超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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 カウルは冷たい床に座り込んだままのマリーを立つよう促した。カダンには見向きもしない。カダンの顔を見るのはなんとなく恐ろしかった。無言のまま二人でベッドに腰掛けても、カウルはカダンに背中を向け、見向きもしない。

 この時の行動を、カウルは後になり後悔するのだが、もしもこの時、カウルが向かい合って座ってカダンに注意を向けていたとしても、おそらくは機嫌が悪くなったとしか捉えなかったかもしれない。

 良くも悪くもカダンをよく知っているからこその思い込みが、カウルを真実から遠ざけただろう。

 だが孝宏がいたならばカダンの変化に注意を向け、瞳の青い光に気が付き、違和感を覚えただろう。孝宏はそれを双子のどちらかに伝え、それを知った双子が、それの意味するところを察したかも知れない。カダンを、この場の誰よりも知る彼らだからこそ、たったそれだけでカダンの秘密を暴いたかもしれない。

 今この場に孝宏がいなかったのは、本人に自覚はなくとも、カダンにとっては幸いだったといえた。


 それから三人は、沈黙の合間に他愛のない話をして過ごしていた。時計の針がコツコツと時を刻む音がやけに大きくて、何度も時計を見た。一分が経ち、さらに五分が経ち、十分になり、二十分が過ぎ、長い針が時計を半周した。やきもきしながら、呑気に荷物を守る人精を見守りつつ、ついには一時間が経過した。

 これだけ待っても帰って来ないどころか、連絡の一つもない。無理を承知で探しに行くべきか、自然とそんな話題になっていた。

 行くか行かないか、話し合いの結論が出ずにると、掌に納まるほどの小さな人が、壁を通り抜けふわふわ飛んで来た。

 白い短髪に褐色の肌。若く綺麗な顔立ちの、男の人精だ。手足はなくカダンが着ていたコートによく似た暗い色のマントを風もないのにひらひらはためさせる。

 見知らぬ人精は三人の顔を見比べると、迷わずカダンの周囲をぐるぐる回り始めた。マリーが人精に手を伸ばすと、水中で泳ぐ小魚の様にするりと逃れた。初めは一体だったのが、一体二体と増え、あっという間に五体もの、カダンによく似た人精がカダンを取り囲んだ。
 

「カダン、これは…」


 これがカダンが放った人精でないのは明らかだった。
 カダンの人精は両手足まで作り込まれ、本人が作っただけあり本人に生き写しだったが、これはカダンよりややきつめの印象を受ける。ただカダンの人精と違い、この人精が歯を見せニッと意地悪く笑う。


「うん、俺のじゃない。誰かが俺を探してるんだ。ルイ……かなぁ?」


 カダンは自信な下げに首を捻った。俺はもっと、と人精を眺めながらぶつぶつ言っているあたり納得できない何かがあるようだ。


「どうだろう。適当に作れば……こう…」


 見えないこともない。カウルはカダンが小さい頃は、よくこんな風に笑っていたことを思い出し、しかし言葉を濁らせた。

 誰かと喧嘩をするとき、カダンは決まって相手を見下すように笑うのだ。言わぬが仏、双子はカダンの恐ろしさを身に染みて知っていた。


「俺はこんな生意気な感じじゃないし、第一ずっと一緒に暮らしているにも関わらず、この程度しか似せられないってどうかしてる。全然似てないじゃないか」


 憤慨して語尾を荒くするカダンに、割と似ていると言えずカウルは目を逸らし、こっそりため息を零した。

 一度逃げられると、どうにかして捕まえたくなるのは人の性。マリーは二人がやり取りしている横で、何とかして人精にせめて触れられないか奮闘していた。
 すでに十体もの人精がカダンを取り囲んでいる。これだけいれば、一体くらい捕まりそうな気になるから、中々諦めきれないでいた。


――カダン…カダン…――


 人精が一斉にカダンの名を口にし始めた。男の声だがルイではない。初めは体に似合って小さな声だった。


「え?何?」


 初めに気が付いたマリーが手を伸ばすと、人精は一様にひらりと体を反転させ綺麗な円を描きカダンの周りをクルクル回り始めた。

 カダンを呼ぶ声は次第に大きくなっていくが、当のカダンは返事をするべきか迷っていた。相手が誰からないまま返事をして、万が一、相手がタツマであった時に望まぬ結果を招いてしまうのだけは避けたかった。


――カダン……で合っているのなら返事をしてほしい――


「カダン、あなたを呼んでる。ルイじゃないみたいだけど」


 マリーの声はきっと相手方にも聞こえたに違いない。
 カダンはため息を穿いて、いくらか気を緩めた。

 少なくともタツマならば不用意に知られるようなことにはならないはずだし、マリーの言う通り、確かにルイの声ではないが、カダンには聞き覚えのある声だった。カダン個人的にはあまり歓迎できる人物ではない。


「やっぱりカダンを探していたんだな」


 カダンが返事しないので、人精はカウルの呟きに反応させ体を反転させた。


――私は中央広場で会った花人と言えば解るかな?――


 カダンとカウルは互いに目を合わせ、マリーがだけが訝し気に首を傾げた。





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