Crystal Deep

アディ・ロルフ

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第二部 Crystal Shards

3 Cage of Spells

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3 Cage of Spells

 繰り返し昨夜会ったオーラムの夢をみた。記憶だとわかっていてもみるのは辛い。目が覚めると自分がどこにいるのか確認してしまう。武器が目に留まる。禁忌の森の中にあるツリーハウスにいることを思い出した。あの森の少年を探して見渡してみた。起き上がりブーツを履こうとするがブーツだけでなく外套も見当たらない。焦燥に駆られる。荷物もなくなっていた。

「やられたっ!」
慌ててツリーハウスを飛び出すと、ザコビを踏みつけるところだった。
「おいっ!」
ザコビがとがめる様に言った。
少し後ろに下がりふとみると、彼のそばには私の荷物、ブーツ、外套が並べってあった。荷物の中身は全て取り出され、ブーツと外套は汚れ一つなく綺麗にされていた。

「何をしていたの?」
「あんたの物を綺麗にしていたんだ。あと荷物を等分して詰めなおすつもりだった」
ザコビが自分のやっていたことを説明した。そこにはもう一つ袋が用意されていた。
「どう分けるつもりだったの?」
ザコビは二つの山を指差した。一つにはポーション全てと私の衣類、食料が入っていると思われる小さな革袋、小さなナイフ、ロープ、それと私の金属のボトルが。もう一つには別の革袋、ロープ、衣類、動物の皮、弓矢、ナイフ、私が気づいていなかったなんらかの粉が入った瓶がまとめてあった。

「ボトルに水は入れてある」
ザコビが付け加えた。
「ありがとう」
ザコビの横に座ると分けられた荷物を詰めなおした。ザコビは困惑していたが、道案内用の黄色い粉の入った瓶は袋には入れなかった。ブーツと外套を身につけ、私たちはそれぞれ荷物持った。瓶だけは私の手の中に。ザコビに続いて注意しながら縄梯子を降りた。森の大地に降り立ったとき、ザコビは私に指示を仰ごうと振り返った。

「この粉の後を追うの」
私は瓶のふたを開けた。
「行け!」
瓶に向かってそう命じると、中の黄色い粉が舞い上がり、風に運ばれているような感じで漂い始めた。
「この魔法、どこで得たんだ?」
ザコビは純粋な好奇心で聞いているようだ。
「ポーションマスターと一緒に仕事してるからね」
「だけどさ、こんなポーションは魔法が使役できないと使えないだろ」
黄色の印を辿りながらザコビは主張した。
「そんなことどうして知ってるの?」
「誰でも知ってることさ。多くの奴隷には必要ないが、自分の為だけに何かをさせようとする場合とか居場所を把握する必要性がある場合はポーションだけじゃなく魔法を使役する人物が必要になる」

 このことに関して少し思い出した。王は自分の魔法能力をみせたことがない。王に仕えている多くの者は雇われていた。魔法は稀少だ。だから隠すか誇示するか。賢い者たちは信頼できる者としか仕事をしない。
「私の母は魔法使いだったわ」
「俺の父さんもそうだった。でも一度も使ったことはなかった」
驚いた。魔法使いは自分の中にある余分な魔力を開放しないと、その余分な魔力のせいで正気が保てなくなってくるというのに。
「だから父さんはこの森に来たんだと思う」
そういうことだったのか。
「それであとを追ってきたのね。だけど見つけられず、帰り道もわからず、ね」
私が少年を見遣ると彼は頷いた。
「私の母もここにきたの。でも私は彼女についていくのは怖くてただ見ていただけ。どのくらいここにいるの?」
「もうわからない。長い間だとしか」
「そう」
「お前の母親が魔法使いなら、お前はそのポーションマスターの弟子なんだろうな。お前の父親は? その外套からして貴族だろうし。お前は何者なんだ? 」
私は唇をかみ締めた。
「私の父は毎日玉座にふんぞり返ってる馬鹿な年寄りよ。私は母が森に入ったときにそこから逃げ出したの」
「魔力もちなんだな」
 魔力のことを考えてみたけれども、何も起こらない。記憶の中ではオーラムと私の回りに障壁を作り出すことができていたけれど、それ以外は何も。クリスタルはまだ全部の記憶を見せてくれたわけではないのかもしれない。
「多分ね」
「その粉を使役している。魔力はあるはずだ」
ザコビは疑問には全く思わず、断定している。

 私たちはそれから話すこともなく粉を追い続けた。ぐるぐると同じところを回っているのかどうかということすらわからないまま。森の深部に入っていっていると思いたかった。ザコビを見ると彼も戸惑っているようだった。頭上高く太陽が昇るまで歩き続け、一旦休憩を入れ、干し魚と果物で昼食をとった。ここまでは何も邪魔をするものはなかったが、あの小川以降は動物の姿をまるでみていない。

「行け!」食事を終えるとまた粉に命じ移動を開始した。自分たちが今どこにいるのか全くわからない状況でリーの作ったこのポーションの効果を疑い始めていた。作り間違えていたとか?もう手遅れ?記憶の繰り返しじゃなくオーラムが夢にでてきてくれることを願うしかなかった。
 ぱきっという音が聞こえたことで私の思考は中断された。私はその場で身動きをとめ、ザコビは弓矢を構えた。

「戻れ!」
粉を瓶に戻るように命じた。
 音は大きくないにしても徐々に近づいてきていた。
「何だろう?」
「わからないわ。ほとんどの生き物は日が暮れるまで現れないから」
 私は荷物の中にあるナイフを探した。目当てのものが見つかると取り出して自分の前で持ち構えた。

「耳を澄ませ、探索者。そうすれば道は開ける」
しわがれた声だ。
 ザコビが私を見た。彼は私を指をさし、探索者、と口を動かした。
「術の檻は弱き心では解き放てぬ。試練がこの先待ち受けている。我はその一番手。檻の心に辿りつければ自ずと探しているものに辿りつく。生きて辿りつければ、ではあるが」
この声に聞き覚えがある、が思い出せない。
「お前は我らの檻に捕らわれている。魔法使いや半分でもその血を宿す者は探しているものを見つけ出さない限り逃れられない。障壁はお前と次の試練まで続いている。打ち負かせば合格だ。それ以外は陽の目をみることは二度とないであろう。五つの試練が待ち受けている。幸運を、探索者」
声が途切れた。

「もっと矢を持ってくるべきだった」
ザコビがつぶやいた。
「もっと大きなナイフを用意すべきだったわ」
私がつぶやく。
ポーションを再び使い、私たちはそれに続いた。障壁を探す。この檻に最初から捕らわれることになっていたのだろうか。そうでなければ、非常にまずい。粉が空中で動きを止めた。ザコビは目を凝らし、矢を撃ち放った。矢は数メートル先まで飛び、目に見えない何かに当たり落ちた。矢の落ちたところまで行き、目の前の空間を叩いてみた。そこには硬い何かが存在するが目には見えない。
「最高だわ……」
両手を障壁に当て、押してみた。
「これをどうしろっていうのよ」
「何かヒントがあるんじゃないか?」
ザコビが障壁を指さして言った。私は少し後ろに下がって目に見えない壁を見上げた。空中に文字が浮かびあがってきていた。

Dneirf dna rekees eht fo eman eht.

「意味が全くわからない」
ザコビが言った。
「何かの暗号かどこかの言語か。どっちにしろどこにも行けないわ」
「なんの暗号だったらわかるんだ?」
「最初の文字をつなげても意味をなさないわね。単語をごちゃ混ぜにしたとしたらいつまで経っても身動きとれないだろうし」
「やってみよう」
そうザコビは言うと地面に座り込んだ。木の枝を拾うと文字を地面に書き始めた。二人で多くの単語を書き出してみたけれども、どれも意味をなさない。私はそんな状況にイライラとしはじめ、干し魚を袋から取り出して八つ当たり気味に齧り付いた。パズルがなかなかうまくはまらない。リーならみただけですぐに解けちゃうだろうに。

「The name of the seeker and friend (探索者と友の名)」
ザコビが突然言った。私は彼を見遣った。
「何て?」
「探索者と友の名」
ザコビは単語を指しながら繰り返した。
「逆から読んでいくんだ」
私は文字を見上げて逆から読んでみた。ザコビが正解を導きだしたのだ。
「凄いわ!」
「じゃ、俺らの名前を言うだけでいいのか?」
「多分」
私は立ち上がり、障壁のところまで行き手を当てた。
「ローズとザコビ」
何も起こらなかった。もう一度文字をみて、試してみる。
「Ibocaz dna Esor」
すると障壁が指の下から消えていった。やっと次の試練まで進めるのだ。
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