超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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「人魚?」


 この中で唯一、マリーはカダンが人魚だと知らない。

 カダンはこれまで自分のことをあまり話したがらなかったし、何となくそうだろうと思って、地球人三人カダンに聞かなかった。

 なので双子などは孝宏が知っていると解ったら驚くだろう。


「うん。俺は人魚と狼との間に生まれた子供。人魚は特殊な種でね、特徴として中性的なのが多いから」


 地球で人魚といえば、一番初めに思い浮かべるのは童話の人魚姫である人も多いだろう。
 孝宏も人魚といえば幼い頃から女性のイメージが強く、美しい生き物であると漠然と思っていた。

 この異世界でも人魚のイメージは大差ないのか興味が湧く。


「あ、じゃあ尻尾は?魚の尻尾あるの?」


 無邪気に尋ねるマリーに、カダンははやり笑顔のままで返した。


「あるよ。でも時間ないし、こんなところで尻尾出したくないし、また今度。そうそう、宿から荷物を持って来たから、一応確認して」


 カダンが持っていたいくつもの鞄を、涼しい表情で差し出した。
 狼ともなると、力も人の何倍もあるのだろう。


「荷物?」


 そういえばと孝宏は頭を捻った。
 外出した時に来ていた服は、荷物はどうなっただろうか。


「あああああああああああ!」


 孝宏は大事なことを思い出し、狭い部屋の中で腹の底から叫んだ。


「なんだ!?どうした!?」


 皆驚き、ルイなどは耳を抑えている。

 少々大きな声を出し過ぎただろうか、孝宏は一瞬だけそんなことを思ったが、かまわず続けた。


「俺の荷物!服!病院で脱いだ奴の中に大事な物入ってるんだ!」


 孝宏はカダンが持っている荷物の中にそれらしきものを探すが見当たらず、縋る思いでカダンを見つめる。

 カダンはポカンと口を開けてあっけにとられた様子だったが、今にも泣きだしそうな孝宏を見て、若干引きつった笑みを浮かべた。


「ああ、ゴメン。言うの遅くなったけど、二人が来ていた服と鞄は駄目になっちゃって、でも中身はちゃんと受け取ってる。替わりの鞄に入ってるから」


 二つある見覚えのない、薄い布でできた大きめの手提げ鞄。
 その内の差し出された鞄を受け取ると、孝宏は急いで中身を確認した。

 孝宏が普段持ち運んでいる荷物は少なく、金は持っていないし、着替えは別の鞄に入っている。
 鞄に入っていたのは財布、携帯、ウォークマンに充電器、それから筆記用具。
 携帯以外はカンギリの樹液に塗れて壊れたり使えなくなってしまっているが、手放すことも出来ずにいつも持ち歩いていた。


「良かった、全部ある……ん?」


 ほっとしたのも束の間、孝宏は鞄の奥底に見覚えのない本を見つけた。あの日参考書の類は全て置いて出てきたはずだ。


「これは俺のじゃ……」


 孝宏は自分のではないと言いかけ、思い出した。

 ソコトラで、双子の家と知らずに入った家で見つけた不思議な絵本だ。

 皆に話をしようとしてすっかり忘れていて、忘れていることすら忘れていた。
 今なら皆もいるしまだ時間もある。また忘れる前に話をするだけした方が良いかもしれない。

 孝宏は絵本を出しながら、徐に話を切り出した。


「なあ、この本なん…………」
「ああああああああああ!」


「何だよ!?いきなり!」


 今度はマリーが叫んで、孝宏が驚く番だ。


「これ……私の腕輪?それともタカヒロの?」


 孝宏が絵本を取りだそうとして、中から押し出されるようにして、カバンから転げ落ちてきたの物を、マリーが素早くしかし丁寧に拾い上げた。

 それは白い小さな花を輪に編んだ、手作りの腕輪で、もちろん孝宏の私物なわけがない。


「何でこんなところに、あっ…………あ……」


 これがここにあると言うことは、犯人は一人しかいない。しかも今言葉に詰まってしまった孝宏は、かなり分が悪い。
 例えそうでなくとも、まるで自分にやましいことがあるように見えてしまうというものだ。


「何?まさかワザと隠していたんじゃないでしょうね」


 孝宏がしまったと思った時には、もう遅かった。マリーは完全に孝宏を疑って凄んでいる。

 マリーが疑うには十分過ぎる反応をしてしまったのだから、しょうがないといえばしようがない。

 全くの濡れ衣で犯人もわかっているが、孝宏がそれをわざわざマリーに告げ口するのかといえばそれはない。とりあえず今はだが。


(でもどうしようも誤魔化せなかったら、正直にチクろう)


「まさか、そんなわけあるか。何で俺がわざわざ隠さないといけないんだよ」 


「でも現にここにあるじゃない。それにさっき、あって言ったし……」


「それは……別に変な意味じゃなくて、マリーが最近元気なかったのは、これのせいかなって思ったんだよ」


「気が付いていたならさっさと渡しなさいよ!」


「ちげぇよ。これがここにあるって知ったのは今だから!」


 マリーは不満をまったく隠そうとせず、孝宏を睨み付ける。孝宏は頬を引きつらせ、それとなくルイに視線を送り助けを求めた。

 しかし、ルイはベッドの上で寝転がったまま目を閉じ、寝たふりを決め込んでいる。


(あいつ俺に全部押し付ける気か……後で殴る)


 正義感の強いマリーならば善悪を持ち出せば丸め込めるかもしれない。


「だから俺は知らなかったんだって。大体そっちが間違えて入れたんじゃないのか?確証もないのに人を疑うのは悪いことだぞ」


「そ、それはそうだけど……」


 孝宏の思惑通り、マリーは狼狽えて言葉を詰まらせた。しかし、孝宏がすかさず畳みかけようとした時、カダンが二人の間に割って入った。


「まあまあ、見つかったんだから、良いじゃないか、ね?あの時の混乱で紛れ込んだんだよ。無くし物って意外な所から見つかるのは良くあることだし。孝宏もマリーがどれだけ大事にしていたか解るだろう?ここは抑えて、抑えて」


 小物を隠してしまう妖精は、この世界にも存在しているようだ。

 ともあれ、マリーは怒りを納め、孝宏はとんだ濡れ衣を着せられそうになったが、カダンのおかげで事なきを得たのだっだ。


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