67 / 180
冬に咲く花
64
しおりを挟む
「坊主を引き上げろ!魔法が持たない!」
魔術師の一人が叫んだ。
思いもよらない指示に、男の脳裏にはランプが過り一瞬だけ迷いを生じさせた。
一瞬の迷いもなく、男が孝宏を抱え上げていたら、被害はランプを二つ失うだけで済んだだろう。
しかしその一瞬の間に、孝宏は浮力を失い落下してしまった。
――ガシャン!――
腹に抱え込んでいたランプが落下し、孝宏の真下に群がってた化け物の顔面に落ちた。
巨大蟻は瞬く間に火に巻かれ、もがき、他の仲間を撒き込む。
少なくとも五体は巻き添えを食らったようだ。
火に巻かれる仲間を、遠巻きに様子を見ている巨大蟻達の、顔の半分以上を占める大きな目が、炎に照らされオレンジ色の影が揺れる。
巨大蟻たちが触角を震わせ、顎を打ち鳴らし奏でる不協和音が共鳴し次第に広がっていく。
「俺の手を掴め!……すぐ……引き上げる……頑張れ!」
男が孝宏の左手の指先を掴めたのは幸運などでなく、日頃の鍛練の賜物だった。
このままでは男もろとも孝宏が落ちてしまいそうで、魔術師たちは咄嗟に孝宏に手を伸ばし、或いは、男ごと引き上げようと支えた。
しかし魔術師の手は孝宏には届かず、数人がかり引っ張っても、落ちないよう現状維持するだけで精いっぱいだった。
比較的腕力のない魔術師たちは、皆顔を真っ赤にし、手が震える程渾身の力を込める。
男は鎧を身に着けている分、さぞかし重いのだろう。
男の赤く滑る傷口から流れた鮮血が、辛うじて繋がった手を伝い落ち、孝宏の指先を濡らしていく。
「た、たすけ……」
ぶら下がる孝宏の足先を、巨大蟻が何度もかすめ、火までもが足に絡みついて来る。
幸運にも火に気を取られている巨大蟻達は、真上にぶら下がる得物に気が付いていないようだった。
気付いていれば、例え自身が火に巻かれいていようとも、無防備な得物を殺そうとしただろう。
村の中で襲われたあの時も、彼らの闘争心とはそういう類のものだった。
とはいえ化け物はすぐにでも孝宏に気が付いて、攻撃してくるともしれない状況だ。
一刻も早く孝宏を引き上げる必要があった。
「手が滑りそうだ!両手で掴め!」
孝宏の右腕には、落とさずに済んだランプが、火の粉を散らしながら煌々と燃える。
これが消えるような事があれば、今も別の場所で戦っているであろう兵士たちは、化け物に対する唯一の対抗手段を失う事になる。
孝宏は躊躇した。
「でもランプが!」
「それは捨てろ!早く手を伸ばせ!」
男の必死の言い様に、孝宏は男が言い終わると同時に、ランプを落とし手を伸ばした。落下したランプは、今まさに孝宏に襲い掛からんと、火が囲う集団の中から、突撃して来た巨大蟻を直撃した。
解放された火は、割れて四方に飛び散る。
ガラスを飲み込み、膨張し、あっという間に巨大蟻を捉えたが、それでもなお、巨大蟻たちは喉を唸らし、牙を向けてきた。
ただ孝宏が男の手を掴む方が早かった。寸前で男が孝宏を引き上げ化物をかわした。
それで事なきを得たかに思えたが、次の瞬間、孝宏を掴む手が、血で滑り、孝宏が落下してしまった。
すべてが一瞬のことで、誰にもどうすることも出来なかった。
あっけにとられる男を見つめながら、孝宏がゆっくりと落ちていく。自身も同じ顔をしていると気が付いていない。
地上では孝宏を仕損じた巨大蟻が、壁に激突し気を失っていた。
孝宏はその上に落ちた。
それ以外は何ともないのが、不幸中の幸いと言って良いのか解らない。
何せ今は、火を遠巻き見ているだけで、そこには闘争心溢れた化け物たちの真っ只中なのだ。
火は今も孝宏を中心として、巨大蟻ごと燃え盛っているが、既にじりじりと黒い波が押し寄せよて来ている。
「―――――!」
孝宏が声にならない悲鳴が上げる。騒然となる壁の上など、すでに意識の片隅にもなかった。
「来るな!あっち行けよ!」
孝宏は手を振り、火を掴む。操ろうとしても、焦って上手くいかない。
それどころか焦れば焦る程、どうやって火を操っていたのかさえ、解らなくなっていく。
化け物はもう火の寸前まで迫っていた。この程度の距離ならば、彼らは太い後ろ足を使い、一気に距離を詰めてくるだろう。
孝宏は目を固く瞑り、歯を食いしばった。
魔術師の一人が叫んだ。
思いもよらない指示に、男の脳裏にはランプが過り一瞬だけ迷いを生じさせた。
一瞬の迷いもなく、男が孝宏を抱え上げていたら、被害はランプを二つ失うだけで済んだだろう。
しかしその一瞬の間に、孝宏は浮力を失い落下してしまった。
――ガシャン!――
腹に抱え込んでいたランプが落下し、孝宏の真下に群がってた化け物の顔面に落ちた。
巨大蟻は瞬く間に火に巻かれ、もがき、他の仲間を撒き込む。
少なくとも五体は巻き添えを食らったようだ。
火に巻かれる仲間を、遠巻きに様子を見ている巨大蟻達の、顔の半分以上を占める大きな目が、炎に照らされオレンジ色の影が揺れる。
巨大蟻たちが触角を震わせ、顎を打ち鳴らし奏でる不協和音が共鳴し次第に広がっていく。
「俺の手を掴め!……すぐ……引き上げる……頑張れ!」
男が孝宏の左手の指先を掴めたのは幸運などでなく、日頃の鍛練の賜物だった。
このままでは男もろとも孝宏が落ちてしまいそうで、魔術師たちは咄嗟に孝宏に手を伸ばし、或いは、男ごと引き上げようと支えた。
しかし魔術師の手は孝宏には届かず、数人がかり引っ張っても、落ちないよう現状維持するだけで精いっぱいだった。
比較的腕力のない魔術師たちは、皆顔を真っ赤にし、手が震える程渾身の力を込める。
男は鎧を身に着けている分、さぞかし重いのだろう。
男の赤く滑る傷口から流れた鮮血が、辛うじて繋がった手を伝い落ち、孝宏の指先を濡らしていく。
「た、たすけ……」
ぶら下がる孝宏の足先を、巨大蟻が何度もかすめ、火までもが足に絡みついて来る。
幸運にも火に気を取られている巨大蟻達は、真上にぶら下がる得物に気が付いていないようだった。
気付いていれば、例え自身が火に巻かれいていようとも、無防備な得物を殺そうとしただろう。
村の中で襲われたあの時も、彼らの闘争心とはそういう類のものだった。
とはいえ化け物はすぐにでも孝宏に気が付いて、攻撃してくるともしれない状況だ。
一刻も早く孝宏を引き上げる必要があった。
「手が滑りそうだ!両手で掴め!」
孝宏の右腕には、落とさずに済んだランプが、火の粉を散らしながら煌々と燃える。
これが消えるような事があれば、今も別の場所で戦っているであろう兵士たちは、化け物に対する唯一の対抗手段を失う事になる。
孝宏は躊躇した。
「でもランプが!」
「それは捨てろ!早く手を伸ばせ!」
男の必死の言い様に、孝宏は男が言い終わると同時に、ランプを落とし手を伸ばした。落下したランプは、今まさに孝宏に襲い掛からんと、火が囲う集団の中から、突撃して来た巨大蟻を直撃した。
解放された火は、割れて四方に飛び散る。
ガラスを飲み込み、膨張し、あっという間に巨大蟻を捉えたが、それでもなお、巨大蟻たちは喉を唸らし、牙を向けてきた。
ただ孝宏が男の手を掴む方が早かった。寸前で男が孝宏を引き上げ化物をかわした。
それで事なきを得たかに思えたが、次の瞬間、孝宏を掴む手が、血で滑り、孝宏が落下してしまった。
すべてが一瞬のことで、誰にもどうすることも出来なかった。
あっけにとられる男を見つめながら、孝宏がゆっくりと落ちていく。自身も同じ顔をしていると気が付いていない。
地上では孝宏を仕損じた巨大蟻が、壁に激突し気を失っていた。
孝宏はその上に落ちた。
それ以外は何ともないのが、不幸中の幸いと言って良いのか解らない。
何せ今は、火を遠巻き見ているだけで、そこには闘争心溢れた化け物たちの真っ只中なのだ。
火は今も孝宏を中心として、巨大蟻ごと燃え盛っているが、既にじりじりと黒い波が押し寄せよて来ている。
「―――――!」
孝宏が声にならない悲鳴が上げる。騒然となる壁の上など、すでに意識の片隅にもなかった。
「来るな!あっち行けよ!」
孝宏は手を振り、火を掴む。操ろうとしても、焦って上手くいかない。
それどころか焦れば焦る程、どうやって火を操っていたのかさえ、解らなくなっていく。
化け物はもう火の寸前まで迫っていた。この程度の距離ならば、彼らは太い後ろ足を使い、一気に距離を詰めてくるだろう。
孝宏は目を固く瞑り、歯を食いしばった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる