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夢に咲く花
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孝宏はここに来た時と同様、一度白い建物へ行くのかと思った。
だが、兵士は孝宏たちを飛行船の最下部へと案内した。
入ってきた時はただの通路だった床に、今は大きな扉が付いており、開ければ地面にぽっかり穴が開く。
ここから直接現場まで行こうというのだ。
兵士たちもすでに暗い地面の下で待っているに違いない。孝宏は意を決して暗い穴を降りていった。
そこからは班に分かれて行動いた。
多少明かりがあるとはいえ、薄暗く狭い通路を大所帯で行くのだから圧迫感が増す。
孝宏は軽い吐き気を催しながらも通路を進んだ。
やがて地上に出たとき、あたりはすっかり夜になっていた。
「上へ出たら、暗視へ切り替えろ」
これは地上へ出る前に伝達されてきた命令だが、孝宏は暗視モードへの切り替えがわからなかった。
ヘルメットにボタンがついているわけでもなく、他の人を真似しようにも上手くいかない。
濡れた地面、建物との境目がわからない夜空の下、視界は何も映さない。冬の肌を刺す空気に湿気た匂いが混じる。
雨は降っていない。止んだ後だろう。
闇の中を、バラバラと持ち場へと散っていく兵士たちの足音を見送り、自分はどこにいるべきか一瞬不安にかられる。
とはいえ、孝宏の役目は一つだ。
(それに、これまで薄暗い下水道を通ってきたのだから暗闇に目が慣れるのも早いはず)
孝宏は目をこらして蜘蛛の巣を探した。
これだけ暗ければ、逆に光りなどは目立つ。
見上げると、雲の合間から覗く星のような小さな光りが、いくつか見えた。赤や青、白と見間違うグレーの淡い光。
「あれ?」
孝宏が違和感に気が付くのは早かった。
孝宏の頭上の星の光は多少の強弱はあるものの、瞬かなければ揺らぎもしない。
小さくともこれだけはっきり見えるのだ。瞬く位しても良いだろうに。
「どうかした?」
孝宏の右斜め後ろにいたカダンが尋ねた。
孝宏にはカダンの姿が見えておらずとりあえず左後ろを振り返ったが、そこには兵士の一人が立っていた。
「あれ、あの光か見えるか?」
自分に振られると思っていなかった兵士は、戸惑いながらも暗い空を見上げた。
縦横無尽に張り巡らされたロープと、夜空を覆う分厚い雲が見えるばかり。
「いや、何も見えないが……」
「え?」
孝宏はカダンに話しかけたつもりなのだ。
答えた声が違うことに驚き、間違えたのだと気が付いても、肝心のカダンがどこにいるのか解らずきょきょろとするばかりだ。
「俺はここだよ」
見かねたカダンが孝宏の肩に手を置いた。
「ゴメン、何も見えないくてさ。あせった」
孝宏は左後ろ、おそらくは兵士がいるのだろうと思われた場所を一度振り返った。せっかく答えてくれた兵士にも失礼な態度を取ってしまった。謝った方が良いだろうかと孝宏は軽く頭を下げた。
「やっぱりカダンも見えないか?」
「光なんて見えないよ。どの辺が光ってるの?」
「どのへんって……初めは星かと思ったけど妙に低い気がするし、でも真っ暗で光ってるの以外は見えないんだ…………暗視モードってのがどうやるか分からなくて」
ため息を吐く声が周囲から洩れた。
孝宏の左後ろからも聞こえてくる。それは説明を怠った者へ向けられたものだったが、孝宏は自分に向けられたと思い恥ずかしくなった。
どちらにしろ怖気づいていないで聞けばよかったのだ。孝宏にも落ち度がないとはいえない。
「そっか、俺たちは説明受けたけど、孝宏たちは聞いていないのか。気が付かなくてゴメン。待ってて、今俺が切り替えてあげるから」
カダンは孝宏の目元部分を覆う透明のプレート、フェイスガードに指先で触れた。
トントントン、軽く叩くだけで孝宏の視界は一気に開けた。
それまで起伏も分からなった空にモコモコした雲が広がり、それから、苦笑いを浮かべるカダンに、蜘蛛の巣のごとく張られたロープ。周囲を固める兵士達。
孝宏もどう表情に出してよいかわからず、顔を引きつらせた。
「見えたみたいだね」
「うん、見える。ありがとう」
孝宏は改めて見上げた。やはり小さな光があるが、頭上のロープが光っているのではないようだ。それよりもやや低い。
「上のロープより下で光ってる。あそこに魔法があるんじゃないかって思うんだけど……」
カダンが兵士を見やる。
「今回の作戦に魔術を用いた仕掛けはありません」
そもそも殆どの魔術を無効にする相手に対し魔術の仕掛けは無意味だ。
カダンが手に持つ刀を抜くとそれは、カウルのと同じく柄の長い大刀へと変化した。
孝宏が指さした真下に移動し刃を上にして立て、孝宏の目をじっと見つめる。
孝宏が無言で頷くと、カダンはロープに触れないよう慎重に刃を振り下ろした。
そして、それは静かに姿を現した。
道の端から端まで届くほどの、重なり合い分厚く人を飲み込んでしまいそうな蜘蛛の巣。突然現れたそれの巨大さに、兵士達も大刀を握るカダンも目を見張った。
「やっぱり俺が見たのと同じ感じだ。これやっぱり変……だよな?」
皆の反応を見れば四十八区答えは予想できるが、孝宏ははっきりとした言葉が欲しかった。だが期待してカダンを見ても、蜘蛛の巣を刃にからめとるのに必死で気付いてくれない。
(兵士はみんな驚いているし……まぁいっか)
孝宏が他にもないか念入りに見て回り、怪しいところは念のためカダンが大刀を入れ手確かめたが、結局一つのみだった。
救出された民間人が下水道に下ろされていくのを見て、孝宏は誇らしい気持ちになっていた。
これでこの人は助かるかもしれない。きっと今頃、待機している医者が、すぐ治療を受けられるように準備を整えているだろう。
「次も頑張ろう」
「ああ、わかった」
孝宏は力強く頷いた。
だが、兵士は孝宏たちを飛行船の最下部へと案内した。
入ってきた時はただの通路だった床に、今は大きな扉が付いており、開ければ地面にぽっかり穴が開く。
ここから直接現場まで行こうというのだ。
兵士たちもすでに暗い地面の下で待っているに違いない。孝宏は意を決して暗い穴を降りていった。
そこからは班に分かれて行動いた。
多少明かりがあるとはいえ、薄暗く狭い通路を大所帯で行くのだから圧迫感が増す。
孝宏は軽い吐き気を催しながらも通路を進んだ。
やがて地上に出たとき、あたりはすっかり夜になっていた。
「上へ出たら、暗視へ切り替えろ」
これは地上へ出る前に伝達されてきた命令だが、孝宏は暗視モードへの切り替えがわからなかった。
ヘルメットにボタンがついているわけでもなく、他の人を真似しようにも上手くいかない。
濡れた地面、建物との境目がわからない夜空の下、視界は何も映さない。冬の肌を刺す空気に湿気た匂いが混じる。
雨は降っていない。止んだ後だろう。
闇の中を、バラバラと持ち場へと散っていく兵士たちの足音を見送り、自分はどこにいるべきか一瞬不安にかられる。
とはいえ、孝宏の役目は一つだ。
(それに、これまで薄暗い下水道を通ってきたのだから暗闇に目が慣れるのも早いはず)
孝宏は目をこらして蜘蛛の巣を探した。
これだけ暗ければ、逆に光りなどは目立つ。
見上げると、雲の合間から覗く星のような小さな光りが、いくつか見えた。赤や青、白と見間違うグレーの淡い光。
「あれ?」
孝宏が違和感に気が付くのは早かった。
孝宏の頭上の星の光は多少の強弱はあるものの、瞬かなければ揺らぎもしない。
小さくともこれだけはっきり見えるのだ。瞬く位しても良いだろうに。
「どうかした?」
孝宏の右斜め後ろにいたカダンが尋ねた。
孝宏にはカダンの姿が見えておらずとりあえず左後ろを振り返ったが、そこには兵士の一人が立っていた。
「あれ、あの光か見えるか?」
自分に振られると思っていなかった兵士は、戸惑いながらも暗い空を見上げた。
縦横無尽に張り巡らされたロープと、夜空を覆う分厚い雲が見えるばかり。
「いや、何も見えないが……」
「え?」
孝宏はカダンに話しかけたつもりなのだ。
答えた声が違うことに驚き、間違えたのだと気が付いても、肝心のカダンがどこにいるのか解らずきょきょろとするばかりだ。
「俺はここだよ」
見かねたカダンが孝宏の肩に手を置いた。
「ゴメン、何も見えないくてさ。あせった」
孝宏は左後ろ、おそらくは兵士がいるのだろうと思われた場所を一度振り返った。せっかく答えてくれた兵士にも失礼な態度を取ってしまった。謝った方が良いだろうかと孝宏は軽く頭を下げた。
「やっぱりカダンも見えないか?」
「光なんて見えないよ。どの辺が光ってるの?」
「どのへんって……初めは星かと思ったけど妙に低い気がするし、でも真っ暗で光ってるの以外は見えないんだ…………暗視モードってのがどうやるか分からなくて」
ため息を吐く声が周囲から洩れた。
孝宏の左後ろからも聞こえてくる。それは説明を怠った者へ向けられたものだったが、孝宏は自分に向けられたと思い恥ずかしくなった。
どちらにしろ怖気づいていないで聞けばよかったのだ。孝宏にも落ち度がないとはいえない。
「そっか、俺たちは説明受けたけど、孝宏たちは聞いていないのか。気が付かなくてゴメン。待ってて、今俺が切り替えてあげるから」
カダンは孝宏の目元部分を覆う透明のプレート、フェイスガードに指先で触れた。
トントントン、軽く叩くだけで孝宏の視界は一気に開けた。
それまで起伏も分からなった空にモコモコした雲が広がり、それから、苦笑いを浮かべるカダンに、蜘蛛の巣のごとく張られたロープ。周囲を固める兵士達。
孝宏もどう表情に出してよいかわからず、顔を引きつらせた。
「見えたみたいだね」
「うん、見える。ありがとう」
孝宏は改めて見上げた。やはり小さな光があるが、頭上のロープが光っているのではないようだ。それよりもやや低い。
「上のロープより下で光ってる。あそこに魔法があるんじゃないかって思うんだけど……」
カダンが兵士を見やる。
「今回の作戦に魔術を用いた仕掛けはありません」
そもそも殆どの魔術を無効にする相手に対し魔術の仕掛けは無意味だ。
カダンが手に持つ刀を抜くとそれは、カウルのと同じく柄の長い大刀へと変化した。
孝宏が指さした真下に移動し刃を上にして立て、孝宏の目をじっと見つめる。
孝宏が無言で頷くと、カダンはロープに触れないよう慎重に刃を振り下ろした。
そして、それは静かに姿を現した。
道の端から端まで届くほどの、重なり合い分厚く人を飲み込んでしまいそうな蜘蛛の巣。突然現れたそれの巨大さに、兵士達も大刀を握るカダンも目を見張った。
「やっぱり俺が見たのと同じ感じだ。これやっぱり変……だよな?」
皆の反応を見れば四十八区答えは予想できるが、孝宏ははっきりとした言葉が欲しかった。だが期待してカダンを見ても、蜘蛛の巣を刃にからめとるのに必死で気付いてくれない。
(兵士はみんな驚いているし……まぁいっか)
孝宏が他にもないか念入りに見て回り、怪しいところは念のためカダンが大刀を入れ手確かめたが、結局一つのみだった。
救出された民間人が下水道に下ろされていくのを見て、孝宏は誇らしい気持ちになっていた。
これでこの人は助かるかもしれない。きっと今頃、待機している医者が、すぐ治療を受けられるように準備を整えているだろう。
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「ああ、わかった」
孝宏は力強く頷いた。
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