 ああ、恐ろしい! でも安心してください! 吸血鬼は怖いお化けですが、弱点も多いんです。

 吸血鬼は太陽の光とニンニクの匂いが嫌いなんですよ。 知ってました?

 ですから、昼間、吸血鬼が寝ている間に、町中にニンニクを吊るしておけば、吸血鬼は町を歩けなくなりますよ。

 ああ! そうそう! 

 それから、吸血鬼はトマトも好きらしいですから、プレゼントしてみるのはどうですか? 案外、人を襲わなくなるかもしれませんね。





 次のお客様ですね。 えぇっと、八百屋さん! いつも美味しいお野菜をありがとうございます。

 え? お店に貧乏神が居付いてしまったですって!? お店が潰れそうだなんて……それでは、美味しいお野菜が食べれなくなるじゃないですか。

 良いでしょう。私に、とっておきの策があります。

 まず、貧乏神にとご馳走をふるまうんです。それから貧乏神を崇めて大切に…………え?それは出来ないんですか?

 そう、ですか……私にしては珍しく、良い案だったんですけどね。 できないというのなら仕方ありませんね。

 では、私が座敷童を連れてまいりましょう。 座敷童がいれば、絶対お金持ちになれますから、そうすれば、貧乏神も嫌がって出て行くでしょう。

 もしかして、私が座敷童を連れて来れるか、疑ってらしゃる?

 任せてください! 座敷童は気まぐれですからね、私にかかればその気にさせるのも簡単ですよ。


 喜んでいただけて、私も嬉しいです。





 今日はお客様が多いですね。 最後のお客様は農家さんですか。


 なるほど。河童がやってきて、畑のきゅうりを食べてしまうんですね。


 勝手にきゅうりを食べるなんて、いけない子。 きっと、きゅうりが美味しいのでしょうね。

 河童対策は慣れています。 簡単な事です。 河童に相撲で勝てば良いんですよ。 負ければ逃げていきますから。

 勝つのも簡単なんですよ?

 良いですか? お仏壇にお供えしたご飯を食べてから、相撲をとるんです。 そうすると、河童は力が出なくてフニャフニャになりますから、絶対に勝てます。

 頑張ってくださいね。




 今日もたくさん喜んでいただけました。 良い事をする、と気分が良いですね。


 あれ?  あなたは化け狐に困っていた、お巡りさんではありませんか。 どうかなさったんですか?


 今度は、オオカミが人を襲い始めて、困ってるですって!? 私にオオカミを何とかして欲しくて、に来たんですか?


 よしてくださいよ。 オオカミ退治なんて、出来るわけないじゃないですか。


 それにしても、お願いするのは、一回だけってお約束したじゃないですか。


 どうしてお約束を守ってくれなかったんです?


 残念です。 残念です。 ああ、悲しいな。


 お約束を守らないなら、あなたはお客様じゃありません。


 私のごはんにして差し上げましょう。



 え? 私は人間じゃないのかって? 嫌だなぁ、私は『』ですよ。 


 お化けに決まってるじゃないですか。






「うひゃぁぁぁぁぁ! た、た、た、たすけてくれぇ!」




 静かな森に、大きな悲鳴が響き渡りました。

 一目散に逃げていくお巡りさんの後ろ姿を、夜のフクロウと、帽子を持ったおばけ屋さんが見送ります。


「あれあれ、残念。逃げられてしまいました」


 お化け屋さんはそう言って、帽子を被り直すと、古い小屋の中に戻っていきます。


――パタン――


 扉が閉まると、小屋はパッと姿を消し、すると、そこはもう、木と草が生えた、ただの森になっていました。


 でも、見えなくたって、おばけ屋さんはそこにいるんです。

 そして今日もお客様を待っています。





 いらっしゃいませ。 私は『おばけや』です


 お約束を守ってくださるなら、お客様です。


 それで、どんなお化けでお困りですか?

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