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冬に咲く花
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指先に振動が伝わってきた。結界内に火が雫のように零れ落ちる。
それらは建物の屋根や窓枠を燃やそうとその身を揺らし、まるで空気を取り込もうとしているかのようだ。
孝宏は腰の短剣に視線を落とした。
(いや、これはダメだ)
すぐに前に向きなおす。あくまでもこれは最後の手段だ。
検問所で火を止めようと焦った結果、孝宏は深く考えずに短剣の刃をぐっと握った。
鋭い痛みが掌から脳天へ突き抜け、その為なのか、一瞬の間に火は勢いを増した。大部分が火に呑まれたが、少しの間の後に、小さな爆発音と共に一気に消えた。
確かに火は消えたが、過ぎた痛みは必要以上に炎をあおるだけだと、孝宏はこの時初めて知った。逃げ場のない、この場所でするべきでないのは明らかだ。
孝宏はぐれた火を、霧中で捕まえた。とは言え指先で抑えているようなもので、ちょっとの衝撃で暴走してもおかしくない。焦りが恐怖へ変わり、指先が震えた。
「あ、あ、中には人が……」
誰に助けを求めたわけでない。人の命に責任を持つ恐怖を、急に実感しただけだ。
安請け合いしなければ良かった。
出来ないと言えば良かった。
そもそも凶鳥の兆しの力など、隠しておけば良かった。
何も知らないフリをして、黙って見ていればよかった。
何かをするべきだなんて、思わなければ良かった。
自分が頑張る必要はないじゃないかと、孝宏が全身の力を抜いた時だった。
「絶対に大丈夫」
不意に後ろからカダンの声がして、孝宏は肩を後ろに引かれた。結界から体が離れ時、とっさに両手に火を握り込んだ。
(あ……っぶね)
孝宏は火の暴走だけは避けられそうだと、ほっとし、次の瞬間には視界が暗転し息を呑んだ。背後の人物を背中越しに感じる。
「見えないと、はっきりと魔力を感じるでしょ?この方が制御しやすくなるんだよ。安心して、見えなくても大丈夫、怖くないよ。俺が代わりに見ているから。外の様子は俺が教えてあげる。……あぁ、ほら、もう魔力は安定してきてる」
カダンはいつもの調子よりもゆったりと喋った。
「う、うん……えと、本当に?」
「うん、本当。俺って意外と魔法に詳しいんだ。魔力の高さだけなら、ルイにも負けないし、制御に関しては、俺のほうが対処法は詳しいの。だから俺の言ってる事は本当で事実だよ」
トン…トン…トン…トン…ゆっくりと一定の間隔で、孝宏の肩に置かれた手が拍子をとる。
「マリーたちが言った通りだったね。タカヒロは上手く魔力を操れてる。見てればわかるよ。……もう少し…あぁ、すごく上手。すごいね、数日前まで魔法がまったく使えなかったとは思えないよ。信じられないくらいだ」
カダンは実にうまく孝宏を煽てた。
孝宏は次第に気分が良くなり、さっきまでの不安も焦りも次第に薄れていった。
本当にうまく操れているような気がして、多少ひきつっているものの、笑みすら零れる。
気分が落ち着いた今なら、さっきの奇妙な感覚が戻ってきて、暗くても周囲の様子がはっきりと見えた。
火はドーム状に結界を包み、そこから零れた火が建物を囲んでいる。
状況は変わらないどころかさっきより、火の勢いは増し悪化しているが、不思議と孝宏には焦りがない。
まだ、指先は炎を捕まえている……だから、全然大丈夫
孝宏は固く握ったままになっていた拳を広げた。指先で摘み上げるような仕草で腕を上げると、結界内で建物を囲んでいた火が、結界の方へ吸い上げられていく。
(ようし、このまま火を小さくしていけば……もっと、もっと、もう……少しだ。)
ドーム状に覆っていた火は次第に小さく、威力を弱めていった。ドームの天井部分がなくなり、孝宏がわずかに見上げる程度に低くなった時だった。
「まだ、火を消してはダメよ!結界はまだ、壊れていないわ!」
あの赤毛の魔術師の声がして、カダンの手が離れないまま、彼が叫んだ。
「もうこれ以上は無理だよ!止めさせる!」
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