超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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冬に咲く花

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 孝宏の異変を、目が合った一瞬でカダンが感じ取った。


 カダンが上って彼を止めていなければ、孝宏は壁の中へ飛び込んでいただろう。


「何してんの!?死ぬ気!?」


 背中から羽交い絞めにされ、カダンに死ぬ気かと言われ、孝宏はハッとして止まった。


「死ぬつもりは………なかった」


 言葉に数秒の間があったのは、自身の行為が自殺行為に等しいと気が付いたからで、本人としては死ぬなどと考えもしなかったのだ。


 脇の下から胸へ、背中から回されたカダンの両腕に凶鳥の兆しの火が移り燃え始めた。


「カダン!離せ!」


 孝宏は頭を振り、身をよじり必死になって自分からカダンを引き剥がそうとした。がまるで歯が立たない。

 寧ろカダンは孝宏を落とすまいと、力を込めて押さえつけた。


 離せ、離さない。どのくらいやり取りしただろう。


「もう大丈夫だから。落ち着こう、ね?」


 あくまでも声は柔らかく、のんびりとわりに、力はがっちりと込めて孝宏程度ではどうしようもない。

 息が上がり、ぐったりとしているのも孝宏だけだ。


「何考えてるんだよ。俺の傍にいたら危ないぞ。俺から離れろ。」
 

「離れてどこに行こうって言うの。それに俺は大丈夫だって。落ち着いて見てごらんよ。俺は火傷すらしていない」


「へ?……焼けてない?」


 そんな馬鹿なことがあるかと思ったが、背後から羽交い絞めにされ、見えるのはカダンの肘から下の腕。怪我をして血がにじんでいるが、それ以外は綺麗なものだ。


「熱くないのか?燃えてるんだぞ!?」


「少し熱いけど、むしろ心地よいくらい。何ともないよ」


 自身では気が付かない内に、火を制御していたとでも言うのか。

 しかしどうやって、と自問しても答えはない。どんなに考えても、孝宏には解らなかった。


「いや、やっぱり駄目だ!いつ焼けるかもしれないだろ?駄目なんだ。どうやってコントロールしていたのか解らない。無理だ!」


「大丈夫だよ。俺は火に晒されても焼けてないんだよ?孝宏が無意識の内に制御しているからじゃないか。落ちついて。孝宏は今も自分で制御出来ているよ」


 カダンの言っている事は筋が通っているかの様で、どこかおかしい。

 無意識と意識的には近いようで天地ほどの差がある。

 それなのにするりと入り込み、それが問題ないかのように、孝宏の中で振る舞うのは、以前にも覚えがある。


 孝宏が身をよじり後ろを振り向こうとすると、カダンの腕の力も抜け、あっさりと密着していた体が離れた。

 手はまだ孝宏の腕を掴んでいるものの、すぐに押さえつけようと気配はない。


「難しく感じるかもしれないけど、意外と出来ているもんだし、どんな熟練の魔術師でも焦っては魔法を使えない」


 声と同じく柔らかく微笑むカダンの、獣姿で吠えていた時とはまるで違う雰囲気に、人格でも変わってしまったのかと疑いたくなる。


(目は光ってない。じゃあ、違うのか?)


「さあ、壁の内側を見てごらんよ。奴らはまだ生きてる。火が壁の内側に回りきらないと、きっと死なないね」


 彼の言葉は心地よく、するりと入り込んでもっと聞いていたくなる。孝宏はもう一度カダンの目を見た。


(光っていないってことは、暗示をかけていないってことで……)


 ルイが言っていた六眼は、つまりはこういうことだろうと、おおよその見当は付いてた。

 時折見える光ようなものは、魔法を使った時に見えるもので、おそらくは魔力類のもの。なのでカダンが暗示を使う時、彼の目が光るのだろう。


「ほらあっちの壁の……大丈夫?ぼうっとしているけど」


「ん、大丈夫。落ち着いて来た。今はとっても楽になった。」


 その証拠に凶鳥の兆しはすっかり大人しくなり、火は消えていた。


 壁の中の火も心なしか、勢いが弱まったかに思える。

 ふと壁の真下、落ちた男を探そうかとも思ったが、今さら引き上げても結果が変わるわけでもないと、頭を振った。


「気分でも悪い?」


「んー、平気。で?壁の何?」


 孝宏はやはり男が気になったが、今はカダンの話を聞かなければなるまいと歯を食いしばる。


「壁にある魔法陣に向かって火を飛ばしてほしい。どこでも一か所に当ててくれれば、それだけで火は蔓延するから」


 そして次に孝宏がカダンを見やった時、異変は起きていた。


 カダンの瞳に青い光が宿り、こちらを見つめている。


「目が………光ってる」


 孝宏はそう呟いただけだったが、カダンはすぐにそれが六眼特有のものだと気付いた。

 孝宏のこれまでの言動が、ようやく腑に落ちる。そして、今自分が孝宏に暗示をかけているのだと知られたのだと理解した。


「怒るか?」


「いや。別に良い」


 目を合わせられず、孝宏は体ごと壁の内側に向け、ずっと遠くを見ながら言った。


「そっか、じゃあ続ける。本当ならランプにしてあった仕掛けを使う予定だったらしいんだけど、壊れちゃったから、タカヒロが自分でしなくちゃいけないんだけど、大丈夫!タカヒロならできるよ」


 相変わらず心地よい言葉がするりと頬を撫でた。




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