超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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序章

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 それはごく限られた、狭い世界にしか存在しないモノであるが、無限の可能性を持っているモノである。

 それは誰もが必ず持っているモノであるが、決して触れる事の出来ないモノである。

 それは己の欲求を満たす為だけのモノであるが、時として世界をも動かす力となる。

 それはごく当たり前に存在するモノであるが、それを人は病気と呼び、それに取りつかれた僕は病人と言える。



 僕はずっと夢を見ていた。毎夜繰り返す夢はまるで空蝉のごとく、陽炎に映る蜃気楼のよう。


 朝は必ず母に起こされ、朝食の香りに包まれ目を覚ます。
    父はすでに出勤の準備を整え、ゆったりと新聞を読んでいる。学校に行けば友人達と勉学に励み遊びまわる。
 
   兄弟が一人か二人。兄か妹か。外には四角い石の建物が立ち並び、油で動く車が走り回る。

 一つしかない太陽が地上を照らし、やはり一つしかない月が明るい夜を見守っている。

 まるで現実味のないこの世界は、信じるに値しないただの夢のはずだった。





 ≪豊穣の地神大陸≫の南端。内海に突き出した半島にその町はあった。
    海と山に挟まれ、他大陸との貿易の中継地として栄えている。港には毎日貿易船が来航し、入れ替わり立ち代わり行き来する。

 古来より中継貿易で栄えた地方で、獣人、魔人、鳥人、魚人など、様々な人種が暮らしている。
    その為町は様々な大陸の文化が入り交じり、独特な文化を形成していた。

    住人たちにとってはそれが誇りであり町の自慢であったのだが、文化を持たぬ空のプライドと揶揄する者も少なくなかった。


 そんな町のはずれに広い畑と小規模の放牧場を兼ね備えた家が一軒建っていた。その家には三人の若者が暮らしている。

     この国には十五を迎えた子供が親元を離れ暮らすという、古い風習が今もなお残っていた。
    子供たちは働き生活をし、決められた金額を貯めるまで故郷には帰らないのだ。

    とはいえいきなり一人放り出すのは無理ある。大抵の場合親戚の近くか、友人や兄弟同士で一つの家に住むのが通例になっていた。

 ルイとカウルの兄弟も同様で、いとこのカダンと同居を始めて四年が経とうとしている。

 魔人の母と狼人の父を持つ双子の兄弟で、魔人特有の赤毛と獣人特有の耳と尻尾を持つ。

    魔人の多い故郷では目立つ姿もこの町ではさほど珍しくなく、苦労なく溶け込めた。不安でたまらなかった暮らしも慣れれば快適で、今では故郷の村に戻るのを迷っている。

 何せここでは尻尾と耳があると指を刺される事も、そのくせ髪が赤いと陰口を叩かれる事もない。二人にとってここは普通であることを許された初めての場所だった。



 ギャー……ギャーと一番鳥が朝を告げる。

    カダンは重い頭を持ち上げ窓の外を見た。
    窓の外は薄く白ばみ始め、二番鳥が鳴く頃には西の山から一つ目の太陽が顔を出すだろう。

 部屋のドアが二回鳴った。

「カダン起きてるか?」

 返事をする前にドアが開き、長髪の赤毛の男が顔を覗かせた。
    双子の片割れ、ルイだ。

「今起きたところ。」

 体は布団にうずめたまま寝ぼけ眼で返事をするカダンに、ルイは素っ気ない態度で≪御飯だよ≫と短く用件を伝えただけで戻っていった。

 ルイを見送り扉が完全に閉まってから、カダンはようやくベッドから這い出した。
    ベッドサイドに腰掛け正面の壁に掛けられた丸い鏡に、未だ眠り足りない自身の顔が写っている。

「俺の髪は白いな」

 滅多に寝ぐせのつかない白髪は密かに自慢だったのだが、≪あの夢≫を見た後ではいつも自分が老けたように感じる。

    だが今日はそれでも気分が良い。

「夢では何と言っていただろう」

 鏡の中の自分に問いかけるが答えは返ってこない。
    予感めいたものだったのは確かだ。口元から笑みがこぼれる。

 カダンは手櫛で髪を整え特に着替えもせず、双子が待つ居間へ向かった。

    するとカウルとルイはすでにテーブルにつき食事を始めており、カウルがカダンをジロリと睨んだ。

「遅いぞカダン」

 一口大の小ぶりのパンを頬張りながらカウルが言った。

「先に食べているよ」

 ルイはその横で自身の二の腕ほどもあるソーセージを切り分けている。


 よく似ている二人だが髪型は対照的だ。カウルは邪魔になると赤毛を短く刈り込んで、反対にルイは背中まで伸ばし紐で結わいでいる。
    魔力は髪に宿るという迷信に基づいた験を担いたものであり、決して切るのが面倒だからではないというのが本人の言い分だ。

    ともあれ双子に馴染みの薄い相手にはわかりやすかったし、二人としても毎回訂正するのはやはり面倒だった。


 カダンは用意された食事の前に座り、一度は箸を取ったが再び箸置きに戻した。

「今日すごい夢を見たんだ」

 カダンは興奮気味に言うが、二人が興味を示す素振りはない。
    だがカダンはそんな事にはかまわず続けた。

「異世界から勇者がやってくるんだ」

「ここ数十年は戦争は起きてないよ」

 やや間を開けルイが興味なさげに言った。

「世界征服を企む暇な奴なんていないだろう。それとも敵も異世界からやってくるのか?」

 怠そうにカウルが続ける。

    そもそも二人とって異世界の存在自体が全くの夢物語であり、耳にタコができるほど聞き飽きた戯言だった。
    今更興味を示すわけもなく、ましてや慌てるはずもない。

「二人とも夢がないよ。もっと楽しいこと考えようよ」

 これにはカウルは渋い顔で箸を止めた。

「あのな、誰も世界規模の争乱なんて求めてない。何もない方が良いに決まっているだろう。どこが楽しいんだよ。俺は面倒事はごめんだからな」

 もっとも過ぎる言い分にカダンはそれ以上何も言えず、口を閉じざるえなかった。



 太陽も高く昇りもうじき三番鳥が時刻を告げる頃、カウルは牛小屋の中一人でいた。
    本来の住人たちは小屋の外、二メートル近くもある柵の中で、思い思いに食事を楽しんでいる。カウルはそんな牛たちも好きだが今は眺めている余裕はない。

 スコップを握りしめ小屋の奥へ進んだ。
    掃除をするためだ。
    色んな臭いの混じるこの場所は決して良い香りとは言えないが、牛たちの事を思えば苦ではなくむしろ慣れてしまえば癖になる気がしないでもない。

    自然と歌を口ずさむ。

「愛に生きて~愛に溺れる~」

 この町に来たばかり頃は仕事の要領も悪く、楽しさも解らず苦労ばかりしていた。
    農業は決して楽ではないし体力も気力もいる。
    それでも一つの事が出来るようになれば嬉しかったし、その度にやりがいを見いだせた。

    あの頃から考えられないが、牛に対する認識も変わり今では我が子のような愛おしささえ感じる。
    そのため肉用牛の飼育からあくまでも使役動物としての牛の飼育に切り替えた。
    人間の命令に従う牛は貴重で評判は上々だ。


 成人のしきたりも案外悪くない。
    自分の意外な一面を知るきっかけになったし、今ではまたこの町に戻って来ようか悩んでいるくらいだ。

「あなたの全てを~奪い尽くしてしまいたい~」

 戦場で生き物は扱いにくいという理由から、兵器としての燃料を用いた自動車はあるものの、速度や燃費の関係から世間では今も馬や牛が車を牽引する。
    もっとも牛は非常に珍しい。
    まだしばらくは需要はなくならないと踏んでいるが、それもいつかは取って代わられるだろう。それまで続けるか悩みどころだ。
 
「裏切りに気づかないで~欲望を堪え切れない~」

 この町に来てから早や四年。
    両親に会った回数は片手で数えてなお余る。

    その甲斐あってか否か、予定よりも早く目標額に届きそうで、上手く行けば二十歳を超える前に家に帰れるかもしれない。

    カダンの協力なしには到底無理であっただろう。
    それはカウルだけでなくルイだって重々承知しているし、口にこそ出さないが感謝している。

「君を壊してしまう前に~告げるサヨナラをどうか~」

 小屋の入り口のすぐ脇、糞を山と積んだところでカウルは手を止めた。

「カダンのやつは本当に大丈夫か?」

 誰に尋ねた訳ではない。
    カウルはスコップを地面に突き刺し柄に顎を乗せた。

 カダンの夢物語は歳を負う毎に酷くなっていく。

    今朝はついにユウシャが来るなど妄言を吐く始末。双子の両親は≪心の病≫と言っていた。

「本気なんだろうな………本当にならないよな。ユウシャなんて縁起でもない。」


 不意に誰かが裾を、遠慮を全く感じられない力加減で引っ張った。
    振り向くと牛が一頭、デロンと伸びた裾を銜えたまま可愛らしく首を傾げていた。
    黒と白の独特の色合いを持つ彼女は、カウルの一番のお気に入り。
    裾が伸びるくらいいくらでも許してしまうし、むしろ怒る気になんて全くなれない。

「どうしたケイト。今日は甘えんぼさんだな」

「モフッモモッフ~」

「もう少し待ってくれ。すぐそっちに行くから。その間ちゃんとご飯を食べてるんだよ」

「フモモ・・・・・・モウ」

「しっかり食べないとお腹の子にさわるよ」

「ウモモン」

「大丈夫、君の子ならきっと美人だよ。俺が付いてるから心配しないで。」

「まさか・・・お腹の子あーたの子どもなン?」

「まさかそんなわ・・・・・・け!?」

 カウルは、まさか牛のケイトがついに喋りだしたのかと目を見張った。
    しかし当然そんなわけもなく、ケイトは潤んだ大きな瞳を可愛らしく向けるばかりだ。

「ちっとここから出してーよ。牛が集まて出らえないのよ」

「ケイトじゃない、となれば……」

 カウルは誰か来たのかと辺りを見回した。

    すると牛たちがいるはずの放牧場に、どうやって入ったのか中に女が一人がいる。

 放牧場へは牛小屋からしか出入りできないし、その牛小屋にはずっとカウルがいた。
    すぐ横を人が通って気が付かないほど鈍くはない。
    だからと言って、彼女が二メートル近くもある柵を飛び越えたとも思えず、そうなると、柵のどこかが壊れてそこから入ったに違いない。

 カウルの育てた牛は比較的大人しいが、元は気性の荒い性格だ。
    興奮すると柵を飛び越えようとして壊す事もたまにはあった。

 何を考えて牛のいる放牧場へ入り込んだのかは解らないが、仮に牛泥棒としても、普通なら怪我だけじゃすまない行為だ。

 どう言うつもりか問いただすにしろ、まずは出してやらなければならないだろう。

 カウルが牛小屋の中に戻ると、放牧場へ続く通路はすでに閂が外れていた。
    だが、怯えた牛たちが押し寄せ詰まり、彼ら自身も身動きを取れないでいる。

    閂を外した犯人はケイトに違いない。彼女には前科があった。

「よしよし、もう大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だからな」

 それにしてもだ。牛たちがここまで怯えるのも珍しかった。
    いくらカウルが声をかけても、牛たちが散らばるどころか、すぐにでも出るつもりで遠慮なく間合いを詰めてくる女を見て、縋ってくる始末。

 栗色の髪に日に焼けていない白肌。
    女にしては凛々しい目鼻立ちは、むしろ美しくもある。

    ただ奇妙な事に冬だというのに生地の薄い袖のない服を着ている。

   
    どう見ても彼女は≪変≫だ。


「……あんた誰だよ。勝手に入った駄目じゃないか。早く出ろよ。かわいそうに牛たちが怯えている」

「だからその牛をどかしてって言っているのよ。ぐずぐずしなーで早くしなさいよ。こんな臭い所まっぴらよ」

「くっ……なんであんたが偉そう何だよ。不審者だろうが!」

 カウルが拳を握るのと同時に、ケイトも鼻息を荒くした。

    潤んだ瞳も心なしか、鋭利な刃物のように光って見える。
    右前足で地面を一蹴り二蹴りすれば、小さく土埃がたった。

「ヴモモォ・・・・・・モヴォ・・・・・・」

 出入り口を塞いでいた牛たちは、ケイトの一声で放牧場に散らばった。

 ようやく牛たちがいなくなり外に出られと、女は満面の笑みを浮かべ上機嫌で浮足立っている。

    歳はカウルと同じくらいか、少し上だろう女は強い訛りで言った。

「ありがとうごじぇます。急で悪いのらけど、ここがどこかおせーてください」

「どこって・・・そういやさっきからヒドイ訛りだな。外国人か?まあ、珍しくはないが」

「私の名前はマリー・ソコロワ。丁度中国で旅行中だーたのけど、わーしが判らないちーに、ここに移動したみたい。なに中国はユーラシア大陸の東で、国土面積は世界三の東洋の国よ。言葉が違うみたいたし、ここわ中国でわないのっしょ?あーた何かご存じない?」


 マリーと名乗った女が言った地名と思しき単語は、世界地図のどこにも載っていない。


「すまないが、あんたが言っている意味が判らない。他を当たってくれ。役所は町の中央、一番目立つ建物だから、行けばすぐ判る。町はほら、東の方角だ」

 奇妙な衣で立ちもそうだが、話を聞く限り面倒な予感しかしなかった。

    何も判らずに立ち往生しているらしい女は、いくら不審者とはいえ、いやむしろ不審者だからこそ、素直に役所に行ってもらうのが一番というものだ。

 だが不幸にもカウルの思惑とは裏腹に、横で鼻息を荒くする者がいた。

「モフゥ・・・・・・モフモフ!モモフッフ!!」

「何よこの牛・・・・・わーしに喧嘩売っているの?何でよ!?」

「いきなりどうしたんだ、ケイト?おい、落ち着け」

「ケイト?あーた牛にんな名前をててるの。牛に?ケイト?ははっ・・・・・・ごめーんさいでも変わった名前なーのね」

「何だと?・・・・・」

 これほど失礼な奴がいただろうか。

    カウルは自身の容姿をとやかく言われるのには慣れていたが、丹精込めて育て名付けた牛を馬鹿にされ腹が立った。

「悪いと思っていたから黙っていたが、そっちこそマリーって何だよ。まるで馬の名前がじゃないか?恥ずかしくないのか?というか俺なら恥ずかしくて名乗れない」

「人の名前馬鹿にしないでよ。失礼でしょ」

 自分は棚にあげて、女が声を荒げた。

    カウルが考えてくれた大事な名前を笑われ、ケイトの興奮も最高潮に達する。
    目は真っ赤に血走り、足下は土煙に覆われる。

    次の瞬間、ケイトが胴体を小刻みに揺らしたかと思えば、勢いよく飛び出した。
    弾丸というべきケイトは、マリー目掛けてまっしぐらに駆けていく。

「ま、待て!」

 カウルの制止も間に合わず、大惨事になるのは容易に想像できた。


 きっと、ケイトは女の腹に角を突き刺し振り上げる。女の軽い体は高く上がり、やがて地面に叩きつけられるが、続けさまにケイトは前足で全体重で乗せ押さえつけ、胸に顔に腹に目がけて角を突き刺しえぐるに違いない。

    そうなればカウルにも止めようがない。


 カウルが最悪のケースに顔を真っ青にし、ケイトの鋭い角がマリーの腹に突き刺さろうかという瞬間、マリーの体がふわりと浮いた。

    ケイトの角を掴み、頭上で反転し、見事な弧を描きながら空を舞う。
    女はケイトの背後に着地すると、余裕ともとれる笑みを零した。

「おいおい。ケイトは闘牛の戦士だぞ」

 人間業とは思えない光景に呆気にとられ、カウルはなぜか今朝のカダンを言葉を思い出していた。

「あいつは何って言ってたっけ?」





  ちょうどその頃カダンは朝食の片付けを済ませた後、麻袋とそれとは別の肉を入れた小さな袋を抱えて山へ入った。

    昇った太陽が青い空を背景に輝いているが、冬を装い始めたこの時期でも、夏に比べれば太陽の位置は低く、地上を温めるには日差しがいくらか足りない。
    山に登ればすでに雪も積もっている。

 その日の山はとても奇妙であった。

 冬である事を差し引いても、妙に静かで動物達の息づく気配すらない。
 さらに、山の至る所から果実が熟れたような、甘い匂いが立ち込めている。

 カダンは雪に強く冬でも茂る、腰ほどもある草を掻き分け、慎重に探りながら足を進めた。

 山には獣を捕まえる為の罠が多く仕掛けられている。
 罠を仕掛ける時は、他の人が誤ってかからないように印をするのが決まりだが、つけ忘れたり、動物や風に荒らされ、なくなっている場合もある。

 カダンも山には罠をいくつか仕掛けてあるため、印はいつも飛ばないようしっかりと付けていた。
 カダンの腰のベルトに巻きつけた数本のリボンもそのためのものだ。

 ちなみに猟師によって色が決まっており、カダンは同じく猟師であった祖父の赤いリボンを引き継ぎ使用していた。


 しばらく行くと、木の枝に結えられた、赤いリボンが風になびいているのが見えた。
 木のふもとに罠があるはずだ。

「…………」

 微かであったが何かの声がした。獣の鳴き声にしては聞いたことがない。声は低く風にかき消されそうなほどか細い。

「……誰がいるの?」

 そうであって欲しくない心理が無意識に働いた。歩みが遅くなり、歯をキュッと食いしばる。

「…………」

 今度ははっきりと声が聞こえた。
 言葉は聞き取れなかったが、これは獣ではありえない。

 カダンは駆け寄る前に大きくため息を吐いた。

 狩りを始めた頃の苦い記憶が蘇る。
 正直なところ、山のルールを知らないのであれば、入ってきて欲しくないのが本音だ。


「大丈夫ですか?」

 急いで駆け寄った風を装って、小走りになる。
 少々慌てたくらいが心象も悪くはならないだろうか。小狡い計算が無意識に働く。

 ただしカダンの呼びかけに今度は返事が返ってこなかった。

「大……丈……」

 言葉を最後まで言えなかった。
 相手が答えられないとわかったからだ。
 
 罠に掛かっていたのは魔人族によく似た、しかし黒髪の男だった。
 無駄な肉を一切削ぎ落としたようにひょろく、生白い肌が山とは驚くほど似つかわしくない。
 元は白かったであろうシャツとダークグレーのズボンは泥で茶色くマーブル模様に染まっている。

 長い事この場にいたのだろう。
 足に噛み付いたままの《罠》は、赤い血が固まりかけている。
 地面の色も赤黒く染まり、男の流した血のおびただしさがわかる。

「生きてるよね」

 息をしているのを確認した。

 心臓は動いている。

「この格好・・・どこかで見たことあるな。」

 シンプルだがあまり見ない格好だった。
 だが首に巻かれたカラフルな紐は、王都で流行っているのだと言われれば、皆納得するだろう、という程度の違和感であり、特に気に止める程のことではないはずだ。

『・・・ダレカ・・・タスケ・・・』

 男が目を開けず何かをいうのだが、この国の言葉ではなかった。
 他国の人が入り混じる貿易の町でも聞いたことすらない響き。
 見慣れぬ男の服装。

 それらがカダンに何かを訴える。

「異国の人か……それとも、まさか……?」

 カダンの脳裏では、今朝の夢のセリフがポツと浮かんだ。


《もうすぐ行くから……もうすぐだ……》


「勇者が来たんだ」

 誰に言うわけでなく、口からこぼれた。






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