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冬に咲く花
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しおりを挟む「隠れたって無駄だよな、きっと……」
激しい雨音が彼らの音を限りなく消すだろうし、あれだけ小さければ、雨粒が隠してしまうかも知れない。誰かの視線を痛い程に感じる。辺りに人はいないのに、孝宏は逃げきれたと微塵も思ってはいなかった。
見えないというのは恐怖だ。
孝宏は目を凝らして辺り見回した。すると半球型の遊具から、なにやら出てくる影があった。大きいままのユーだ。
「お前を驚かそうと楽しみに待ってた。きっと、こっちに来て隠れると思ったのに……残念」
「ちょっとそこで待て!鳥なら返すって!」
「わかっている。だから私がお前の中から、鳥を取り出してあげる。安心して。痛みを感じる前に、一瞬で終わる」
ユーが意味ありげに、両手の凶器をちらつかせた。
冬の冷たい雨が孝宏の体温を奪う。血の気は引き鳥肌が立ち、震えが体の中心から全身へ伝わる。
「そんな事したら、俺が死ぬだろう!?それに鳥とやらも、無事じゃすまないと思うぞ!?」
途端に、ユーの表情が消えた。さらにはウロコが顔を、輪郭から覆い始めた。
皮膚が次々とめくり上がり、硬質化し、青く変色していく。めくれ露わになる血肉から、僅かだが染み出た赤い血が、青い鱗の上を伝って滴り落ちる。
「鳥は死なずの鳥。お前が死んでも大して傷つきはしない。世界平和の為に、尊い犠牲はつきものだ。そうだろう?」
「あ……あぁ………」
ユーは本気だ。
何か言い返さなければと、逃げなければと思うのに、孝宏の舌はいつものように動かなかったし、足は震えて使い物にならなかった。
それにユーが一歩、また一歩と近づく毎に、腹の中であれが暴れた。
ピチャン、ピチャンと、水たまりを歩く足音が、ついに腹に恐怖を満たした。
突然閃光が走った。
孝宏の目の前を眩い光が埋め尽くし、視界のすべてを奪う。孝宏は咄嗟に、目を庇って腕で光を遮ったつもりだったが、視界にちらつくオレンジの炎に、ようやく自分自身が光源だと知る。
「なななんだ、これぇ!?」
二度目と言えども、孝宏が戸惑うのも無理からぬことだった。
手から火が、まるで湧水のごとく溢れ出している。掌からこぼれた火が、着ている衣服を消し炭にし、足元の芝を燃やしていった。
「わっ!!わっ!消えろ!!消えろ!!」
炎を消したくて、孝宏は考えなしに腕を振り回し、水たまりの上を転げ回った。
しかし、火は消えるどころか、ますます広がっていき、さらには腕を振り回した為に、離れた場所にあった、草木にも火が燃え移ってしまった。
カダンを弾き飛ばしたあの時は、服も周りの草花も、もちろん孝宏も自身にも、何の影響はなかった。
それが今度は芝を燃やし、花を焼き、自身が身に付けている服もゆっくりだが、確実に燃えていく。
火が花壇を覆い、その中で草花の影がボロボロ崩れ、葉を落とし冬の装いだった木も、後は根元を残すだけとなった。足下の芝生は、すでに黒く焦げ、火は輪を作り徐々に広がっている。
その光景を、自身も炎に包まれながら眺めていた。雨足が強くなり、雨粒の軌跡が、見えている景色を縦に細断する。
痛みはない。ただ、少しの熱さがあるだけだ。
暖かくはない。まるで、サウナにでも入っているようだった。
死ぬ気はしない。ただ、罪の意識があるだけ。
「ユー、その人を殺すの待って!」
細断された景色の向こう、公園の入口から走ってきたのは、赤毛の男、カウルだった。
彼の肩にはあの小人たちがしがみついている。
カウルは火だるまになっている孝宏を見つけ、驚き立ち止まった。だがどうすることも出来ずに、怯えて孝宏の名前を呼ぶ。
カウルの肩にぶら下がっていた小人が、肩の上に立った。緑、藍、黄、赤の小人たちだ。赤い小人が言った。
「ユー、この人を殺しては駄目。この人は異世界から来た人間よ」
ユーが数秒間、孝宏を注視した。赤い小人に目配せをし、再び孝宏に視線を戻す。
「父様から聞いていたのと違う。人違いではないの?」
「初めは私もそう思った。けど微かに、この世界のモノではない匂いがする。初めての匂い」
「その男は何?どうみでもこの世界の人に見える」
ユーがカウルを指差した。
「この人はその男を探していた。カンギリがその人を連れてきたと、私たちに教えてくれたの」
「カンギリが!?………でももう、遅い。見て。あの男は力の暴走で死ぬ。鳥の炎は私の水でも消えない。あのままでは、自分自身も焼き殺してしまう」
ユーの言葉は説得力があった。目の前で火だるまになり、じっと動かない人が、どうしても、無事とは思えなかったのだ。
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