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第一章~王女の秘密~

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 夜も更け、てっぺんを越えようかという時分だ。

 顔を真っ赤にした男がふらつく足取りで、人通りもまばらな、住宅街へと続く道を歩いていた。


 やがて木々が密集して生える茂みを見つけると、覚束ない足取りで、木の影に入った。
 おもむろにスボンのチャックを下ろすと、ジョボジョボと水音を立てる。

 めっきり寒くなり、暗くなるのも早まった今日この頃。人は足早に薄気味悪い林の前を通りすぎていく。
 誰も茂みの中で、用を足す男の事など気にも止めていない。

 やがて通りから人の気配がなくなると、男はそのまま、茂みの奥深くに入っていった。


 茂みの奥には、他にも人影があった。


「こんな危なげな場所で、何をしてでさ」


 男が言った。


「カグヤヒメを探してる」


 男とも女ともつかない不思議な声だった。

 カグヤヒメとは主に春から夏にかけて現れる虫で、発光するメスに、オスがエサを渡し、メスが受け取る事で、カップルが成立するという習性を持つ。
 ただ正式名称をアオコトロルディといい、カグヤヒメは俗称だ。

 俗称といったが、この国ではその知名度も低く、使う者もほとんどいない。
 この珍しい呼び名に、男は疑問も持たずスルリと答えた。


「この時期にですかい?夏になれば、そこの小川にもたくさん飛んでましたけど、もう、いないんじゃねぇですかねぇ」


「オキナに言えばもらえると聞いたのだよ」


「……オキナって……何ですかい?」


 男はそう言いつつ、男はポケットから手を抜き、拳を広げながら


「展開」


 男の拳から文字の羅列が、男を中心に広がっていく。それはあっという間に二人を包むと、膨張を止め、パッと散るように消えた。


「して、首尾は?」


 相手が、文字の羅列が消えるのとほぼ同時に言った。

 男は小さく笑った。せっかちな相手を笑っただけでない。
 今のからも察しがつくかもしれないが、この人物は短気だ。失敗したと報告して無事でいられるのか、考えるだけで、男は笑うしかなかったのだ。


「失敗しました」


「なんだと?またか?」


 この期に及んで。相手が独り言の様に呟いた。
 いや、本当に独り言だったのだろう。男は身を強張らせたが、特に何もないと知ると、ふっと体の力を抜いた。


「して、お前は何をしてたんだ?まさか何もせずボーッと見ていたのではあるまいな?」


「待って下さい!目標は達成できませんでしたけど、でも、護衛の数はほぼ特定できました!見える位置に護衛が常に3人!それから、隠れている護衛が最低一人います」


「なるほど…………確かか?」


「姫がどこに移動するにも侍女と護衛が付き添ってました。それに加えて姿を消している護衛は今日の騒ぎで姿を表したので、常に傍に控えいると考えて間違いないかと。個人的な意見を申し上げても良いなら、そういう想定で動くべきと考えます。ただ、煙が発生した時、直ちに姫を避難させるなどの動きはなく、姿を見せた時、姫自身も驚いていました点は少々気になりました」


「いるとこを知らなかったか、あるいは姿を見せてはいけないからか……」


「どうしますか?仕掛けますか?」


「そろそろ大海に漕ぎ出したいと思っていた。そうだな、我々に……国を明け渡してもらうとするか」



 ニヤリと笑う相手につられ、男も鼻を膨らませて笑みを浮かべた。

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