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冬に咲く花
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しおりを挟む「面白くないな」
作物が膝丈まで伸びた畑の中で、孝宏は額の汗をぬぐった。
骨まで沁みるほどの寒さだと言うのに、服が汗で肌に張り付き、急速に体温を奪っていく。
異世界に落ちてしまってから繰り返される生活に、孝宏は面白みが感じられなくなっていた。とは言え初めから興味が全くなかったわけではない。
地球とよく似ているが違う世界は、忘れていた探究心がくすぐられ、始めの一週間は慣れるために翻弄し、次の一週間は好奇心を満たした。
空に昇る二つの太陽に、真っ青な色の果実。獣の耳や、背中に翼の生えた人間が闊歩する街は、探索していて楽しかった。
しかしそれも一ヶ月が経った今は、反動からか倦怠感に襲われ地球が恋しく思い出される。
「確かに異世界ってかんじだよな」
畑の中、雪に埋もれて整列した植物は、地球と同じく緑の葉を茂らせているが、その合間を縫うように動き回る小さな影もまた、同じように葉を茂らせた小さな若木だった。
若木たちはいくつかある枝を器用に使い、畑の脇に山と積まれた雪をせっせと運んでは畑に撒き、押し固めては運んでと繰り返している。
真っ白な雪は、次第に艶やかな氷となり、冬の弱い日差しに反射して七色に輝く。
この地方では雪はめったに降らない。
なのでこの雪はルイがわざわざ、池の水を雪に変えたモノだ。雪で覆い固めるため、土中の実の甘さが増すのだという。
「よっこいせ!これ本当にやり方!あってるのか!疑わしいよなっと……」
せっせと働く若木に混じり、孝宏も雪を運んでいた。初めは見ているだけのつもりが、いつの間にか同じようにせっせと雪を運んでいるのはほんの気まぐれだ。
「おや?ここの畑で、人を見るのは随分久しぶりだね。一体どうしたんだい?」
畑の淵、農具をしまっている小屋の手前。
前頭部のクルリと内側に巻いた角が特徴的な男がやって来た。
彼はガルブと言って医者をしている男だ。カダンたちと前から懇意にしており、こうしてやってきては収穫した野菜を貰って帰るのだ。
孝宏がカダンたちに助けられた日に呼ばれたのも彼だ。孝宏たちの状況を知り何かと気遣ってくれる数少ない人物だった。
「ルイは相変わらずあの子と一緒かい?」
あの子とはマリーのことだ。
《勇者》が気に入ったのか、それとも単なる好奇心か。マリーは魔術をルイに、剣術をカウルに教わっていた。
始めの頃は孝宏と鈴木も一緒に教わっていた。
それというのも、最低でも魔力を操るくらいはできないと、生活が難しくなると言われたからだ。
鈴木は基本的な魔術を会得した時点でリタイヤした。
どうやら戦闘は向かないらしく、好戦的な魔術は全く使えなかったのだ。今は畑で収穫した野菜や、カダンがとってきた獲物を、町に売りに通っている。
孝宏はというと、魔力を操るどころか、基本魔術すら使えずに今に至る。
あまりのできなさに、ルイは一人で練習するよう言ってきた。正直に見切りを付けたと言えば良いのに、と孝宏は思っていた。
魔力の放出、吸収が全ての魔術の基礎らしいのだが、ルイの言う、体内にある魔力の流れは、何をどうしても解らない。
自分自身進歩がないとは思うが、マリーとの扱いの差があり過ぎて、指示に従いはしても納得できないでた。
「それで、畑仕事してろって言われたのかい?」
「ううん、一人で訓練してって言われた。マリーに教えるので手一杯だから」
「あぁ、それで出来なくて、畑の仕事をしていたのか」
苦笑するガルブに、孝宏は明日の天気を尋ねる調子で言った。
「コツってあるかな」
「と言われてもね、説明するのは難しいね。君だってどうやって2本足で歩いているのって聞かれて説明できないだろう?」
なるほどと妙に納得した。
人体の専門家ならできるかもしれないが、初めて歩いた時すら覚えていないのに説明するのは難しい。
《子供の方が脳が柔軟だから、吸収しやすいのよ。やればできるよ》
いつだったか、英語が嫌いだった孝宏に母が言った言葉だ。
英語にまるで親しみを持てなかった孝宏に対して、母が言った言葉だ。
その時は単純にそうなんだと勉強に励み何とかなったが、今回は何をやっても上手くいかない。上手くいく気もしない。
孝宏より年上の二人が、さっさと先に進んでいく。新米だったとは言えマリーは立派な社会人で、鈴木などは奥さんと子供までいる。
(それなのに、俺だけが上手くいかない)
元々それほど高くなかった気分がさらに盛下がり、孝宏は畑の淵に腰を下ろした。
畑の青々と茂る葉の中に、数本枯れているものがあった。そうなると収穫だそうで、数本の若木が枝をシャベル代わりに丁寧に土を掘り出している。
孝宏にはとても奇妙な光景に写るが、鳥の頭をした人が鶏肉を食べる世界だ。これも当たり前の光景なのだろう。
寒さは厳しく、春はほど遠く感じる。
それなのに背の低い草が青々と茂って地面を覆い、小さな蕾をぶら下げ、健気に新しい季節を待っている。
山から降りてくる冷たい風が畑を吹き抜け、町へと向かう。
小さな草でさえ、季節がめぐると知っているのに、自分はどうしてここに座ったまま動けずにいるのだろうか。
変わらない自分を嘆いているのか、それともその逆か。もやっとした気持ちが、お腹にズシンと落ち込み、孝宏は盛大にため息を吐いた。
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