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夢に咲く花
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「打ったところを見せて頂けますか?」
ナキイは掌で孝宏の頭を撫でて、次に赤と黒の混じる髪を指先でかき分けた。左側頭部後方に固いこぶができている。
「少し血が出てますが、傷は……浅いですね。すぐに止まるでしょうが、念の為見てみます。もう少し、じっとしていて下さい」
ナキイは頭の中で術式を紡ぎ、掌を孝宏の頭のこぶに当てた。
大きな手だ。ごつごつしていて決して肌触りの良いものではないのに、孝宏にとってはどこか懐かしくて心地よい。
孝宏は目を閉じた。
恥ずかしいのをどうにか我慢しようとした結果だ。
確かに孝宏は良かった。視界が暗転し周囲が見えない分、確かに羞恥心も減るだろう。
しかし大丈夫でない者もいたのだ。
目を閉じ完全に身をゆだねる孝宏に動揺し、思わぬ心の声を漏らしてしまった者が一人だけ。
「かわっ…………じゃなくて、俺に、み、見せ…………っぐ」
ナキイは息を呑み下唇を噛みしめた。喉仏が上下する。
眉間に皺を寄せ、ぐっと孝宏を睨み付けたのは、己の未熟さを恥じたからだ。
しかし不運にも、不自然に途切れた言葉が気になり、孝宏がうっすらと目を開けた。
ナキイの細めた目の金色の瞳がギラリと光り、一見不機嫌に表情を歪めているようだ。
当然、孝宏もそう思った。先程とはまるで別人の彼に、この短時間で何があったのだろうと驚いた。
それ故に、孝宏は目を開き、すぐさまギュッと目を瞑った。
(なんで!?俺何かしたか …………リラックスし過ぎとかか?)
もしかすると体重を掛け過ぎて、どこかしら痛むのかもしれない。
それならと、孝宏は腹筋にありったけの力を込めて体を浮かしてみたが、ナキイの手が孝宏の肩をぐっと押し戻した。
(あれ、そうじゃないのか。んじゃ何だ?)
ナキイは一呼吸置き、口を開いた。
「俺に見えない物を見せてくれ」
ナキイは顔を孝宏の頭に近づけ、自身の手の上から短く息を吹きかけた。その際前に屈むが故に、二人の体が密着する。
孝宏は薄い瞼を透き通る淡い光が陰り不安になった。
目を開けてみようか。だがまた相手と目が合うのは気まずい。何となくだが、顔が近づいている気がする。怪我の具合を見ているのだろうが、嫌に長く感じるのは気恥ずかしさから焦っている為か、それと思いの外重症なのだろうか。
色々考え、孝宏は意を決して、ゆっくりと目を開いた。ぼやけた世界の中で、顔を覗き込むように覆いかぶさる陰った顔が、今度は無機質な金色の目を細め微笑んだ。
「大したことありませんね。この具合なら数日でこぶも引くでしょうが、出来れば数時間は安静にしていた方が良いでしょうね。多少の医療魔術は使えますが、頭は繊細な部分ですし、私がやるのは止めときます。何か異変があったらすぐに医者に見せて下ださい」
「はい…………………そうします」
今は全く普通だ。きっきのは一体何だったのだろう。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
ナキイの視線が妙に気恥ずかしく、孝宏は目を伏せた。こんなに近くで人の顔を見たのは初めてで、照れてしまう。
「立てますか?」
ナキイに促されるまま、孝宏は体を起こし立ち上がった。
すると眩暈がする。頭がグワンと回って気持ち悪い。
「大丈夫ですか!?」
よろめいたのを、ナキイが腕と分厚い胸板で受け止めた。
(駄目だ、恥ずかしすぎる。ガキじゃないんだからさ。ダサすぎ)
「大丈夫です。何度もごめんなさい」
「とんでもない。もとはと言えば、私どもの主人が起こした事です。どうか謝らないで下さい」
言葉を交わし、孝宏はいくらか冷静になった。
冷静に考え、こんな風に照れる自分は、何とも形容しがたい気持ち悪さがあるなと、心の中で自虐する。
「あの、ほんとに、その……」
強がりを言えば、一人で立てると言いたい。しかし、軸が定まらずふらふらするのも事実。それに、親切心からくるナキイの行動を無下するのも気が引けた。
(それもこれもぶつかってきた男が悪い)
道のど真ん中で突っ立ったままの孝宏にも、非がないわけではない。とはいえ9対1で向こうが悪いと思っていたし、それに関して折れるつもりはない。
何とか自身の二本足で立ち、もう大丈夫だとナキイを見上げた時、急にナキイが不自然に上を向いた。そして空を見上げる形のまま、話し始めた。
「連絡先を伺ってもよろしいでしょうか。それと私の連絡先をお渡ししますので、何かありましたらいつでもご連絡ください」
「えと……」
(何これ。 マジで異世界の常識ってどうなっんの?)
目を合わせようとしないナキイは、手も離さない。今も孝宏の手を握ったままだ。
(これって、この人が変なの?それともやっぱり、俺の常識が変なの?)
顔を見たくないほどに怒っている様子はなかったが、自分が気づかぬ内に粗相をしてしまったのか、孝宏は不安になった。
孝宏はどうして良いか解らず、混乱する頭でルイを探した。
するとルイは道の端、果物を売る店の前で腕を組んで、体を震わせている。明らかに孝宏の状況を見て楽しんでいるようだ。
孝宏はルイを睨み付け、声を出さず口を動かした。
(は・く・じょ・う・も・の)
ナキイは掌で孝宏の頭を撫でて、次に赤と黒の混じる髪を指先でかき分けた。左側頭部後方に固いこぶができている。
「少し血が出てますが、傷は……浅いですね。すぐに止まるでしょうが、念の為見てみます。もう少し、じっとしていて下さい」
ナキイは頭の中で術式を紡ぎ、掌を孝宏の頭のこぶに当てた。
大きな手だ。ごつごつしていて決して肌触りの良いものではないのに、孝宏にとってはどこか懐かしくて心地よい。
孝宏は目を閉じた。
恥ずかしいのをどうにか我慢しようとした結果だ。
確かに孝宏は良かった。視界が暗転し周囲が見えない分、確かに羞恥心も減るだろう。
しかし大丈夫でない者もいたのだ。
目を閉じ完全に身をゆだねる孝宏に動揺し、思わぬ心の声を漏らしてしまった者が一人だけ。
「かわっ…………じゃなくて、俺に、み、見せ…………っぐ」
ナキイは息を呑み下唇を噛みしめた。喉仏が上下する。
眉間に皺を寄せ、ぐっと孝宏を睨み付けたのは、己の未熟さを恥じたからだ。
しかし不運にも、不自然に途切れた言葉が気になり、孝宏がうっすらと目を開けた。
ナキイの細めた目の金色の瞳がギラリと光り、一見不機嫌に表情を歪めているようだ。
当然、孝宏もそう思った。先程とはまるで別人の彼に、この短時間で何があったのだろうと驚いた。
それ故に、孝宏は目を開き、すぐさまギュッと目を瞑った。
(なんで!?俺何かしたか …………リラックスし過ぎとかか?)
もしかすると体重を掛け過ぎて、どこかしら痛むのかもしれない。
それならと、孝宏は腹筋にありったけの力を込めて体を浮かしてみたが、ナキイの手が孝宏の肩をぐっと押し戻した。
(あれ、そうじゃないのか。んじゃ何だ?)
ナキイは一呼吸置き、口を開いた。
「俺に見えない物を見せてくれ」
ナキイは顔を孝宏の頭に近づけ、自身の手の上から短く息を吹きかけた。その際前に屈むが故に、二人の体が密着する。
孝宏は薄い瞼を透き通る淡い光が陰り不安になった。
目を開けてみようか。だがまた相手と目が合うのは気まずい。何となくだが、顔が近づいている気がする。怪我の具合を見ているのだろうが、嫌に長く感じるのは気恥ずかしさから焦っている為か、それと思いの外重症なのだろうか。
色々考え、孝宏は意を決して、ゆっくりと目を開いた。ぼやけた世界の中で、顔を覗き込むように覆いかぶさる陰った顔が、今度は無機質な金色の目を細め微笑んだ。
「大したことありませんね。この具合なら数日でこぶも引くでしょうが、出来れば数時間は安静にしていた方が良いでしょうね。多少の医療魔術は使えますが、頭は繊細な部分ですし、私がやるのは止めときます。何か異変があったらすぐに医者に見せて下ださい」
「はい…………………そうします」
今は全く普通だ。きっきのは一体何だったのだろう。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
ナキイの視線が妙に気恥ずかしく、孝宏は目を伏せた。こんなに近くで人の顔を見たのは初めてで、照れてしまう。
「立てますか?」
ナキイに促されるまま、孝宏は体を起こし立ち上がった。
すると眩暈がする。頭がグワンと回って気持ち悪い。
「大丈夫ですか!?」
よろめいたのを、ナキイが腕と分厚い胸板で受け止めた。
(駄目だ、恥ずかしすぎる。ガキじゃないんだからさ。ダサすぎ)
「大丈夫です。何度もごめんなさい」
「とんでもない。もとはと言えば、私どもの主人が起こした事です。どうか謝らないで下さい」
言葉を交わし、孝宏はいくらか冷静になった。
冷静に考え、こんな風に照れる自分は、何とも形容しがたい気持ち悪さがあるなと、心の中で自虐する。
「あの、ほんとに、その……」
強がりを言えば、一人で立てると言いたい。しかし、軸が定まらずふらふらするのも事実。それに、親切心からくるナキイの行動を無下するのも気が引けた。
(それもこれもぶつかってきた男が悪い)
道のど真ん中で突っ立ったままの孝宏にも、非がないわけではない。とはいえ9対1で向こうが悪いと思っていたし、それに関して折れるつもりはない。
何とか自身の二本足で立ち、もう大丈夫だとナキイを見上げた時、急にナキイが不自然に上を向いた。そして空を見上げる形のまま、話し始めた。
「連絡先を伺ってもよろしいでしょうか。それと私の連絡先をお渡ししますので、何かありましたらいつでもご連絡ください」
「えと……」
(何これ。 マジで異世界の常識ってどうなっんの?)
目を合わせようとしないナキイは、手も離さない。今も孝宏の手を握ったままだ。
(これって、この人が変なの?それともやっぱり、俺の常識が変なの?)
顔を見たくないほどに怒っている様子はなかったが、自分が気づかぬ内に粗相をしてしまったのか、孝宏は不安になった。
孝宏はどうして良いか解らず、混乱する頭でルイを探した。
するとルイは道の端、果物を売る店の前で腕を組んで、体を震わせている。明らかに孝宏の状況を見て楽しんでいるようだ。
孝宏はルイを睨み付け、声を出さず口を動かした。
(は・く・じょ・う・も・の)
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