超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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冬に咲く花

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――ピリリィ……ピリリィ……ピリリィ……ピリリィ――


 聞きなれた電子音が聞こえた。至極単純な、そして一般的なコール音。


 孝宏はベッドの上で大の字に仰向けになったまま、背筋をピンと張った。目を動かして、窓の外を見た。


(何もない)


 ドアを見た。


(誰も入ってこないし…………部屋の中には誰もいない)


 当然だ。孝宏はずっと部屋で一人でいたのだから、誰かがいるはずがない。孝宏が自分でどうにかしなければ、変化するはずがないのだ。


 それなのに、何故か、音は孝宏の右手から聞こえてくる。


(俺の右手に何か乗っている?)


 いつからそれが右手にあったのか、孝宏自身も知らない。音が鳴り始めて、それが右手に乗っている事に気が付いた。孝宏は見ずともそれが何かわかっている。

 それは父親が使っていた古い携帯電話。

 小学生頃に持たされ、新しいのが欲しければ俺を説得してみろと、父親に言われたので、何度も挑戦した結果、一度も成功せず今に至る。

 音楽が聴きたいと言えば、最新の音楽プレイヤーを渡され、ゲームがしたいと言えばゲーム機を、ネットをしたいと言えばパソコンを買い与えられた。

 さすがに中学生になってまでこれでは恥ずかしいと、素直に訴えた結果、ようやく新しいのを買える事になったのはつい先月の事だ。


(何でこれが……)


 分かっていても、孝宏にそれを握る勇気はなかった。カンギリの樹液と、溶かす為に使ったお湯の影響で壊れ、今は鞄に入れっぱなしになっているはずなのだ。孝宏は怖々右を向いた。


(やっぱり、俺の携帯……)


 孝宏は掌で震える、自身の黒い携帯電話を握った。


 見るとディスプレイは初期設定に戻っている。踊る電話の絵の下に“木下”の文字。


――ピッ――


「…………もしもし?」


 心臓がドキドキした。期待と焦りで、起き上がりたくとも、起き上がれず、孝宏は寝返りを打った。


――もしもし?あの、進藤君?――


 懐かしい声だった。とはいえ、ほんの一か月ほどだ。

 普通に学校に通っていた時でも、夏休みを挟めばそのくらい会わずに過ごす事もあるというのに、どうしてだろうか。

 この時、孝宏はこの声に縋って泣きたい気持ちになった。


「木下?まさか、本当に?」


――本当に進藤君ね!?心配したんだから、ばかぁ――


 どうして、なぜ、わからない、頭に浮かぶ言葉はいくらでもあったが、そのどれも、言葉にならない。何か言わなければと、焦れば焦るほど、孝宏は上手く言葉が拾えず、唇が震えた。


――生きているのよね?幽霊……じゃないよね?――


「当たり前だ!まだ、死んでねえよ!」


――ばか!!!どれだけ心配したと思ってるの!?皆だってずっと進藤君を探してるのよ!?突然いなくなるなんて、何考えてるのよ!!!バカ!――


「ごめん。でも、俺だってココに来たくて、来たんじゃないんだ」


――やっぱり誘拐されたの!?犯人はいるの?すぐに警察に連絡するから!――


 待ってて。そう言って電話の向こうから、階段を勢いよく駆け降りる音が聞こえてくる。

 やや遠い声で木下が母を呼び警察に連絡をと叫んでいる。

 孝宏は言わなければと思った。見つかるはずがない自分を、探せるわけにはいかないと、普通に思った。


「木下、あのさ……」


「何!?」


「信じてもらえないかも知れないけど、俺は今、異世界にいるんだ。だから地球のどこ……」


――ごめん、よくわからない。異世界?外国ってこと?――


(あ……)


 その瞬間、孝宏は全身の力が抜けた。落ちかけた携帯電話を慌ててキュッと握る。


「木下と映画見ようって約束した日に、転んで穴に落ちたんだ。そして、気がついたらおとぎ話に出てくるような、魔法の世界に来ていて…………」


――その話を私に信じろっていうの?私には、進藤君が適当な事言って、はぐらかそうとしているように聞こえる――


「本当なんだ、信じて!」


――でも…………あっ、犯人に脅されてるのね!?そうなんでしょ?――


 二人の間のある、決して数値化できない絶望的な距離は、電話一本で埋められる程甘くなかった。

 言葉だけでは食い違う認識を正せず、孝宏はとても寂しい気持ちになった。電話を握る手が震える。


「俺の他にも鈴木一郎って男の人と、マリー何とかって名前のロシア人と一緒。二人とも地球から、異世界に来ちゃった地球人で……」


――じゃあ、場所のヒントになりそうな物ない?特徴的な建物とか、山とか、そうしたら――


「俺は本当に異世界にいるんだ。まあ、信じられるわけないか。当たり前だよな。俺が木下なら…………」


 相手の声が途切れ、電話が切れてしまったかと思った。

 しかし携帯の画面がまだ通話中のままだ。

 ふと、孝宏は、これは幻覚ではないかと思った。または地球を恋しがるあまり、見ている夢か。だが、そうだとしてもだ。

 孝宏は木下の声が聞けて嬉しいと思うのだ。


「俺が木下の立場なら、信じるなんて絶対にできない。すっげー嫌だけど、これは自信あるよ」


――ずっと心配で、心配で、夜も寝れなかった――


「うん、心配かけてごめん」


――帰ってきてよ――


「できるなら、俺も帰りたいけど、できないよ」


――異世界だからっていうの? ――


「………………」


――バカ!!! ――


 耳の鼓膜がビリビリした。孝宏が反論する余地もなく、プツっと音ともに通話が切れ、虚しい音が聞こえて来た。

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