超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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「本作戦は陣を用いない転移、もしくは召喚魔法であると仮定している。あれだけの量だ。次の出現まで時間はかかるはずと考えていたんだ」


 もちろんそうでなかった場合に備えての警戒をしているが、やはり出ない前提で行われている作戦である以上、ミスをする確率はぐっと上がってくる。


「陣があるなら、次までの時間は、最悪ないに等しい」


「しかし、現状は巨大蜘蛛の出現はありません。陣であるならどうして……」


「陣であると仮定すれば、我々を油断させるためだろうな。想定内ではあるが……」


 ルイたちは今も街中で蜘蛛たちと対峙しているだろう。
 もしも不意打ちにでも合えば、あの時と同じように真上から降ってくれば、万が一、敵の策略で無限に現れたとしたら、もっと厄介な奴が表れたら。

 孝宏は次々と湧き上がる恐ろしい考えに、体が血の気が引いていくのを感じていた。


(蜘蛛の出現ポイントとかがわかれば、少しは危険が減るんだろうか)


 もっとしっかり見ていれば皆の助けになっただろうか。そう思うと孝宏は悔しくなる。


「誰か見た者はいるか?」


 その場の誰も首を縦に振らない。コオユイは苛立ち、大きく息を吐き出した。
 見た者がいる可能性は低いと、初めから予想はしていた。実際その通りだったが、孝宏の証言を無視して話を進めるのはあまりにも危うい。
 どうしたものかとコオユイが考え込んだ時カウルが口を開いた。


「孝宏は六眼を持っています。隠されてる可能性はありませんか?」


 経験のない孝宏でもひしひしと感じ取れる程に、その場の空気は緊張感に包まれていた。元々緩んだ雰囲気は皆無であったが、孝宏の発言を受けて、確実に焦燥感と緊張感は増している。
 そんな中、カウルが少なくとも、孝宏には平然として見える発言するのは、孝宏の発言の価値を見抜けなかった兵士達への優越感だけではなく、孝宏が恐れたのと同じく、不確かなまま現場に駆り出されているルイたちが襲われるのを恐れたためだ。


「それは……」


 どうだろうと、コオユイが先程の白衣の女に視線を送る。


「魔法で隠されているなら、六眼を持つ者であれば、痕跡や陣そのものを見つけるのも可能かと……」


 わずかに表情を強張らせた白衣の女は、眠そうな目をさらに細めた。


「そもそも巨大蜘蛛が我々の持つ手段で仕留めきれないのは、あれに強力な防御の魔法が施されているからです。先程、ルイ殿に教えていただいた術は、指定した範囲、または触れた部分のすべてを破壊する、あいつ等の防護魔法よりも、さらに強力な魔法だからです」


 実に単純な仕組みだ。
 音や言葉、複雑な式を必要とする魔術は人にしか使えないはずなので、あれは人の手が加えられた生物であるのは明らかだった。
 そして相手はこの国よりも、魔術やその他の技術がはるかに優れている証でもある。
 そんな敵を相手にしなければならないのだから、事実を正しく認識している者たちのプレッシャーは計り知れない。


「あれ等を作った者と送り込んできた者が同じならば、我々の魔法では破られないような、痕跡すらも悟らせない強力で、精工に組み立てられた魔法で隠しているでしょう。現に零は我々では対応できなかったし、魔法妨害も解除できませんしね」


 白衣の女の投げやりな言い様に、眉を潜めつつもコオユイは咎めない。コオユイは胸を張った。


「なるほど……誰か六眼を持ったものはいなかったか?」


「うちに一人いる」


 答えたのは、またもや白衣の女だった。
 コオユイは三度目のため息を吐いた。いるならさっさと言わないか、そんな心の声が聞こえてきそうだ。


「その者は何か言っていなかったか?」


「我々はずっと待機でしたので、その間、町はおろか船外にすら出てません。化け物が表れてからも、毒の特定やら負傷者の介抱で忙しく、今は病院に収容されている怪我人の治療に当たってます」


「ではその者に、出現地点に蜘蛛の巣があるか確認させろ」


 コオユイが卓上の地図の出現ポイントを。白衣指先で叩く。魔術師は一礼すると部屋を出た。


「今後のことはまた後で話そう。今は少し休んでいてくれたまえ」











 巨大蜘蛛対策本部が置かれた飛行場は、滑走路や駐機場を含め、普段はない高い塀に囲まれていた。その塀の上や、駐機場や滑走路にまで見張りの兵士が周囲を警戒している。すでに山と積まれた巨大蜘蛛が、この場所も決して安全でないことを証明している。

 そんな中、駐機場には様々な鳥が羽を休めていた。白鳥が二羽と雁が一羽、鴨が二羽、それからやけに煌びやかな丸い鳥が一羽。

 鴨の尾羽の下辺りから小さな影が出てきた。
 鴨と比べると小さな虫程しかないが、もちろん虫でなくれっきとした人間。ただし人間が小さいのでなく、鳥たちが大きすぎるのだ。

 大海原を行く客船を腹に飲み込んだかのような腹に、ほっそりとした長い首を折り曲げてくちばしを羽毛に差し込んでいる様は、大きささえ無視すればそこらの水鳥と変わらない。

 この世界では何ら特別でもない普通の光景なのだから、今更驚くのは、始めてこれを見た二人の異世界人くらいだろう。
 飛行船がまさか船でも飛行機でもなく、鳥であると、誰が予想出来ただろうか。しかも鳥の尾羽の下が出入り口なのは、想像はできても実行しようとは思うまい。

 初めマリーが入るのを渋ったのも孝宏だけは頷いた。


「ルイ……お前本当に生きてるんだな?」


 先に通された飛行船の一室で皆を待っていた孝宏は、部屋に入ってきた三人を見て、真っ先にルイに駆け寄った。顔の傷を確認し、自力で立っている二本足から綺麗な指先、短く刈り込まれたままの髪までを何度も往復する。


「お陰様で生きてるよ」


 ルイはそそくさと、ベッドのある部屋の奥へ進んだ。ベッドではなく脇に置いてあるソファーにドカッと腰かけると、大きく唸るような、低く年齢を感じさせる溜息を吐く。

 生きていてくれればそれだけで良いと願っていたのが、以前と変わらないルイがいる。それがどれだけの素晴らしいのかを理解できるのは、おそらくこの場では孝宏一人だ。


「何にやついていてんの?気持ち悪い」


 ルイの辛辣な態度はこうなっては、孝宏をますます興奮させる要素としかなりえなかった。


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