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夢に咲く花
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「欲しい物があるんだ。付き合えよ」
そう言われ宿を出てから数十分。ルイは何が欲しいのか、特に言う訳でもなく、二人は多くの店が立ち並ぶ大通りを当てもなく歩いていた。
ルイは時折思い出したかのように、フイッと店を覗き込んでは、ものの数秒で、店を出てはまた歩き出す。そんな風に繰り返している内に、正午はとうに過ぎてしまった。
何を探しているのか尋ねても「んー」とか「あぁ…」など気の抜けた返事を繰り返すだけで、一向にはっきりしない。ならばと、ついに孝宏もルイにただ付いて歩くだけになっている。
ただルイが覗く店は決まって魔術具を扱う店ばかりで、きっと彼が欲しい物もそれに関連した物なのだろうと分かる。
やがて異国の文字で看板を掲げる、洒落た店の角を右に曲がろうとした時だった。
前を横切りながら、通りに面したショーウィンドウに目をやると、マネキンが黒いストレートワンピースや、ベージュのインナーにカーキ色のコートと真っ赤なサルエルパンツを合わせた派手な格好でポーズを決めていた。
黒のワンピースの全体に散りばめられたスパンコールは、まるで街明りに照らされた夜空のように寂しい光を放ち、隣の派手な組み合わせが余計に際立つ。
「あんなの見た目が派手なだけで、魔力衣としてまったくなってない物を、欲しいなんて言い出すなよ」
孝宏が見ているに気が付いて、ルイが振り返りざまに言った。
「言わねぇよ」
そもそもこれらの服はすべて女性ものだ。そうでなくても派手は色使いは趣味じゃない。
「僕が一瞬見ただけでも解るくらいの粗悪品。こんなんでよく専門店なんて看板掲げるよ。まあ、こんなんに騙されるのはかなり残念な奴だろうけど」
あきれ顔で言うのに、ルイが店を中を外から覗き込んだのは単なる好奇心で、買おうという気は初めからない。
店内にはルイが言う残念な客が二人。人当たりの良さそうな笑顔の店員が接客している。
各地へ飛ぶ飛行船があるこの町には、多くの旅人が集まるがゆえに、このような詐欺まがいの商売も多い。
輸入物をうたい文句に、相場より高めの服を買えるのは、金に余裕のある一部の人間だけだろうか。中の客も店員に何着も持たせ、迷った挙句全部買うことにしたらしい。
金持ちと付き合いはないし、彼らがどういう生活をしているのかすら、実際の所知らない。だからこれは完全に想像と偏見なのだが、孝宏はこの位騙された所で痛くもないんだろうと、ため息交じりに呟くルイに同意して頷いた。
「魔力衣って、ルイの爺ちゃんが作ったって言う、あのベストみたい奴のこと?」
孝宏がソコトラで偶然手に入れた魔術具たち。それらは双子の祖父の作品で、その一つに細かな刺繍が施されたベストがあった。確か双子の父親が実際に使っていたと言っていたはずだ。
「あってるけど、正確にはちょっと違う。あれは魔力衣にさらに術式を加えた物。どちらかと言うと魔術具。魔力衣は術式を加える前の状態の物。僕のコート…今はマントだけど、これが魔力衣。魔法を使う上で便利なんだよ」
ルイが自身が着る青いマントをヒラリと揺らした。
太陽の光に反射してか、コートが細かな無数の光を放つ。先ほどのワンピースとは比較にならない。
「魔力衣ってのは、魔石を織り交ぜた生地で出来た服の事で。服自体の仕立ても多少はあるけど、質の良い魔石をどれだけ使用しているかで価値が決まる。僕のは祖父さんのおさがりだから、正確な価値は解らないけど、安くはないよ。カウルがいつも来ているコートも、同じ祖父さんから貰ったもので同じく魔力衣」
「へえ…確かにすっげー光ってるな。今まで宝石が入っているなんて気が付かなかった。スゲーな、コレ」
「光る?宝石を埋め込んでるって言ってもそんなに、見た目に痕跡何て残るもんじゃない。光って見えないけど……」
ルイは自身のマントを広げて見たが、ルイには光って見えない。
光って見えているのはどうやら、宝石ではなく魔力だったらしかった。
見えたり見えなかったりで、孝宏自身戸惑いが大きい。それでも、いつかはこの状態に、慣れるようになるのだろうか。もしかすると、最終的には常に見える状態になるのかもしれない。考えてみれば、最近は見えている時が増えているような気がする。
孝宏は閉じた左目の瞼を掌でそっと撫でた。
「僕には見えないから、きっと魔力が見えているんだろうね。凶鳥の兆しと完全に同化すれば、煩わしさとかなくなるんじゃないの。六眼が完全に孝宏のものになればコントロールも自在だろうしさ」
コントロールできるようになるのであれば、面倒はなさそうだが、本当にコントロールできるようになればの話だ。
「魔力が見えるって、僕からしたら羨ましいよ」
ルイは孝宏の動揺を見透かしているようにもとれるが、実に楽しそうに言うあたり、孝宏の憂鬱を完全に理解しているとは言い難く、それは違う世界に生まれ育った者同士、簡単には理解し合えない部分なのだろう。
そう言われ宿を出てから数十分。ルイは何が欲しいのか、特に言う訳でもなく、二人は多くの店が立ち並ぶ大通りを当てもなく歩いていた。
ルイは時折思い出したかのように、フイッと店を覗き込んでは、ものの数秒で、店を出てはまた歩き出す。そんな風に繰り返している内に、正午はとうに過ぎてしまった。
何を探しているのか尋ねても「んー」とか「あぁ…」など気の抜けた返事を繰り返すだけで、一向にはっきりしない。ならばと、ついに孝宏もルイにただ付いて歩くだけになっている。
ただルイが覗く店は決まって魔術具を扱う店ばかりで、きっと彼が欲しい物もそれに関連した物なのだろうと分かる。
やがて異国の文字で看板を掲げる、洒落た店の角を右に曲がろうとした時だった。
前を横切りながら、通りに面したショーウィンドウに目をやると、マネキンが黒いストレートワンピースや、ベージュのインナーにカーキ色のコートと真っ赤なサルエルパンツを合わせた派手な格好でポーズを決めていた。
黒のワンピースの全体に散りばめられたスパンコールは、まるで街明りに照らされた夜空のように寂しい光を放ち、隣の派手な組み合わせが余計に際立つ。
「あんなの見た目が派手なだけで、魔力衣としてまったくなってない物を、欲しいなんて言い出すなよ」
孝宏が見ているに気が付いて、ルイが振り返りざまに言った。
「言わねぇよ」
そもそもこれらの服はすべて女性ものだ。そうでなくても派手は色使いは趣味じゃない。
「僕が一瞬見ただけでも解るくらいの粗悪品。こんなんでよく専門店なんて看板掲げるよ。まあ、こんなんに騙されるのはかなり残念な奴だろうけど」
あきれ顔で言うのに、ルイが店を中を外から覗き込んだのは単なる好奇心で、買おうという気は初めからない。
店内にはルイが言う残念な客が二人。人当たりの良さそうな笑顔の店員が接客している。
各地へ飛ぶ飛行船があるこの町には、多くの旅人が集まるがゆえに、このような詐欺まがいの商売も多い。
輸入物をうたい文句に、相場より高めの服を買えるのは、金に余裕のある一部の人間だけだろうか。中の客も店員に何着も持たせ、迷った挙句全部買うことにしたらしい。
金持ちと付き合いはないし、彼らがどういう生活をしているのかすら、実際の所知らない。だからこれは完全に想像と偏見なのだが、孝宏はこの位騙された所で痛くもないんだろうと、ため息交じりに呟くルイに同意して頷いた。
「魔力衣って、ルイの爺ちゃんが作ったって言う、あのベストみたい奴のこと?」
孝宏がソコトラで偶然手に入れた魔術具たち。それらは双子の祖父の作品で、その一つに細かな刺繍が施されたベストがあった。確か双子の父親が実際に使っていたと言っていたはずだ。
「あってるけど、正確にはちょっと違う。あれは魔力衣にさらに術式を加えた物。どちらかと言うと魔術具。魔力衣は術式を加える前の状態の物。僕のコート…今はマントだけど、これが魔力衣。魔法を使う上で便利なんだよ」
ルイが自身が着る青いマントをヒラリと揺らした。
太陽の光に反射してか、コートが細かな無数の光を放つ。先ほどのワンピースとは比較にならない。
「魔力衣ってのは、魔石を織り交ぜた生地で出来た服の事で。服自体の仕立ても多少はあるけど、質の良い魔石をどれだけ使用しているかで価値が決まる。僕のは祖父さんのおさがりだから、正確な価値は解らないけど、安くはないよ。カウルがいつも来ているコートも、同じ祖父さんから貰ったもので同じく魔力衣」
「へえ…確かにすっげー光ってるな。今まで宝石が入っているなんて気が付かなかった。スゲーな、コレ」
「光る?宝石を埋め込んでるって言ってもそんなに、見た目に痕跡何て残るもんじゃない。光って見えないけど……」
ルイは自身のマントを広げて見たが、ルイには光って見えない。
光って見えているのはどうやら、宝石ではなく魔力だったらしかった。
見えたり見えなかったりで、孝宏自身戸惑いが大きい。それでも、いつかはこの状態に、慣れるようになるのだろうか。もしかすると、最終的には常に見える状態になるのかもしれない。考えてみれば、最近は見えている時が増えているような気がする。
孝宏は閉じた左目の瞼を掌でそっと撫でた。
「僕には見えないから、きっと魔力が見えているんだろうね。凶鳥の兆しと完全に同化すれば、煩わしさとかなくなるんじゃないの。六眼が完全に孝宏のものになればコントロールも自在だろうしさ」
コントロールできるようになるのであれば、面倒はなさそうだが、本当にコントロールできるようになればの話だ。
「魔力が見えるって、僕からしたら羨ましいよ」
ルイは孝宏の動揺を見透かしているようにもとれるが、実に楽しそうに言うあたり、孝宏の憂鬱を完全に理解しているとは言い難く、それは違う世界に生まれ育った者同士、簡単には理解し合えない部分なのだろう。
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