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夢に咲く花
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「まだ怪我の治療中でね……その…………触れても良いか?」
性的にやましいところなど何一つないはずが、ナキイはつい緊張した言い方になる。誤解されただろうか、ナキイは思わず目を細めた。
ヘルメットを外した孝宏は自身の状態はおろか、ナキイの表情すら見えていない。たた遠慮がちに尋ねるナキイの態度に、気を失う前の自分の状況を思い出していた。
確か、何匹もの巨大蜘蛛に襲われていたはずだ。もう思い出せないほどの痛みから逃れようとする自分を覚えている。
「そんなに酷い怪我を……」
思わず遠慮するほど酷い状態なのか、始めはそう考えた。だが、それにしては痛みがないのだ。そしてすぐに、己にとっては重要な事を思い出し、口をあんぐり開けた。
(いや!違う!俺、女の格好のままなんだ!……俺が驚かないようにわざわざ……)
「大丈夫です!気にせずやって下さい!」
同じ男なんだもの、とはさすがに言えなかった。というか、言わずにやり過ごせるならばそのままでも良いではないか、と思ってしまったのだ。また、今度も。
「そうか……さっきも雑にやったつもりはなかったんだが……でも痛かったらすぐに言って欲しい」
孝宏の膝を立てた左の太股に、ナキイの大きな手が遠慮がちに当てられた。
ナキイは触れると言いはしたものの、正確には、触れるか触れないかといった具合で、しかしこれも魔術の効果なのだろうか、まるで直接撫でられているかのような錯覚を起こさせる。
ナキイは孝宏の足の付け根の辺りから大きく円を描くように撫で下ろし、膝辺りで手を裏に滑り込ませると、腰の方までゆっくりと擦り上げた。
ナキイの手を熱が追いかけじんわりと広がっていく。
「傷むか?」
奇妙な感覚を覚え堪えるかのよう身構えた孝宏に、ナキイが尋ねた。
「いえ、大丈夫です」
「無理する事ないからな?痛みに強くても我慢は禁物だ。一応さっきみたいにならないよう、痛覚を麻痺させているが効かなくなる可能性もある。その時は遠慮なく言ってくれ」
もう、時間をかければ治るのだからと、ナキイは最後に付け足した。
「本当に……痛くない、ですから」
痛くないのは本当だ。
ただ感覚が完全に麻痺しているかと言えばそうでなく、ナキイの掌や指先の動きなどはつぶさに感じられた。それも直接触れていないのにも関わらずだ。
ナキイの手が太股の内側を付け根まで撫で上げると、また外側を腰辺りまで擦り上げる。ナキイの手が孝宏の際どい場所を掠めそうになる度、孝宏は伝えるか悩んだ。
しかし真面目に治療している人に、恥ずかしいから止めてくれとどうして言える。
「ん……」
結局孝宏は恥ずかしさを、唇を噛んで耐えるしかなかった。
体を撫でる手が誰の物ものでも、敏感な場所に触れているわけではないのだから、奇妙な気分になるはずがない。もし犬がじゃれついて来たとして、妙な気分になるかといえば、少なくとも孝宏はならない。
要は考えなければ良いのだ。もしも可愛い女の子だったらとか、あり得ないが、相手が木下だったらとか。
だが、夜闇は本当に恐ろしい。何も見えない分、感覚が研ぎ澄まされ想像力が増す。例えば目の前の親切な男が、可憐な乙女にも、麗しい姫君にでもなってしまう。
ナキイの手が左太股からふくらはぎへ、左足から右足へ移った。触れるか触れないかというタッチはくすぐったくもある。やがてナキイの手は腰から腹へスルリと入り込んだ。
(考えない考えない考えない……)
「ん……」
腹を探るように撫でまわし、ジワジワ上がってくる手がすくずったくて仕方ない。さっきより感覚が増している気がする。
「ん゛ん゛ん゛……」
(考えないって、考えない考えない考えない……)
どうしてこんな事になった。
蜘蛛の巣を探せると思い込んだからか。それとも彼らに協力すると安請け合いしてしまったからか。
それにしたって巨大蜘蛛は多過ぎではなかろうか。
誰も見た事のない、これだけの巨大な蜘蛛モドキを隠しておける場所など存在するのか。
一匹二匹ならいくらでもあるだろう。だが、すでに百匹以上現れていてもおかしくない。先にコレー地方を襲った化け物たちと同じ手の者だとしたら、途方もない数だ。
途方もない数といえば、蜘蛛の巣もそうだ。
限られた範囲だがその中で、普通ではない蜘蛛の巣を隠し通すのは本来なら難しいはずなのだ。六眼を持ってなければ見えないとはいえ、六眼持ちがまったくいないわけではないのだから。魔石を売っていた老婆がそうだった。
壁の中に隠すにしても、それこそ時間をかけていては見つかってしまう可能性も高かっただろう。となれば、それらの工作は素早く行われたはずで……
(夜とかなら見つからないのかなぁ。でも夜でも割と人がいるって……これはうちの場合か。ここでは違うだろうしそんなもんなんかなぁ)
性的にやましいところなど何一つないはずが、ナキイはつい緊張した言い方になる。誤解されただろうか、ナキイは思わず目を細めた。
ヘルメットを外した孝宏は自身の状態はおろか、ナキイの表情すら見えていない。たた遠慮がちに尋ねるナキイの態度に、気を失う前の自分の状況を思い出していた。
確か、何匹もの巨大蜘蛛に襲われていたはずだ。もう思い出せないほどの痛みから逃れようとする自分を覚えている。
「そんなに酷い怪我を……」
思わず遠慮するほど酷い状態なのか、始めはそう考えた。だが、それにしては痛みがないのだ。そしてすぐに、己にとっては重要な事を思い出し、口をあんぐり開けた。
(いや!違う!俺、女の格好のままなんだ!……俺が驚かないようにわざわざ……)
「大丈夫です!気にせずやって下さい!」
同じ男なんだもの、とはさすがに言えなかった。というか、言わずにやり過ごせるならばそのままでも良いではないか、と思ってしまったのだ。また、今度も。
「そうか……さっきも雑にやったつもりはなかったんだが……でも痛かったらすぐに言って欲しい」
孝宏の膝を立てた左の太股に、ナキイの大きな手が遠慮がちに当てられた。
ナキイは触れると言いはしたものの、正確には、触れるか触れないかといった具合で、しかしこれも魔術の効果なのだろうか、まるで直接撫でられているかのような錯覚を起こさせる。
ナキイは孝宏の足の付け根の辺りから大きく円を描くように撫で下ろし、膝辺りで手を裏に滑り込ませると、腰の方までゆっくりと擦り上げた。
ナキイの手を熱が追いかけじんわりと広がっていく。
「傷むか?」
奇妙な感覚を覚え堪えるかのよう身構えた孝宏に、ナキイが尋ねた。
「いえ、大丈夫です」
「無理する事ないからな?痛みに強くても我慢は禁物だ。一応さっきみたいにならないよう、痛覚を麻痺させているが効かなくなる可能性もある。その時は遠慮なく言ってくれ」
もう、時間をかければ治るのだからと、ナキイは最後に付け足した。
「本当に……痛くない、ですから」
痛くないのは本当だ。
ただ感覚が完全に麻痺しているかと言えばそうでなく、ナキイの掌や指先の動きなどはつぶさに感じられた。それも直接触れていないのにも関わらずだ。
ナキイの手が太股の内側を付け根まで撫で上げると、また外側を腰辺りまで擦り上げる。ナキイの手が孝宏の際どい場所を掠めそうになる度、孝宏は伝えるか悩んだ。
しかし真面目に治療している人に、恥ずかしいから止めてくれとどうして言える。
「ん……」
結局孝宏は恥ずかしさを、唇を噛んで耐えるしかなかった。
体を撫でる手が誰の物ものでも、敏感な場所に触れているわけではないのだから、奇妙な気分になるはずがない。もし犬がじゃれついて来たとして、妙な気分になるかといえば、少なくとも孝宏はならない。
要は考えなければ良いのだ。もしも可愛い女の子だったらとか、あり得ないが、相手が木下だったらとか。
だが、夜闇は本当に恐ろしい。何も見えない分、感覚が研ぎ澄まされ想像力が増す。例えば目の前の親切な男が、可憐な乙女にも、麗しい姫君にでもなってしまう。
ナキイの手が左太股からふくらはぎへ、左足から右足へ移った。触れるか触れないかというタッチはくすぐったくもある。やがてナキイの手は腰から腹へスルリと入り込んだ。
(考えない考えない考えない……)
「ん……」
腹を探るように撫でまわし、ジワジワ上がってくる手がすくずったくて仕方ない。さっきより感覚が増している気がする。
「ん゛ん゛ん゛……」
(考えないって、考えない考えない考えない……)
どうしてこんな事になった。
蜘蛛の巣を探せると思い込んだからか。それとも彼らに協力すると安請け合いしてしまったからか。
それにしたって巨大蜘蛛は多過ぎではなかろうか。
誰も見た事のない、これだけの巨大な蜘蛛モドキを隠しておける場所など存在するのか。
一匹二匹ならいくらでもあるだろう。だが、すでに百匹以上現れていてもおかしくない。先にコレー地方を襲った化け物たちと同じ手の者だとしたら、途方もない数だ。
途方もない数といえば、蜘蛛の巣もそうだ。
限られた範囲だがその中で、普通ではない蜘蛛の巣を隠し通すのは本来なら難しいはずなのだ。六眼を持ってなければ見えないとはいえ、六眼持ちがまったくいないわけではないのだから。魔石を売っていた老婆がそうだった。
壁の中に隠すにしても、それこそ時間をかけていては見つかってしまう可能性も高かっただろう。となれば、それらの工作は素早く行われたはずで……
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