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第一章~王女の秘密~
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エグモンドおじ様の手下たちは、きっと私たちを追ってきているはず。過激派もこのままはでは済まない。
どれだけの追手がかかっているのか。警戒しながら町を行く。
町の数ヵ所に放たれた火の手は徐々に広がりを見せ、人々が逃げ惑う。そんな中を私とアートは北へと急いだ。
「そっちの道は火が回ってる!戻れ!」
回り道を余儀なくされ
「押さないで!」「こっちじゃなくてあっちだ!」
「これ以上は入れないから!」
火事から逃れる為、川へ逃げ込む人の群れに押し潰されそうになりながら、私たちは人々の間をすり抜けた。
人ごみに揉まれ、離れてしまうかと思われた手は、引き剥がさんとした力に逆らいさらに強く握り合った。
アートも私も一言も喋らず、握り合う手の温もりだけを頼りに進む。
敵はやはり私を諦めてはいないようだった。
途中、黒装束の者に襲われたのをいち早く察知しのは、探索魔法を展開していたアートだ。
アートが魔法で敵の動きを止め、生まれた数秒の隙に、私が拳を打ち込み膝に横から蹴りを入れた。続けて新手が二人、同時に襲いかかってきた。
私は一人目に蹴りを入れた後、流れるように右の死角から襲ってきた敵の顔面を、利き手とは逆、左手で掴みそのまま壁に叩きつけた。敵も抗い私の腕を掴んだが、私からすればさほど問題にならない程度の力でしかない。
全身に張り巡らせた魔力は、私を剛腕の小人に仕立てたわけで、例えば大人が幼児と組み合ったとして、腕力の差というのは埋められないのと同じだ。
私の有利は変わらないが、抵抗されると煩わしいもので、私は頭を押さえる手に一層魔力を込めた。
――ミシッ――
骨が音を立てて軋み、敵の抵抗が弱まった所に腹に蹴りを入れ、ようやく敵は大人しくなった。
反対側の敵はアートが魔法で弾き飛ばしていた。こちらは私と違い、一撃で意識を失ったようだ。興奮してかアートの息が荒い。
敵を撃退し、私たちは一応は難を退けたのけれど、まだ安心とはいかず、否応なしに緊張感が高まる。
そんな状態で冷静でいられたのは、たぶんアートのおかげ。彼がいるから、私は安心して目の前の敵に集中できた。結局初めの襲撃から間をあけず、また黒装束の者たちに襲われた。
「怪我は?どこか痛む所は?」
アートは襲われる度私を心配して、私の体を隈なくチェックした。
レディの体を、頭のてっぺんから足の先までを手で触り、私の反応を見ている。
多分私が怪我を隠していないが見てるんだろうけど、正直アートでなかったら、セクハラを疑うところよ。
もしかしてアートって私の事、まだ子供だと思ってるのかしら。歳は同じでも見た目は同じだからって……それはないわね。さすがにアートも子供相手にキスはしないだろうし。
でも待って。あの時は私たちが急に喋らなくなったら、敵も死んだと思ったのよね? という事は、アートは初めからそれを狙って?
子供相手でも非常事態で、そうするしかなかったら背は腹に変えられないわよね? 生きるか死ぬかだもの。
それにさっき、屋根から降りる時も、子供みたいに抱き上げてたし……。
あれ?ちょっと待ってちょうだい。私すっかりアートに好かれている気になっていたけど、本当は違うの?
ただの勘違いで……自惚れていただけ、なの、かしら?
「……大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょう!?」
「そ、それなら良いんだ」
しまった、つい大きな声を出してしまった。
勘違いしていたなんて知られたら恥ずかしいなんてものじゃないわ。平常心を保たなくてはね。
「大声出してごめんなさい。ちょっと考え事してて、あなたこそ、魔法使いっぱなしだけど魔力切れを起こしてない?」
「ああ、まだ平気だ」
アートが感触を確かめるかのように、何度か手を握る。顔色も良い。瘦せ我慢でもないみたい。
へぇ、凄いわね。これなら、魔法師としても十分に活躍できそうだし、わ……私の護衛としてはまだ力不足だけど、悪くはないのかも知れないわね。
「顔が赤いけど、今度は何を考えてるんだ?」
アートがにやついた笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んできた。揶揄いといわんばかりだ。失礼よ。そう言いたかったけれど、ボロがでそうだったので止める。
「 何でもないわ。先を急ぎましょう?」
取り急ぎ真剣さを装うのだけれど、つい眉間に皺を寄せてしまう。これじゃまるで怒ってるみたい。
「ん? あぁ……そうだな」
アートがなんともいえない表情で、頭を掻いた。
三度目の襲撃を受けた後だった。
黒装束の者達はどうしても私を諦めないつもりの様で、私は彼らが仲間を連絡を取り合わない様に、その都度、自由を奪い、その場に転がしていった。もちろん彼らは意識を失っていたのは確認した上でだ。
三度も繰り返していると、自然と気のゆるみも出てくる。三度とも黒装束だった。なので、四度目があるとすれば、また黒装束だろうと、思い込んでいた。
火事から逃げる人々の中に混じった、エグモンドおじ様の手下たちに気が付いたのは、すれ違いざまに口をふさがれた後だった。
私は自分で思っている以上に、守られていることに慣れ過ぎてしまっていたの。
どれだけの追手がかかっているのか。警戒しながら町を行く。
町の数ヵ所に放たれた火の手は徐々に広がりを見せ、人々が逃げ惑う。そんな中を私とアートは北へと急いだ。
「そっちの道は火が回ってる!戻れ!」
回り道を余儀なくされ
「押さないで!」「こっちじゃなくてあっちだ!」
「これ以上は入れないから!」
火事から逃れる為、川へ逃げ込む人の群れに押し潰されそうになりながら、私たちは人々の間をすり抜けた。
人ごみに揉まれ、離れてしまうかと思われた手は、引き剥がさんとした力に逆らいさらに強く握り合った。
アートも私も一言も喋らず、握り合う手の温もりだけを頼りに進む。
敵はやはり私を諦めてはいないようだった。
途中、黒装束の者に襲われたのをいち早く察知しのは、探索魔法を展開していたアートだ。
アートが魔法で敵の動きを止め、生まれた数秒の隙に、私が拳を打ち込み膝に横から蹴りを入れた。続けて新手が二人、同時に襲いかかってきた。
私は一人目に蹴りを入れた後、流れるように右の死角から襲ってきた敵の顔面を、利き手とは逆、左手で掴みそのまま壁に叩きつけた。敵も抗い私の腕を掴んだが、私からすればさほど問題にならない程度の力でしかない。
全身に張り巡らせた魔力は、私を剛腕の小人に仕立てたわけで、例えば大人が幼児と組み合ったとして、腕力の差というのは埋められないのと同じだ。
私の有利は変わらないが、抵抗されると煩わしいもので、私は頭を押さえる手に一層魔力を込めた。
――ミシッ――
骨が音を立てて軋み、敵の抵抗が弱まった所に腹に蹴りを入れ、ようやく敵は大人しくなった。
反対側の敵はアートが魔法で弾き飛ばしていた。こちらは私と違い、一撃で意識を失ったようだ。興奮してかアートの息が荒い。
敵を撃退し、私たちは一応は難を退けたのけれど、まだ安心とはいかず、否応なしに緊張感が高まる。
そんな状態で冷静でいられたのは、たぶんアートのおかげ。彼がいるから、私は安心して目の前の敵に集中できた。結局初めの襲撃から間をあけず、また黒装束の者たちに襲われた。
「怪我は?どこか痛む所は?」
アートは襲われる度私を心配して、私の体を隈なくチェックした。
レディの体を、頭のてっぺんから足の先までを手で触り、私の反応を見ている。
多分私が怪我を隠していないが見てるんだろうけど、正直アートでなかったら、セクハラを疑うところよ。
もしかしてアートって私の事、まだ子供だと思ってるのかしら。歳は同じでも見た目は同じだからって……それはないわね。さすがにアートも子供相手にキスはしないだろうし。
でも待って。あの時は私たちが急に喋らなくなったら、敵も死んだと思ったのよね? という事は、アートは初めからそれを狙って?
子供相手でも非常事態で、そうするしかなかったら背は腹に変えられないわよね? 生きるか死ぬかだもの。
それにさっき、屋根から降りる時も、子供みたいに抱き上げてたし……。
あれ?ちょっと待ってちょうだい。私すっかりアートに好かれている気になっていたけど、本当は違うの?
ただの勘違いで……自惚れていただけ、なの、かしら?
「……大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょう!?」
「そ、それなら良いんだ」
しまった、つい大きな声を出してしまった。
勘違いしていたなんて知られたら恥ずかしいなんてものじゃないわ。平常心を保たなくてはね。
「大声出してごめんなさい。ちょっと考え事してて、あなたこそ、魔法使いっぱなしだけど魔力切れを起こしてない?」
「ああ、まだ平気だ」
アートが感触を確かめるかのように、何度か手を握る。顔色も良い。瘦せ我慢でもないみたい。
へぇ、凄いわね。これなら、魔法師としても十分に活躍できそうだし、わ……私の護衛としてはまだ力不足だけど、悪くはないのかも知れないわね。
「顔が赤いけど、今度は何を考えてるんだ?」
アートがにやついた笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んできた。揶揄いといわんばかりだ。失礼よ。そう言いたかったけれど、ボロがでそうだったので止める。
「 何でもないわ。先を急ぎましょう?」
取り急ぎ真剣さを装うのだけれど、つい眉間に皺を寄せてしまう。これじゃまるで怒ってるみたい。
「ん? あぁ……そうだな」
アートがなんともいえない表情で、頭を掻いた。
三度目の襲撃を受けた後だった。
黒装束の者達はどうしても私を諦めないつもりの様で、私は彼らが仲間を連絡を取り合わない様に、その都度、自由を奪い、その場に転がしていった。もちろん彼らは意識を失っていたのは確認した上でだ。
三度も繰り返していると、自然と気のゆるみも出てくる。三度とも黒装束だった。なので、四度目があるとすれば、また黒装束だろうと、思い込んでいた。
火事から逃げる人々の中に混じった、エグモンドおじ様の手下たちに気が付いたのは、すれ違いざまに口をふさがれた後だった。
私は自分で思っている以上に、守られていることに慣れ過ぎてしまっていたの。
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