超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
150 / 180
夢に咲く花

76

しおりを挟む

 コオユイが孝宏たちに休むよう言ってから数時間後、ナキイは仮眠室のベッドの隅に転がしたままの、藍鉄色のそれに手を伸ばした。


「三番解放」


 ナキイの言葉を鍵にして、首から下げた赤い花がハイネックの服の上を肩に向かって赤い花弁を広げていく。
 花弁は広がるのに比例して暗くなり、手首までを覆う頃には濃緑へと変化する。

 ナキイは無造作に選んだ藍鉄色のそれを、服の上から靴下を穿く要領で左ひざ上まで引き伸ばした。
 同じ要領でそれを右足に、前腕まで覆う手袋を両手にそれぞれ身に着け、次に肩当と胸に大きく花のモチーフが描かれた長めのベストを頭から被る。
 首元まで覆うマスクをして、最後にヘルメットを被ったら終了だ。
 初めは布の様に柔らかかったそれらは、ナキイが身に着ける度に、音もなくカチッと固まり鈍く光った。

 彼の本来の任務時には必要ない鎧を、わざわざ持ってきたのが正解だったのが皮肉としか言いようがない。
 ヘルメルの護衛につく時は黒い軍服と、時には濃紺のマントに身を包みむが、今はそれらはカバンの中に丁寧に畳まれしまわれている。

 ナキイは会議の結果を聞いてすぐ、コオユイに住人を避難させる班に入れてもらえるよう頼み込んでいた。

 孝宏が現場に出ると聞いていても立ってもいられなかったのが主な理由だが、もう一つヘルメル直々の命令もあった。

 彼には彼の目的があったのだが、その目的の中身がナキイと大差ないのは、いつもどれだけ高尚なことを言っていても彼もやはり男だったというだけだ。

 あの堅物が恋をしたと、兵士たちの間ではすっかり噂になっていた。
 マリーの美しさが、噂に拍車をかけている感は否めない。王家の役割に取りつかれたかのようなヘルメルに、それよりも優先させる女が、自分を奮い立たせる理由でなかったことにナキイは心の底から安堵していた。

 もしも同じであった場合どれだけ悲痛な思いをするのか。ナキイは想像するだけで同僚の何人かに同情を禁じ得ない。

 腕時計を見ると作戦開始の時間には少々早い。


「行くか」


 最後に、ベルトを締めストラップを丁寧に確認しながら付けると、部屋を後にした。








 同じ頃、孝宏は提供された部屋のベッドに腰掛け、目を閉じてマリーと向かい合っていた。

 マリーが手に持つ小さな筆が、孝宏の唇の淵をなぞる。
 顔に粉を叩き、頬紅を差し、瞼に薄っすら色を乗せている間孝宏はひたすら目を閉じていた。

 初めはマリーの何気ない一言だった。

 女装したまま寝てしまった、寝起きの孝宏を見て開口一番、私ならもっと上手く女性らしく出来ると言い放った彼女は疲れていた。
 それを面白がったカウルとルイが孝宏を鏡の前に座らせた時、孝宏もさほど抵抗することなく座った。
 孝宏は自分がどこまで変わるのか興味があったし、彼もまた疲れていたのだ。

 孝宏を化粧している間中、カウルはベッドで胡坐をかいたまま頬杖を突いて、ルイはその隣で寝転がってその様子を見ていた。


「メイクをするとずっと女に見えるな」


「でしょう?私の腕が良いからね」


 カウルが褒めると、マリーが得意げに笑みを浮かべた。


「俺の顔が良いからな。女装も似合っちゃうんだよな」


 孝宏が調子に乗って言うので、ルイが笑った。
 

「じゃあこのままで問題ないね。僕も手間が省けて楽だし」


「あ、嘘吐きました。ごめんなさい。俺このまま行くのは嫌です」


「良いじゃないか。どうぜ防具で顔以外は隠れるんだし。それに本当に似合ってるぞ…………くくっ」


 カウルが褒めるがどこまで本気か解らない。本気にして馬鹿を見るのは目に見えている。


「嫌だよ。零とかの治療は終わってるんだから、もう魔法を解いてくれたっていいじゃねぇか、なあルイ、元に戻してくれよ」


「私の力作よ。もう少し堪能して。不都合はいないでしょ?」


「あるよ!俺女って思われてるんだぞ!?」


 喚く孝宏を見て、カウルとルイとマリーの三人が笑った。
 鏡に映った自分は確かに前よりは綺麗になったが、それを好ましいと思か否かは別問題だ。


「だから、こういうんはカダンの方が似合うって……」
「みんな準備はできた?」


 孝宏がカダンの名前を出すのと、カダンが部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。

 カダンは両手にいくつもの荷物を持っているが、いつでも出発できるよう、すでに貸し出された鎧を着ている。


「あ……」


「タカヒロ……まだそんな恰好して、そのままいくつもりなのかな?」

「つい盛り上がっちゃって……このまま行ったら笑われるだけだろう?だからすぐにでも元に……」


 ソコトラからずっとあった気まずい空気は、いつの間にかなくなっていた。
 かといって初めのような関係に戻ったのでもなく、少しだけ距離が近づいたような、砕けたような。二人の関係は確実に変わったと、周囲にも確信出来るような空気があった。


「そんなことないと思うけど。凄く綺麗だよ」


「どーも、俺よりカダンの方が似合いそうだけどな」


 カダンに笑顔で言われても、孝宏は本気か冗談か測りかねる。

 自分より明らかに綺麗な人に褒められても素直に頷けないのは、たんに自分が皮肉れているのだと自覚はある。

 ただ揶揄われているのではないかと思ってしまうのは、カダンが含み笑いを浮かべているからだ。


(やっぱり俺馬鹿にされてる気がする……)


「女装は、俺も似合うだろうね…………人魚だから」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...