超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
151 / 180
夢に咲く花

77

しおりを挟む

「人魚?」


 この中で唯一、マリーはカダンが人魚だと知らない。

 カダンはこれまで自分のことをあまり話したがらなかったし、何となくそうだろうと思って、地球人三人カダンに聞かなかった。

 なので双子などは孝宏が知っていると解ったら驚くだろう。


「うん。俺は人魚と狼との間に生まれた子供。人魚は特殊な種でね、特徴として中性的なのが多いから」


 地球で人魚といえば、一番初めに思い浮かべるのは童話の人魚姫である人も多いだろう。
 孝宏も人魚といえば幼い頃から女性のイメージが強く、美しい生き物であると漠然と思っていた。

 この異世界でも人魚のイメージは大差ないのか興味が湧く。


「あ、じゃあ尻尾は?魚の尻尾あるの?」


 無邪気に尋ねるマリーに、カダンははやり笑顔のままで返した。


「あるよ。でも時間ないし、こんなところで尻尾出したくないし、また今度。そうそう、宿から荷物を持って来たから、一応確認して」


 カダンが持っていたいくつもの鞄を、涼しい表情で差し出した。
 狼ともなると、力も人の何倍もあるのだろう。


「荷物?」


 そういえばと孝宏は頭を捻った。
 外出した時に来ていた服は、荷物はどうなっただろうか。


「あああああああああああ!」


 孝宏は大事なことを思い出し、狭い部屋の中で腹の底から叫んだ。


「なんだ!?どうした!?」


 皆驚き、ルイなどは耳を抑えている。

 少々大きな声を出し過ぎただろうか、孝宏は一瞬だけそんなことを思ったが、かまわず続けた。


「俺の荷物!服!病院で脱いだ奴の中に大事な物入ってるんだ!」


 孝宏はカダンが持っている荷物の中にそれらしきものを探すが見当たらず、縋る思いでカダンを見つめる。

 カダンはポカンと口を開けてあっけにとられた様子だったが、今にも泣きだしそうな孝宏を見て、若干引きつった笑みを浮かべた。


「ああ、ゴメン。言うの遅くなったけど、二人が来ていた服と鞄は駄目になっちゃって、でも中身はちゃんと受け取ってる。替わりの鞄に入ってるから」


 二つある見覚えのない、薄い布でできた大きめの手提げ鞄。
 その内の差し出された鞄を受け取ると、孝宏は急いで中身を確認した。

 孝宏が普段持ち運んでいる荷物は少なく、金は持っていないし、着替えは別の鞄に入っている。
 鞄に入っていたのは財布、携帯、ウォークマンに充電器、それから筆記用具。
 携帯以外はカンギリの樹液に塗れて壊れたり使えなくなってしまっているが、手放すことも出来ずにいつも持ち歩いていた。


「良かった、全部ある……ん?」


 ほっとしたのも束の間、孝宏は鞄の奥底に見覚えのない本を見つけた。あの日参考書の類は全て置いて出てきたはずだ。


「これは俺のじゃ……」


 孝宏は自分のではないと言いかけ、思い出した。

 ソコトラで、双子の家と知らずに入った家で見つけた不思議な絵本だ。

 皆に話をしようとしてすっかり忘れていて、忘れていることすら忘れていた。
 今なら皆もいるしまだ時間もある。また忘れる前に話をするだけした方が良いかもしれない。

 孝宏は絵本を出しながら、徐に話を切り出した。


「なあ、この本なん…………」
「ああああああああああ!」


「何だよ!?いきなり!」


 今度はマリーが叫んで、孝宏が驚く番だ。


「これ……私の腕輪?それともタカヒロの?」


 孝宏が絵本を取りだそうとして、中から押し出されるようにして、カバンから転げ落ちてきたの物を、マリーが素早くしかし丁寧に拾い上げた。

 それは白い小さな花を輪に編んだ、手作りの腕輪で、もちろん孝宏の私物なわけがない。


「何でこんなところに、あっ…………あ……」


 これがここにあると言うことは、犯人は一人しかいない。しかも今言葉に詰まってしまった孝宏は、かなり分が悪い。
 例えそうでなくとも、まるで自分にやましいことがあるように見えてしまうというものだ。


「何?まさかワザと隠していたんじゃないでしょうね」


 孝宏がしまったと思った時には、もう遅かった。マリーは完全に孝宏を疑って凄んでいる。

 マリーが疑うには十分過ぎる反応をしてしまったのだから、しょうがないといえばしようがない。

 全くの濡れ衣で犯人もわかっているが、孝宏がそれをわざわざマリーに告げ口するのかといえばそれはない。とりあえず今はだが。


(でもどうしようも誤魔化せなかったら、正直にチクろう)


「まさか、そんなわけあるか。何で俺がわざわざ隠さないといけないんだよ」 


「でも現にここにあるじゃない。それにさっき、あって言ったし……」


「それは……別に変な意味じゃなくて、マリーが最近元気なかったのは、これのせいかなって思ったんだよ」


「気が付いていたならさっさと渡しなさいよ!」


「ちげぇよ。これがここにあるって知ったのは今だから!」


 マリーは不満をまったく隠そうとせず、孝宏を睨み付ける。孝宏は頬を引きつらせ、それとなくルイに視線を送り助けを求めた。

 しかし、ルイはベッドの上で寝転がったまま目を閉じ、寝たふりを決め込んでいる。


(あいつ俺に全部押し付ける気か……後で殴る)


 正義感の強いマリーならば善悪を持ち出せば丸め込めるかもしれない。


「だから俺は知らなかったんだって。大体そっちが間違えて入れたんじゃないのか?確証もないのに人を疑うのは悪いことだぞ」


「そ、それはそうだけど……」


 孝宏の思惑通り、マリーは狼狽えて言葉を詰まらせた。しかし、孝宏がすかさず畳みかけようとした時、カダンが二人の間に割って入った。


「まあまあ、見つかったんだから、良いじゃないか、ね?あの時の混乱で紛れ込んだんだよ。無くし物って意外な所から見つかるのは良くあることだし。孝宏もマリーがどれだけ大事にしていたか解るだろう?ここは抑えて、抑えて」


 小物を隠してしまう妖精は、この世界にも存在しているようだ。

 ともあれ、マリーは怒りを納め、孝宏はとんだ濡れ衣を着せられそうになったが、カダンのおかげで事なきを得たのだっだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...