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夢に咲く花
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「早速で申し訳ないのだが、俺たちは着替えた方が良いだろう。着替えを用意してきた」
余韻に浸る間もなく、ナキイが差し出したのは灰色の紙袋。覗くと服が入っていた。もう片方の手によく似た紙袋がもう一つ。おそらくはナキイの着替えだろう。
まさか破れた服の代償がこれというわけではあるまい。
ルイを信じるならあれは値の張る代物のはずで、さらには似た様な物を用意する約束になっていた。
それに引き換え、ナキイの用意した服は一見すると使い古された風合の、所謂古着かと思える物だ。
お世辞にも高そうには見えず、孝宏は破れた借り物の服の代償に、これを受け取るべきか迷う。
「えっと……」
差し出された服を受け取らず表情は険しく、孝宏は遠慮がちに服の擦れて破れた箇所に掌を重ねる。
小さく漏れた戸惑いの声とはっきり物言わぬ瞳がナキイを見上げた。
事情を知らない医者等に解らなくとも、ナキイには孝宏が何に躊躇しているのが容易に察しがついた。
「これはあの蜘蛛の体毛を浴びた可能性があるから、着替えた方が良いだろうと思って用意した服だ。それにいつまでも敗れた服を着させているのは心苦しい。だからどうか受け取って頂けないだろうか。もちろん代金をと言うつもりはないし、破れた服の弁償は改めにさせてもらうから安心してほしい」
自身の心の内がすっかり見透かされ、孝宏は肩を縮こまらせた。
卑しいと思われただろうか。たとえそう思われたとしても真実だけに否定できない。
孝宏は自身の行いが、ただ恥ずかしかっただけで、決してそうではないのだが、孝宏が納得していないと感じたナキイは、困り顔で続けた。
「すでにほとんどの店が閉まっていてこれしかなかったんだ。男物だしどうかと思ったが動きやすいし、服に触る前に手をきちんと洗浄したし汚染されてはいないだろう」
(え?男物……って当たり前じゃ……大人用ってこと?……ここ、異世界だし、表現の仕方が違うのかな?)
「あ、や、ちがくて……あのすみま……ありがとうございます」
孝宏はようやく自分が彼に失礼な態度取っていると気がついた。
ナキイの奇妙な言い回しも気になったが、それよりも重なる失敗に恥ずかしさが勝り、礼を言うべきが謝るべきか迷った挙句、中途半端な感じになってしまった。
耳を真っ赤にして俯く孝宏を、目を細めて見下ろすナキイの内心など知らず、孝宏は礼と詫びを繰り返し頭を下げた。
二人のやり取りが一段落ついたところで医者が、元の冷ややかな表情と口調で、口を挟んできた。
「着替えるなら隣の部屋を使って下さい。シャワー室があるので浴びると良いでしょう。今着ている服、毒が付いている可能性があるのでしょう?それならば籠の中に入れて、シャワーを浴び終えたらベッドのヘッドボードのボタンを押して待っていてください。くれぐれもシャワーを浴びる前にベッドや部屋の物を不要に触らないで下さいね」
医者がため息を吐く。
「アロナ、この部屋を中心に院内を洗浄します。あと彼らの服を入れる袋を籠に設置しておいて」
「解りました。すぐに用意します」
助手は頭をカクンと下げ返事をした。
(あ、俺、そこまで気が回ってなかった。ベタベタ触っちまった……)
彼女はこれから言いつけられた大仕事をこなすのだろうと思うと、おそらくは一番の原因と思われる孝宏は首を垂れ、謝るしかなかった。
隣の部屋は先程の部屋に比べると狭くベッドは一つ、廊下に通じる扉の、右手にある扉の中はシャワー室になっていた。
孝宏は着替えをベッドの上に放り服を脱ぐと、その拍子に、あるはずのない胸の双丘がプルンと揺れた。
「あ……そういえば忘れてたなぁ」
髪は赤く長い。掌に余る椀型の膨らみが二つ。孝宏はようやくナキイの妙な言い回しの正体に気が付いた。
髪や胸だけでなく、ルイの魔術で≪それらしく≫見えているはずで、それならば孝宏を女だとナキイが勘違いするのは無理からぬことだ。
実際に孝宏がまじまじと眺めてもつなぎ目はおろか、感触まで完璧に本物なのだから、これが偽物だと言う方を疑ってしまう。
女装していたことを思い出すと、孝宏は文字通り頭を抱えた。長い髪が指に絡みつく。
非常事態だったとはいえこの姿でずっといたかと思うと、恥ずかしさで息も詰まる。
試しに髪を引っ張ってみたがそう簡単には取れず、やみくもに掻きむしっても痛いだけで、かつらが取れる兆しはないし、もちろん胸の膨らみもなくならない。
本当ならばすぐにでも言い訳しに戻りたいが、今更で、間が抜けている。
それに、完璧に近い女姿では説得力に欠けるというもの。
「しょうがないからばれるまで黙っていよう」
勘違いはそのままの方が、平和で良いではないか。
考えた末に出した結論に孝宏は何度も頷いた。
余韻に浸る間もなく、ナキイが差し出したのは灰色の紙袋。覗くと服が入っていた。もう片方の手によく似た紙袋がもう一つ。おそらくはナキイの着替えだろう。
まさか破れた服の代償がこれというわけではあるまい。
ルイを信じるならあれは値の張る代物のはずで、さらには似た様な物を用意する約束になっていた。
それに引き換え、ナキイの用意した服は一見すると使い古された風合の、所謂古着かと思える物だ。
お世辞にも高そうには見えず、孝宏は破れた借り物の服の代償に、これを受け取るべきか迷う。
「えっと……」
差し出された服を受け取らず表情は険しく、孝宏は遠慮がちに服の擦れて破れた箇所に掌を重ねる。
小さく漏れた戸惑いの声とはっきり物言わぬ瞳がナキイを見上げた。
事情を知らない医者等に解らなくとも、ナキイには孝宏が何に躊躇しているのが容易に察しがついた。
「これはあの蜘蛛の体毛を浴びた可能性があるから、着替えた方が良いだろうと思って用意した服だ。それにいつまでも敗れた服を着させているのは心苦しい。だからどうか受け取って頂けないだろうか。もちろん代金をと言うつもりはないし、破れた服の弁償は改めにさせてもらうから安心してほしい」
自身の心の内がすっかり見透かされ、孝宏は肩を縮こまらせた。
卑しいと思われただろうか。たとえそう思われたとしても真実だけに否定できない。
孝宏は自身の行いが、ただ恥ずかしかっただけで、決してそうではないのだが、孝宏が納得していないと感じたナキイは、困り顔で続けた。
「すでにほとんどの店が閉まっていてこれしかなかったんだ。男物だしどうかと思ったが動きやすいし、服に触る前に手をきちんと洗浄したし汚染されてはいないだろう」
(え?男物……って当たり前じゃ……大人用ってこと?……ここ、異世界だし、表現の仕方が違うのかな?)
「あ、や、ちがくて……あのすみま……ありがとうございます」
孝宏はようやく自分が彼に失礼な態度取っていると気がついた。
ナキイの奇妙な言い回しも気になったが、それよりも重なる失敗に恥ずかしさが勝り、礼を言うべきが謝るべきか迷った挙句、中途半端な感じになってしまった。
耳を真っ赤にして俯く孝宏を、目を細めて見下ろすナキイの内心など知らず、孝宏は礼と詫びを繰り返し頭を下げた。
二人のやり取りが一段落ついたところで医者が、元の冷ややかな表情と口調で、口を挟んできた。
「着替えるなら隣の部屋を使って下さい。シャワー室があるので浴びると良いでしょう。今着ている服、毒が付いている可能性があるのでしょう?それならば籠の中に入れて、シャワーを浴び終えたらベッドのヘッドボードのボタンを押して待っていてください。くれぐれもシャワーを浴びる前にベッドや部屋の物を不要に触らないで下さいね」
医者がため息を吐く。
「アロナ、この部屋を中心に院内を洗浄します。あと彼らの服を入れる袋を籠に設置しておいて」
「解りました。すぐに用意します」
助手は頭をカクンと下げ返事をした。
(あ、俺、そこまで気が回ってなかった。ベタベタ触っちまった……)
彼女はこれから言いつけられた大仕事をこなすのだろうと思うと、おそらくは一番の原因と思われる孝宏は首を垂れ、謝るしかなかった。
隣の部屋は先程の部屋に比べると狭くベッドは一つ、廊下に通じる扉の、右手にある扉の中はシャワー室になっていた。
孝宏は着替えをベッドの上に放り服を脱ぐと、その拍子に、あるはずのない胸の双丘がプルンと揺れた。
「あ……そういえば忘れてたなぁ」
髪は赤く長い。掌に余る椀型の膨らみが二つ。孝宏はようやくナキイの妙な言い回しの正体に気が付いた。
髪や胸だけでなく、ルイの魔術で≪それらしく≫見えているはずで、それならば孝宏を女だとナキイが勘違いするのは無理からぬことだ。
実際に孝宏がまじまじと眺めてもつなぎ目はおろか、感触まで完璧に本物なのだから、これが偽物だと言う方を疑ってしまう。
女装していたことを思い出すと、孝宏は文字通り頭を抱えた。長い髪が指に絡みつく。
非常事態だったとはいえこの姿でずっといたかと思うと、恥ずかしさで息も詰まる。
試しに髪を引っ張ってみたがそう簡単には取れず、やみくもに掻きむしっても痛いだけで、かつらが取れる兆しはないし、もちろん胸の膨らみもなくならない。
本当ならばすぐにでも言い訳しに戻りたいが、今更で、間が抜けている。
それに、完璧に近い女姿では説得力に欠けるというもの。
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考えた末に出した結論に孝宏は何度も頷いた。
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