超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
4 / 180
冬に咲く花

3

しおりを挟む
『猫が…チシャ猫が…』

「僕は猫じゃないよ」

 孝宏は額を軽く叩かれ目が覚めた。

 ぼやける視界に初めに見えたのは、目前に迫る人の顔。
 絵の具で塗りたくったような真っ赤な髪に三角の耳。
 太陽とは無縁の白い肌に艶やかな長髪の男。最近どこかで見た顔だ。

 男は不機嫌に顔をしかめて、白いタオルを持っていた。額にヒヤリとしたタオルが優しく乗せられる。

「僕は狼だ。猫又と一緒にするなよ。見ろ、尻尾だってフサフサで立派だろ?」

「ああ確かに。でもそんな尻尾の猫もいるだろ」

「猫又に長毛種はいないよ」

 孝宏は寝ぼけた頭で答え、あることに気付きゾッとした。

『俺今、変な言葉喋ったかな……?』

「お前何言ってんの。異世界の言葉なんて、僕は知らないんだから、この国言葉で喋りなよ。さっきみたいにさ」

『喋って俺……何で?』

「ああもう。皆呼んでくるから、そこから動かないでね」

 要領の得ない孝宏の態度は、男を苛立たせた。

 孝宏が寝ていたすぐ左脇には扉があり、男はそこから外に出て行った。

「それで何でか俺も変な言葉を喋るんだよ」

 これは夢の続きかも知れない。

 孝宏は深いため息を吐いた。 


 木製の四脚のイスとテーブル。
 床は木の板が組敷かれているが、細長い台を堺に灰色の石畳に代わり、奥には扉と、よく見えないが釜戸らしき物がある。

 腰の高さほどの瓶が三個並び、野菜が積まれた籠が石畳に直に置かれていた。
 その向かいに食器が並んだ棚があり、細長い台の上には蓋はされていたが、良い香りの漂う鍋が置かれている。

 テーブルの上には、男が飲んでいたのだろう、白いポットとカップが置かれていた。

『どう見ても台所だよな』

 孝宏は台所の角に寝かされていた。

 背中が痛くないのは下に敷かれた簡易ベッドのおかげだろう。
 シーツでくるまれているが、日に干された草の香りがする。

 簡易ベッドを囲うように、床に白いインクで数字と見知らぬ文字とが書かれていた。

 それらが何を意味しているのか、孝宏が知るところではない。
 怪しげな儀式にも見えるが額のタオルは心地よく、少なくとも身の危険はないと気を緩めた。

 男に言われたとおり、孝宏が動かずじっとしていると、数分で数人の見知らぬ男女を引き連れ、男は戻ってきた。

 得げに笑みを浮かべ、さっきとは随分と態度が違う。

「ああ、本当。目を覚ましてる」

「良かった。覚えてるかな。あの後熱出して寝込んでたんだよ」

「いや、安心した。本当に」

「僕が付ききっきり看病したんだから当然だよ」

「皆さん。一応病み上がりですし、そう囲んでは彼も怯えています。それから自己紹介しませんと、おそらく状況を把握していないかと……」

 矢継ぎ早に降ってくる言葉に、一人が首を傾げた。

「え?勇者だし大丈夫だよね」

 白い髪の毛の少年の、一見トンチンカンな発言対し、孝宏はちょっとだけ嘘を吐いた。

「いえ、全く、何が何やら……」


 本当に恐ろしいのだが、孝宏は知っている事があった。



 周囲に集まったのは五人。
 床に書かれた文字に沿って、その内に入らないように並んで立った。

 栗色の髪の女性と赤髪の同じ顔の男が二人、片割れは初めにここにいた男だ。

 それと黒髪の大人の男と、白い短髪の同い年くらいの少年。

 ふと思い出した記憶があった。
 浴室で会った三人は確かこの人達だ。

「もしかして、風呂場であった人?」

 孝宏は白人女性と坊主頭の猫耳男を指差した。

「混乱していたと思ってたが、さすが勇者だな」

「は?」

 この人たちの間で、病人を勇者と呼ぶ習慣がある、訳ではあるまい。
 違和感を感じているのは、孝宏だけのようで、疑問に思っていそうなのは誰もいない。

「元気になったらさ。世界を救う旅に出ような、勇者!」

 白髪の少年から本気のキラキラが、瞳から溢れている。
 握手を交わし満面の笑みで手を握ったまま、上下に激しく振った。

(こいつマジか……)

 本音を隠し笑顔を作り、腕を引っ込めた。

 これはやはり夢の続きかも知れないと、孝宏は内心舌打ちする。

    何せ不思議な事に、孝宏は彼の話が本当になると知っていた。


 ここは地球ではない異世界で、彼らは異世界の住人で、自分こそがここでは異世界人なのだ。

 孝宏自身、突拍子もない考えだと思っているが、否定したいのが不思議なほど、脳裏に深く刻み込まれていた。



 ここは《大いなる神》と呼ばれる世界。

 地球とは異次元に存在する別の世界。

 地球にはない言語を操り、魔法を生活の基礎とする、御伽の世界。



 孝宏はここがどこか、彼らが自分たちとは違う人間だと知っている。


「それでも俺は勇者じゃない」


 孝宏は独りごちた。

 どうして知っているかなんて考えるのはしない。

 既に迷いこんだ身としてはやることは一つだ。

「俺、家に帰りたいです。どうすれば戻れますか?」
 
 やっと掴んだ幸福を逃すわけにはいかなかった。
 それには自分の青春のすべてが詰まっているのだ。

「あなた気持ちはわかるけどね、無理よ」

 座りこんだままの孝宏を見下ろして、栗色の髪の女が言った。前で腕を組み、心なしか表情が硬い。

「現時点で異世界を渡る方法なんてないの。だってそうでしょう?地球にそんな方法があるなんて聞いたことある?」

「でもここは地球じゃないです。魔法の世界です。それに俺は現に異世界を渡って来ているんですから、こちらから地球に行く道がないなんて考えられないんです」

「あるかもしれない、でも現時点では知らないし、わからないって言ってるの。だいたい何?助けてもらったんだから、礼くらい言ったらどうなの?あなた死にかけていたのよ」

 女の声が徐々に強くなっていく。明らかに孝宏に対して不満を持ち、それを隠そうとしていない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...