超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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「お時間です」


 迎えの兵士が来た時、孝宏たちの準備はすでに済んでいた。

 ピリッとした兵士のまとう緊張感に引きずれ、孝宏たちの意識も切り替わる。落ち着き頷く者、静かに深呼吸する者、表情をなくす者。

 孝宏もキュッと口元をひきしめた。
 作戦の内容によっては自分も戦うかもしれないと思うと、ソコトラの時は必死が故に感じなかった緊張感が襲う。

 会議の後、隊の中でただ一人の六眼を持つ研究所の職員は、いくつかの巨大蜘蛛出現地点を見て回った。

 結果、明らかに魔術に関係していると思われる蜘蛛の巣を、拠点としている空港の外壁や周辺設備にて、合計三か所で発見、除去に至っている。

 しかし、軍が確認している巨大蜘蛛出現地点ではいずれも巨大蜘蛛の巣を確認出来ず、そのため蜘蛛の巣は一度の使用で廃棄され、しかし使用されていない巨大蜘蛛の巣はまだ町中に残っている可能性があると結論付けられた。

 また比較的新しい出現地点では、召喚魔術の痕跡も確認された。
 召喚にしては少々特殊な式が組まれた陣を、コオユイたちは召喚に偽装した転送魔術と結論付け、それすらも罠であった場合に備え、別隊編成し捜索、警戒に当たらせることにした。

 それらのことを踏まえて立てられた至って単純だった。

 囮となる部隊が巨大蜘蛛を引きつけ壁で囲い隔離した後、蜘蛛の巣がないか確認排除。周囲を警戒しつつ民間人を下水道より避難させる。

 なおこれは、避難する民間人は命に関わるような急を要する人物に限定され、全体の避難ではない。
 それでも当初の予定より、ずっと慎重な案に変えられていた。

 民間人を避難させる場所を塀で囲わない代わりにロープを何重にも張り巡らせ、民間人を素早く下ろせるようあらかじめマンホールは大きくした。

 万が一の場合に備え医者も同行させ、かつ、零に対応できる魔術師を最低一人は配置し、壁の中に隔離できなかった巨大蜘蛛は駆除班が対応する。駆除班はルイとマリーで二班を編成し、孝宏はカダンと、カウルは一人で救出班に組み入れられた。

 孝宏の役目はロープを張り巡らせた後に、目視で怪しい蜘蛛の巣がないか確認することだ。

 六眼を持っている者が孝宏を含め二人しかいないため、孝宏の責任は重大といえた。何せ誰にもフォローができないのだから、もしも見落としてしまえばそれはそのままリスクとなる。


「カダンや他の兵士たちが居るんだから、そこまで気負う必要ない。何かあれば俺たちも助けに入るだろうしな。もっと力を抜け」


「そうよ。すぐ慣れるから大丈夫」


 マリーもカウルも孝宏の緊張をほぐそうとしているのだが、カウルは頻りに刀の鍔を爪で弾き、マリーも剣を握る拳にいつも以上の力が籠る。

 孝宏から乾いた笑みがこぼれるのも致し方ない。

 すでに出発の準備は終えているのだ。あとは兵士たちと合流し、作戦に移るだけだ。

 移動する直前、いつになく真剣な顔でルイは孝宏に一振りの短剣を渡してきた。

 ただの短剣にルイが細工を加えたもので、鍔の部分に石がいくつか取り付けられ、細かな文字が文様を描く。

 これは巨大蜘蛛に対抗するために作った短剣で、魔力の制御ができない孝宏の為に引き抜くだけで効果を発揮させるようオウカの術式をルイが調整して施した一品だった。

 孝宏は礼を言ってから、ルイからその短剣を受け取った。


(こんなのいつの間に作って……)


 町に着いた次の日、宿でルイがベッドの上に道具を広げた時に、はたしてこれはあっただろうか。

 孝宏は記憶をよくよく思い出した。
 これだけの石をあしらった道具は目立っていても良良さそうなものだが、いくら思い返してもそれらしき物は思い出せない。

 そうであるならば、この短剣を作ったのは巨大蜘蛛に襲われた後だろう。

 回復して間もない体で、巨大蜘蛛と戦って疲れた体で。きっと孝宏が休んでいる傍で休まずに。

 孝宏は目頭が熱くなった。 


「体調は大丈夫か?病み上がりだしこれを作るために無理をしたんじゃ……」


「あぁー……さっき魔法でパパッと……5分位で作った物だから。でもその分脆いし、何度も使えるとは思わない方がいい。僕らのとは違う術式で狙い通りの効力が出るとは限らないし、下手したら発動しない可能性もある」


 ルイの説明を聞き、先ほどまでの感動はどこへやらいってしまった。急に不安になってくる。


「おい、大丈夫なんだろうな?これを当てにして……」


 孝宏とは対象的に、ルイの瞳が光を湛え、僅かに口角が上がる。


「使えるかどうかは、実際に使ってみないと僕にもわからないよ。確認する時間もなかったし。僕の計算通りなら、刃が触れた部分のみに効果が出るはずなんだ」


(あ、俺これ知ってる。アレだ)


 ルイは魔術に没頭する時、自信に満ちたというにはやや物足りないが、実に生き生きとした表情をする。

 この探検を作っている時のルイはそれはさぞかし楽しかったのだろうと容易に想像がつく。

 しかしいくらルイが優秀とはいえ、これはあくまでも最終手段として意識するのが正解かもしれない。


「一応礼を言っておくよ。ありがとう」


「どういたしまして」


 ルイはニッと笑って、先に出ていった兵士を追って部屋を出た。


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