超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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――カチャ…――


 ドアが開く音に、孝宏は勢いよく顔を上げた。いくらなんでも早すぎるし、違うと解っていても、進展があったのではと思ってしまう。

 そして案の定、中から一人出てきたナキイを見て、孝宏はがっかりした。


「ルイはどうなりましたか?」


「出来る限りをことをすると言っていた。今は待つしかない」


「そうですか。あの、ありがとうございます」


 孝宏は勢い良く頭を下げた。

 巨大蜘蛛から助けてくれたのはもちろんの事、医者に状況を説明するのもすべて任せてしまった。

 ナキイは首を軽く傾げ、「構わないよ」とほほ笑んだ。


「俺は外に行ってくる。やつの様子を確認したいし、新しい着替えも必要だろう。アレの毒針が付いているかもしれない服など早く着替えたいしな」


 孝宏の不安に塗れた瞳が揺れる。
 狭く暗い廊下は、一人でいるにはあまりにも寂しすぎる。とはいえナキイは、孝宏がわがままを言っても良い相手でないし、そんな人はこの世界に存在しない。
 孝宏は夢にすがる思いで、両手を握り合わせた。


「はい」


 一瞬の沈黙。静寂の中に漂う緊張感と相まって酷くこの場は居心地が悪い。
 ナキイは罪悪感に胸を締め付けられた。


「えっと……まだ名乗ってなかったな。俺はナキイ。ヒタル・ナキイだ。あなたは?」


「進藤孝宏です」


 孝宏は久しぶりにフルネームを口にしたなと感じた。いつも下の名前でしか呼ばれないためか、言いなれたはずの自身の名前に違和感を隠せず、奇妙な気分を味わう。


「もしかすると中の彼について、何か聞かれるかもしれない。シンドウさんはここで待っていてほしい。すぐ戻るから」


 そういうとナキイは外へ出た。


 ナキイから見て、今の孝宏は危うい感じがした。大事な人が命の危機にあるのだから情緒が不安定になるのは当然だろう。
 ただそれ以外の違和感をどうしても拭えない。
 孝宏を一人にしておくのは多少なり不安が残るが、何も本当に一人っきりにするわけでもない。めったなことにはならないだろうと、ナキイは考えていた。


 本当なら二人を逃がした後に、ゆっくりとあの巨大蜘蛛を処理し、本隊と合流するつもりだった。仕方がなかったとはいえ、報告が遅くなってしまった感は否めない。


 異様なくらい静かな町は、そこにいるだけで気持ちが悪くなる。
 窓は固く閉ざされ人っ子一人歩いていない。


「いつものことながら、うちの殿下は引きが強くていらっしゃる。こうなる前に帰りたかったが、今回も殿下が勝ってしまわれた」
 

 ナキイは来た道を戻り始めた。とは言えほぼ一直線、少し歩けば先程の巨大蜘蛛が小さく見えてきた。


 目の横に位置する長めの獣の左耳に付けた、銀色のカフスを軽く指で弾く。


「103345。こちら13号。緊急連絡」


 数秒の間の後、カフスから答えが返ってきた。


《十三号へ、どうした》


「商業区34番道路にて、不明生物が突如発生しました」


《具体的に報告しろ》


「私が確認した限りでは一匹。何もない空中に突如発生。三メートルから四メートルの高さから落下しましたが、目立った外傷はなし。蜘蛛に酷似した形状で、足まで含めると全長は二メートル近くはあり、全体は黒く背中に赤い線のような模様。民間人の保護を優先した為、現在は仰向けの状態で放置。かなりの重量があり、そう簡単に起き上がれないかと思われます」


《発生時刻と被害は?》



「正確な時刻は不明。発生時刻はおよそ十五分前。瀕死の民間人が一人。しかし出現時に無数の体毛を飛ばすのを目視で確認しました。被害者はこれから増える恐れがあります」 


《お前は大丈夫なんだな?》


「はい。体毛を浴びた可能性はありますが、今のところ私にはこれと言った変化は起きておりません。ですが、不明生物に接触した民間人は…………………………………」


《どうした?応答しろ》


「テア山の滴の使用許可を下さい」


《………まさかその民間人に使いたいとか言うんじゃないだろうな?》


「しかしこのままでは………」


《馬鹿者!!!あれは殿下の為の薬だ!他の者に使用など許可できるか!》


「ですが殿下は常に民を優先しろと……」


《殿下が何とおっしゃっても駄目なものは駄目だ!現在他にも同じような不明生物の報告を受けている》


「殿下はご無事なのでしょうか!?」


《殿下は事態発生判明直後に保護した。現在は比較的安全と思われる場所に避難して頂いているが、いつその薬が必要になるかわからん。決して忘れるな、それは殿下の為の薬だ。良いな?》


「はい、承知しました」


《撮影機をそちらに飛ばした。監視はこちらで行う。お前はこちらから連絡するまで屋内にて待機。ただし体調に変化が合ったら記録しておけ。何かの役に立つかもしれん》


「了解しました」


 通信を切り、ナキイは空を見上げ大きく息を吐き出した。



 ――殿下の為の薬だ――



 当然と言えば当然の答えに、ナキイはなぜか落胆していた。


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