144 / 180
夢に咲く花
70
しおりを挟むカウルが呼んできた熊人の医者の診察を受け回復していると診断を受けた孝宏だが、一晩は安静にしているよう言われてしまった。
治療のおかげか、凶鳥の兆しのせいか。診察が終わる頃には孝宏は体の自由こそ利かないものの、思考もはっきりとし話す分には支障がない程度に回復していた。
「さて、何から話そうか」
カウルは孝宏は意識を失っている間に何があったのか順を追って話した。
巨大蜘蛛から逃げて宿にたどり着いたカダンに連絡を取って来たのは国王の長子、ヘルメルだった。
オウカのノートに、毒に関する有力な情報があるかもしれないと解ったが、ルイの鞄を壊すのに時間を要したのは誤算だった。
ようやく鞄の鍵が壊れ、中から物を取りだせた時にはルイが目を覚ましていたのだ。結局ルイの協力もあり、無事に解毒魔術が完成したのは今よりつい二時間前のことだ。
現在ルイは巨大蜘蛛の対策会議に協力を要請され出向いている。一応カダンとマリーが付き添っているのは回復して間もないルイを気遣ってだ。
「じゃあ、今この国の王子さまが来てるのか?」
「ああ、ヘルメル王子殿下。別名薄幸の王子」
「なんだ?それ」
「出かけ先で頻繁に事件事故に巻き込まれるんだよ。おかげで王様の次に有名な王族だ」
幸が薄いとは何とも嬉しくない二つ名だ。
日本にも似たような理由から死神と呼ばれる名探偵がいるが、あれとは方向性が違う付け方なのは、相手が王族だから不敬に当たらないようの配慮だろうか。
「それが何でまた連絡してきたんだ?……まさか!?カダンは王族と関係があるとか……」
そうでなくとも、例えば知る人ぞ知る重要人物だとしたらどうしようか。
カダンが知られなくないが故に、これまで知らなかった事実を不意に知ってしまった時、二人との関係性がどう変わるのか。孝宏の心には戸惑いと好奇心がせめぎあう。
カウルはそれらを笑い飛ばした。
「ないない。ヒタル・ナキイ、お前たちを助けてくれた人だ。覚えてるか?」
孝宏は無言で頷いた。
「あの人はヘルメル殿下の護衛をしてる人でな、そのヒタルさんの報告から、タカヒロが使った解毒の術札が蜘蛛の毒に有効かもしれないってわかったんだ。それから俺たち、中央広場で一度ヘルメル殿下に会ってるんだ。それで俺とルイが似ているからもしかして知り合いじゃないかって連絡してきたんだよ。術札の心当たりはあるか……って」
「じゃあ、あの時の札があったからルイは助かったのか?」
「それだけじゃないらしいけど、少なくともなかったら二人とも死んでたって聞いてる」
寝ている間にそんなことになっているとは思っていなかった。死の感覚が一気に蘇り、孝宏は身を震わせた。
「襲われたときヒタルさんみたいな人がいて助かったよ。ヘルメル殿下の護衛の兵士って、噂じゃ選びに選び抜かれた、軍の中でもトップクラスの実力を持つ人達ばかりらしいぞ。実質最強部隊だって噂だ」
「すげぇな。まさか薄幸の王子だからとか?」
「らしいな。噂だけど、実戦経験が豊富なんだと」
冗談でいったのだが、思わず肯定されてしまった。
含み笑いのカウルの言う理由は頷けるものだが、それはどこまでが噂なのか分かったものではない。
巨大蜘蛛が出現する直前、通りで孝宏にぶつかった男、ナキイが主人と呼んだあの男が、おそらくはヘルメルだろう。
あのように逃げ回るのが護衛対象だと、護衛する方は気が抜けないし、トラブルに頻繁に巻き込まれるのでは腕を錆びつかせる暇もないはずだ。
しかし被害者としての印象からは、トラブルに巻き込まれているというよりは、トラブルを自ら引き起こしていると言われた方がしっくりくる。
「あの人ってそんなすごい人だったんだ。へぇ…………あっ……」
「どうした?」
「いや、あのヒタルさんに性別を勘違いされてたの思い出してさ。てか、俺いつまでこの格好でいなきゃいけないんだ。カウルはこの魔法を解除とかってできないのか?」
カウルが魔術が苦手なのはもちろん承知している。出来ないと言われるのが解っていて言ったのだ。カウルも孝宏を見て笑っている。
孝宏は遠慮がちに自身の胸を触った。そこには立派な膨らみが二つ。髪は長く赤い。
「確か、治療の妨げになったらいけないから、完全に回復するまでそのままにするって言ってたけど…………なぁ、それどうなってるんだ?」
意外にもにもカウルは興味津々だ。
孝宏が来ているのは前開きの病人服。腰の高い位置、胸の下あたりを幅広の紐で縛ってあり、より強調されている気になる。
横たわっていてもはっきり認識できるほどの膨らみが二つ。孝宏が寄せて上げれば膨らみはより存在感を増す。
「見るか?本物みたいだぞ」
孝宏が指で引っ掛けた前合わせの隙間からカウルが覗き込む。
「まじだな。すげぇ……触ってみてもいいか?」
「あぁ?いいのか?マリーに言うぞ」
「なんだよ。ケチ」
「ケチってお前なぁ…………それより早く元に戻りたい」
「似合ってるぞ」
「うっせ」
「そういえば……」
カウルは何かを思い出したのか、呟いて意味ありげに、にやりと笑った。
「ヒタルさんがかなりお前のことを気にしてたぞ。気にいられたんじゃないのか?」
「あの人が?」
ナキイに気気に入られる要素が思いつかない。親切なあの人のことだ。普通に考えれば助けた相手を心配しているだけだろう。
「んなまさか。女っぽく見えるってても、これだぞ」
孝宏は自分の顔を指差した。
「そうか?俺は悪くないと思ってるぞ」
いっそのことそのままでいれば良い。カウルはあっけらかんと笑って言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる