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冬に咲く花
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静まった夜闇に、男の声が響き渡った。兵士がいくら訂正しても、男は聞き入れず、罵詈雑言を孝宏の前に並べた。
「お前が教会を焼いて殺そうとした!俺は見たんだ!騙されないぞ!」
孝宏は男に何と言い返して良いのか分からず、黙ったまま、事態が治まるのを待つしかなかった。
兵士が男の肩を押え、宥めようとしているが、男は落ち着くどころか、襲い掛からんばかりの勢いで、逆に掴みかかってくる。
「お前が……お前が………この!化け物め!お前もあの化け物達の仲間なんだろう!私の妻を返せ!……息子を返せ!」
離れていたが松明の明りで、男の表情がはっきりと見えた。悔しそうに涙を流し、鋭い目つきで孝宏を睨んでいる。
「ち、違う……」
孝宏は首を横に振った。奥歯がカチカチと音を立てて震える。
ほどなくして、テントの中から慌てた様子の魔術師が現れた。
魔術師が男に手をかざし短く呪文を唱え、掌を男の顔に向けたままくるりと円を描いた。
男はふらりと揺れたかと思えば、すぐに目を閉じでぐったりとする。地面に倒れこむ前に、兵士が男の体を受け止めた。
男がテントの中に担ぎ込まれて、出入り口の幕は閉じられた。誰もいなくなり、状況の理解が追い付かないまま、一人残された孝宏はふらりと歩き出した。
テントの群れから離れ、目前に、広がるがれきと化したかつての村が広がる。
何かを掴もうと闇雲に手を伸ばした。
(……?いや、俺のせいじゃない。そうだろう?違うだろう?だってあれはカダンが……俺に……)
空を掻くだけの指先から、火花が散った。
指先から離れ、飛び散る火花が、ヒラリ、ヒラリと二羽を広げる。
それらは羽ばたく度に、火の粉を撒き散らした。
孝宏は地面を蹴り、両腕で蝶を抱え前のめる。勢いのあまり額を地面に打ち付けた。
それと同時に蝶は孝宏の腕の中で、花火のように散って消えてしまった。
「違う、違う、違う。そうじゃない。これは……俺が……」
天を仰げば、そこには地球と同じく幾千もの星が瞬く。地球と同じ光なのに、初めて目にする光景に自嘲の笑みを浮かべた。
「今度はちゃんと助けただろ?………何が足りないっていうんだ……」
責めるのは過去の自分。両手で顔を覆い、何も見たくなくても、嫌でも思い出す罪。
「死者の嘆きが風になり、涙が雪となり地上に降り注ぐ。そんな謂れがいつからかあった。《彼ら》に命を奪われた者達の嘆き悲しみが、冬のある時期になると、毎年のように地中の深くより溢れてくるという……」
孝宏は震える声で呟いた。
誰に言い聞かせるでない単なる独り言。それはいつの記憶かも定かでない、小説の冒頭のような文章。
今はもう少ししか思い出せないのは、自分にとって恐ろしい記憶を、忘れたかったからだろうか。
「すべての始まりは、冬も終わりに近づき、春を待つばかりのある日。彼らは突如現れた。三つの国境を持つ巨大都市国家《コレー》の壊滅。それが彼らの始めの選択だった。何の前触れもなく、闇に紛れて彼らはやってきた。人が深い眠りに落ちる頃、生き物が寝息を立てる時分、夜闇より暗い漆黒が波となって押し寄せたのだ……」
孝宏はこの記憶が現実になると、この世界に来てしまった時から知っていた。だが同時にありえないとも思っていた。
相反する二つの考えは、孝宏を深く悩ませ、そして、考えた末に出した答えは、自分の常識の中だけで判断したのだ。
「命がこんなにも重いだなんて、知らなかったんだ」
脳天から足先まで、心の底から震え、顔を覆う手が柔らかい皮膚に爪を立てる。
感情の揺れにつられ、腹の底で凶鳥の兆しがもがいている。だた以前とは違う苦しさで胸の奥が疼いた。
「助けて………」
両手首の腕輪が冬の冷気をまとい、星色にきらりと光った。
「お前が教会を焼いて殺そうとした!俺は見たんだ!騙されないぞ!」
孝宏は男に何と言い返して良いのか分からず、黙ったまま、事態が治まるのを待つしかなかった。
兵士が男の肩を押え、宥めようとしているが、男は落ち着くどころか、襲い掛からんばかりの勢いで、逆に掴みかかってくる。
「お前が……お前が………この!化け物め!お前もあの化け物達の仲間なんだろう!私の妻を返せ!……息子を返せ!」
離れていたが松明の明りで、男の表情がはっきりと見えた。悔しそうに涙を流し、鋭い目つきで孝宏を睨んでいる。
「ち、違う……」
孝宏は首を横に振った。奥歯がカチカチと音を立てて震える。
ほどなくして、テントの中から慌てた様子の魔術師が現れた。
魔術師が男に手をかざし短く呪文を唱え、掌を男の顔に向けたままくるりと円を描いた。
男はふらりと揺れたかと思えば、すぐに目を閉じでぐったりとする。地面に倒れこむ前に、兵士が男の体を受け止めた。
男がテントの中に担ぎ込まれて、出入り口の幕は閉じられた。誰もいなくなり、状況の理解が追い付かないまま、一人残された孝宏はふらりと歩き出した。
テントの群れから離れ、目前に、広がるがれきと化したかつての村が広がる。
何かを掴もうと闇雲に手を伸ばした。
(……?いや、俺のせいじゃない。そうだろう?違うだろう?だってあれはカダンが……俺に……)
空を掻くだけの指先から、火花が散った。
指先から離れ、飛び散る火花が、ヒラリ、ヒラリと二羽を広げる。
それらは羽ばたく度に、火の粉を撒き散らした。
孝宏は地面を蹴り、両腕で蝶を抱え前のめる。勢いのあまり額を地面に打ち付けた。
それと同時に蝶は孝宏の腕の中で、花火のように散って消えてしまった。
「違う、違う、違う。そうじゃない。これは……俺が……」
天を仰げば、そこには地球と同じく幾千もの星が瞬く。地球と同じ光なのに、初めて目にする光景に自嘲の笑みを浮かべた。
「今度はちゃんと助けただろ?………何が足りないっていうんだ……」
責めるのは過去の自分。両手で顔を覆い、何も見たくなくても、嫌でも思い出す罪。
「死者の嘆きが風になり、涙が雪となり地上に降り注ぐ。そんな謂れがいつからかあった。《彼ら》に命を奪われた者達の嘆き悲しみが、冬のある時期になると、毎年のように地中の深くより溢れてくるという……」
孝宏は震える声で呟いた。
誰に言い聞かせるでない単なる独り言。それはいつの記憶かも定かでない、小説の冒頭のような文章。
今はもう少ししか思い出せないのは、自分にとって恐ろしい記憶を、忘れたかったからだろうか。
「すべての始まりは、冬も終わりに近づき、春を待つばかりのある日。彼らは突如現れた。三つの国境を持つ巨大都市国家《コレー》の壊滅。それが彼らの始めの選択だった。何の前触れもなく、闇に紛れて彼らはやってきた。人が深い眠りに落ちる頃、生き物が寝息を立てる時分、夜闇より暗い漆黒が波となって押し寄せたのだ……」
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相反する二つの考えは、孝宏を深く悩ませ、そして、考えた末に出した答えは、自分の常識の中だけで判断したのだ。
「命がこんなにも重いだなんて、知らなかったんだ」
脳天から足先まで、心の底から震え、顔を覆う手が柔らかい皮膚に爪を立てる。
感情の揺れにつられ、腹の底で凶鳥の兆しがもがいている。だた以前とは違う苦しさで胸の奥が疼いた。
「助けて………」
両手首の腕輪が冬の冷気をまとい、星色にきらりと光った。
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