27 / 35
承
第27話 百合の早口言葉風
しおりを挟む
「あの~リュドミアお嬢様、もうそろそろ帰らないと宿に着くのが夜中になってしまいます」
リュドミアの執事が恐る恐る催促した。
執事の初老ダンディーは、お歳を召しているので暗くなったら眠くなるのでしょう。
それでは馬車の居眠り運転で事故になりますから。
「夜の道はなにがあるか分かりませんですから……」
治安の方でしたか……まあ、居眠り運転は襲われやすいですから。
「分かったわ、ハンカチはどうでもいいでしょう。
さっそく始めましょう……ユリさん」
分かりました、執事の初老ダンディーのために早く終わらせて宿で安眠させてあげましょう。
「では、屋敷の中にお入りください。
室内の方が集中できますし……」
カレンダが屋敷に入る扉を開いた。
扉を開くと、そこには聞き耳を立てたテルザがビックリした表情で立っていた。
まあ、テルザらしい。
好奇心には敵わず、仕事をサボって来ていたようだ。
「いえ、ここがよろしいですわ。
それにちょうど今、爽やかな風が吹いていますし……」
リュドミアは縦ロールの髪をかき上げながら微笑んだ。
リュドミアの言う通り、涼しくて優しい爽やかな風が私の身体を包んでくれる。
……爽やかな風……
「うぃやぁぁぁー!」
私はあの忌まわしき豊穣祈願の村祭りのステージに立った時の、あの爽やかな風を思い出して恐怖で怯え出した。
ちょうど爽やかな風が吹いて、私のカンニングペーパーが旅立って行ったあの村祭り。
村人が暴動を起こし、お漏らししてしまったあのステージ。
もう村には行けなくなった原因の、ちょうど爽やかな風。
私は呼吸困難に陥りました。
これはフラッシュバックという症状ですね。
「ユリお姉様、大丈夫ですか⁉︎」
「ユリお姉ちゃん、大丈夫⁉︎」
ヤッセーノ姉妹が私を支えに抱き寄ってくれた。
「たたたたたん! 大丈夫です……」
心から心配している眼差しのエルサとテルザが私を励ましてくれている。
ああ、二人の温もりが嬉しい……
私は大きく深呼吸をした……空気の窒素と酸素に混ざって二人の匂いがした。
なんて暖かい匂いなんでしょう……
私には二人の愛が見えます。
二人の愛でなんとか自分を取り戻す事が出来た。
「なんなんですの? さっきから……意味が分かりませんのよ! まったく」
リュドミアにとっては、無駄な時間がどんどん増えて行く。
「ユリ、大丈夫?」
マアガレットが心配して声をかけてくれた。
「ユリお嬢様、これを羽織ってください」
そう言ってカレンダは夏用のカーディガンを掛けてくれた。
「ありあとうー!」
ああっ、皆んなの愛が嬉しい……この恩を返してあげたい……でもそれを聞いたら皆んなはきっと私の身体を求めるでしょう……そして求めに応じたら私にとって倍返し以上のお返しで、大損だ。
「アナタのその情緒不安定な態度、相当ざまぁな目に合っているでしょ。
それほどの負の力を溜めていたなら、アンジ様の“ざまぁ返し”に勝てたのも納得がいくわ」
そんな事を言われる筋合いはない。
「ほーほほっ、ゴスロリバツイチ年増女には敵いませんことよ」
「ナッ! 口を開いたと思ったら、なんてコトを言う小娘でしょう!」
リュドミアは顔のシワが今後も残るレベルの怒り顔で私を睨みつけた。
「あの~、リュドミアお嬢様、お時間が……」
執事の初老ダンディーが時間を気になって気になってしょうがないようだ。
もう眠たい時間だと。
「クゥ~! 早く初めの合図を取りなさい、マアガレットさん!」
リュドミアに催促されたマアガレットは私に確認を取った。
「ユリ、戦えるわよね」
「オフコース!」
私たちはテーブルから少し離れた芝生の上で対峙した。
リュドミアは役に立たない小さな帽子と小さなアンブレラを執事の初老ダンディーに渡して、呼吸を整えている。
やっぱり役には立たないのね。
そう言えば彼女はアンジの“ざまぁ返し”を攻略出来る技を持っているのよね。
まあ、私の無双の“ざまぁ”にはなんの意味も持たないけれども、ね!
「では、始めて!」
マアガレットの合図でリュドミアの表情が変わった。
私は様子見……リュドミアも“ざまぁ”を出さず、私の様子を伺っている。
いえ、どこか涼しげに私を見ている。
でもこの張り詰めた空間は……またお見合いの時間だ。
この時間こそ無駄なので、執事の初老ダンディーはもっとリュドミアを急かした方がよろしいのでは。
仕方ないなぁ。
初老ダンディーのために私から攻めて、早く宿に帰れるよう手配してあげましょう。
私は右手をリュドミアに向け、大声だが少し可憐みと色気を加えて“ざまぁ”を放った。
「ざまぁはぁぁん!」
見事、私の“ざまぁ”の波動はリュドミアに向かって一直線だ。
(決まった!)
リュドミアは相変わらず涼しげな顔で縦ロールの髪をかき上げた。
「爽やかな風だわ」
私の“ざまぁ”が爽やかな風と共に彼女を通り過ぎて行った……私を含め、姉妹全員もそう見えたに違いない。
リュドミアは何事もなく爽やかな風と戯れている。
「?」
なに、夢? これはただのケアレスミスだよね……駄目ならもう一撃出せばいいだけ。
「ざまぁ!」
私の“ざまぁ”は確実にリュドミアを捉えた。
「爽やかな風だわ」
リュドミアは相変わらず涼しげな顔で縦ロールの髪をかき上げた。
そして爽やかな風が彼女の髪を優しく撫でた。
(ざまぁが爽やかな風となって彼女を通り越して行った……)
私は連続二回の“ざまぁ”を使ってみた。
「ざまぁ! ざまぁ!」
今度は防げないはず!
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
リュドミアは二回爽やか表情で縦ロールの髪を二回かき上げた。
これがリュドミアの必殺技⁉︎
爽やか表情を崩さないリュドミアは笑みを浮かべた。
また連続掛け声をしてみた。
「ざまあ! ざまぁ! ざまぁ!」
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
再びリュドミアは爽やかな笑みを浮かべながら縦ロールの髪を三回かき上げた。
それと共に私のざまぁな爽やかな風が彼女の髪を優しく撫でながら通り過ぎていった。
「参ったかしら……フフッ。
この必殺の技“爽やか風だわ”はざまぁの心の力をほとんど使わないですから何度でも繰り出す事が出来るのよ。
どうかしら……負けを認めなさい。
今、敗北を認めればアナタのざまぁな姿を皆んなにさらさずに済むわよ」
なんてこったい!
アンジの“ざまぁ返し”はざまぁの心の力をたくさん使用しているせいか、だんだん身体の動きが悪くなっていった。
しかしリュドミアは相変わらずの澄まし顔だ。
彼女の爽やかな表情は、ざまぁの心の力をほとんど使わないからっていうの?
……ざまぁの心の力ってなに?
……なぜ、マアガレットはなんにも教えてくれない……
はっ! マアガレットは悪役令嬢だから私にイジワルしているのか?
私は悪役令嬢のマアガレットを含む餓鬼ども四人衆の方に目をやった。
「ユリ……」
マアガレットが心配そうに私を見ている……
「ユリお嬢様……」
カレンダが私が負けて倒れるのを見越してお布団を用意している……
「ユリお姉様……」
ああ、エルサは私の事が心配で紅茶を入れる手が止まっている……
「ユリお姉ちゃん……」
ああ、テルザは私のざまぁの映像が観れるとワクワクしている……
私が皆んなの顔色を伺ったので、皆んなに余計心配させたようだ……テルザを除いて。
さて、どうしましょう。
でも、出来る事は今までのように連発するしかないし……
私は仕方なく再び右手を上げて手のひらをリュドミアに向けて叫んだ。
「ざまぁ! ざまぁ! ざまぁ! ざまぁ!」
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
またもやリュドミアは涼しげな顔でざまぁな爽やかな風を受け流した。
「ユリ、大丈夫なの?」
見ているだけのマアガレットは心配しか出来ない。
心配なら代わってもらっても良いですか?
私はそう言いたくなったが、ぐっと堪えた。
私の無双のざまぁに勝てないマアガレットは、リュドミアには勝てないのだから……
「だいぶお疲れのようね……アナタのざまぁの心の力はまだ残っているかしら……フフッ」
確かに私は疲れている。
同じ言葉をずっと言い続けてるし、右手も上げっぱなしだし……もう飽きたし……
私の声帯は限界に達し、右腕の体力も失われ……なにより、ざまぁ対戦には興味がないですから……
しかし……うーん。
やっぱり私には“ざまぁ”を連発するしか能がないわ。
……そうだ!
私は右手を上げてリュドミアに向けた。
リュドミアも髪をかき上げる準備をした。
「ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ……」
「爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかなガセダワプシュ‼︎
噛んジッタァ~!」
リュドミアは私についてこれずに言葉を噛んだようだ。
縦ロールの髪をかき上げる動きもついてこれない。
私の早口言葉風、連続ざまぁ作戦が成功したわ‼︎
「ざまぁ!」
私はこの隙にとどめの“ざまぁ”を繰り出した。
リュドミアは口を押さえている。
どうやら言葉を噛んだだけではなく、舌も噛んだみたいで痛い表情でこちらを見た。
「ん~んん! んんん~ん!」
なにを言っているか分からないリュドミアは、私の“ざまぁ”を受け入れるしかない。
…………
…………
カラーン! カラーン! カラーン!
…………
さあ、リュドミア劇場の開演です。
ブラックアウトした周りが徐々に明るさを取り戻し、どこかの屋敷の中を映し出した。
部屋の中は黒い小物がたくさん飾られ、壁にも黒い装飾が備え付けられてあった。
「リュドミア、いい加減にしてくれないか!
屋敷の中が黒い物だらけになっているではないか!」
三十代くらいの男が黒い服を着ながら怒鳴り散らした。
部屋の中央には黒いテーブルに黒いテーブルクロス、そして黒いテーカップを持つ黒いドレスを着たリュドミアが黒いイスに座って黒服の男の罵声を聞き流していた。
「オレの友人たちは影でリュドミアのことをなんと呼んでいるか知っているのか!
皆んなオマエのこと魔女と、黒魔女と呼んでいるんだぞ!」
男は部屋中を怒鳴りつけながら回り続けている。
それでもリュドミアは涼しげな表情で紅茶をすすり続けた。
「結婚する前のオマエのあの白いドレス姿はどこに行ったんだ⁉︎」
“ガチャ!”
リュドミアは思わずティーカップをソーサーに音を立てて置いた。
「あんなモノ、ワタクシの趣味じゃございませんコトよ。
家族の者に無理矢理着せられたに決まっているではありませんか!」
「オレはあの純白で純真なオマエが良かったのに……オレを騙してやがって!」
「マッ! ワタクシは黒くても純真でしたのに……もういいですわ! 来なさい!」
“パンパン!”
リュドミアが手を鳴らすと部屋の外から楽器を持った楽団員がぞろぞろと入って来た。
「今日は……そうね……ドドスコスキーの『後奏曲、への一番』を聴かせて」
「かしこまりました」
こうべを垂れた指揮者らしき人物も楽団員全員、黒服だ。
さらに楽器まで黒く塗り潰されている。
しかも全員男性で黒髪で黒ヒゲを生やしている。
「こんな時に演奏だと!」
男はさらに怒りを露わにした。
「貴族ならどんな時でも優雅に過ごさなせればなりません」
なんだかリュドミアがかっこ良く見えた。
リュドミアの執事が恐る恐る催促した。
執事の初老ダンディーは、お歳を召しているので暗くなったら眠くなるのでしょう。
それでは馬車の居眠り運転で事故になりますから。
「夜の道はなにがあるか分かりませんですから……」
治安の方でしたか……まあ、居眠り運転は襲われやすいですから。
「分かったわ、ハンカチはどうでもいいでしょう。
さっそく始めましょう……ユリさん」
分かりました、執事の初老ダンディーのために早く終わらせて宿で安眠させてあげましょう。
「では、屋敷の中にお入りください。
室内の方が集中できますし……」
カレンダが屋敷に入る扉を開いた。
扉を開くと、そこには聞き耳を立てたテルザがビックリした表情で立っていた。
まあ、テルザらしい。
好奇心には敵わず、仕事をサボって来ていたようだ。
「いえ、ここがよろしいですわ。
それにちょうど今、爽やかな風が吹いていますし……」
リュドミアは縦ロールの髪をかき上げながら微笑んだ。
リュドミアの言う通り、涼しくて優しい爽やかな風が私の身体を包んでくれる。
……爽やかな風……
「うぃやぁぁぁー!」
私はあの忌まわしき豊穣祈願の村祭りのステージに立った時の、あの爽やかな風を思い出して恐怖で怯え出した。
ちょうど爽やかな風が吹いて、私のカンニングペーパーが旅立って行ったあの村祭り。
村人が暴動を起こし、お漏らししてしまったあのステージ。
もう村には行けなくなった原因の、ちょうど爽やかな風。
私は呼吸困難に陥りました。
これはフラッシュバックという症状ですね。
「ユリお姉様、大丈夫ですか⁉︎」
「ユリお姉ちゃん、大丈夫⁉︎」
ヤッセーノ姉妹が私を支えに抱き寄ってくれた。
「たたたたたん! 大丈夫です……」
心から心配している眼差しのエルサとテルザが私を励ましてくれている。
ああ、二人の温もりが嬉しい……
私は大きく深呼吸をした……空気の窒素と酸素に混ざって二人の匂いがした。
なんて暖かい匂いなんでしょう……
私には二人の愛が見えます。
二人の愛でなんとか自分を取り戻す事が出来た。
「なんなんですの? さっきから……意味が分かりませんのよ! まったく」
リュドミアにとっては、無駄な時間がどんどん増えて行く。
「ユリ、大丈夫?」
マアガレットが心配して声をかけてくれた。
「ユリお嬢様、これを羽織ってください」
そう言ってカレンダは夏用のカーディガンを掛けてくれた。
「ありあとうー!」
ああっ、皆んなの愛が嬉しい……この恩を返してあげたい……でもそれを聞いたら皆んなはきっと私の身体を求めるでしょう……そして求めに応じたら私にとって倍返し以上のお返しで、大損だ。
「アナタのその情緒不安定な態度、相当ざまぁな目に合っているでしょ。
それほどの負の力を溜めていたなら、アンジ様の“ざまぁ返し”に勝てたのも納得がいくわ」
そんな事を言われる筋合いはない。
「ほーほほっ、ゴスロリバツイチ年増女には敵いませんことよ」
「ナッ! 口を開いたと思ったら、なんてコトを言う小娘でしょう!」
リュドミアは顔のシワが今後も残るレベルの怒り顔で私を睨みつけた。
「あの~、リュドミアお嬢様、お時間が……」
執事の初老ダンディーが時間を気になって気になってしょうがないようだ。
もう眠たい時間だと。
「クゥ~! 早く初めの合図を取りなさい、マアガレットさん!」
リュドミアに催促されたマアガレットは私に確認を取った。
「ユリ、戦えるわよね」
「オフコース!」
私たちはテーブルから少し離れた芝生の上で対峙した。
リュドミアは役に立たない小さな帽子と小さなアンブレラを執事の初老ダンディーに渡して、呼吸を整えている。
やっぱり役には立たないのね。
そう言えば彼女はアンジの“ざまぁ返し”を攻略出来る技を持っているのよね。
まあ、私の無双の“ざまぁ”にはなんの意味も持たないけれども、ね!
「では、始めて!」
マアガレットの合図でリュドミアの表情が変わった。
私は様子見……リュドミアも“ざまぁ”を出さず、私の様子を伺っている。
いえ、どこか涼しげに私を見ている。
でもこの張り詰めた空間は……またお見合いの時間だ。
この時間こそ無駄なので、執事の初老ダンディーはもっとリュドミアを急かした方がよろしいのでは。
仕方ないなぁ。
初老ダンディーのために私から攻めて、早く宿に帰れるよう手配してあげましょう。
私は右手をリュドミアに向け、大声だが少し可憐みと色気を加えて“ざまぁ”を放った。
「ざまぁはぁぁん!」
見事、私の“ざまぁ”の波動はリュドミアに向かって一直線だ。
(決まった!)
リュドミアは相変わらず涼しげな顔で縦ロールの髪をかき上げた。
「爽やかな風だわ」
私の“ざまぁ”が爽やかな風と共に彼女を通り過ぎて行った……私を含め、姉妹全員もそう見えたに違いない。
リュドミアは何事もなく爽やかな風と戯れている。
「?」
なに、夢? これはただのケアレスミスだよね……駄目ならもう一撃出せばいいだけ。
「ざまぁ!」
私の“ざまぁ”は確実にリュドミアを捉えた。
「爽やかな風だわ」
リュドミアは相変わらず涼しげな顔で縦ロールの髪をかき上げた。
そして爽やかな風が彼女の髪を優しく撫でた。
(ざまぁが爽やかな風となって彼女を通り越して行った……)
私は連続二回の“ざまぁ”を使ってみた。
「ざまぁ! ざまぁ!」
今度は防げないはず!
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
リュドミアは二回爽やか表情で縦ロールの髪を二回かき上げた。
これがリュドミアの必殺技⁉︎
爽やか表情を崩さないリュドミアは笑みを浮かべた。
また連続掛け声をしてみた。
「ざまあ! ざまぁ! ざまぁ!」
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
再びリュドミアは爽やかな笑みを浮かべながら縦ロールの髪を三回かき上げた。
それと共に私のざまぁな爽やかな風が彼女の髪を優しく撫でながら通り過ぎていった。
「参ったかしら……フフッ。
この必殺の技“爽やか風だわ”はざまぁの心の力をほとんど使わないですから何度でも繰り出す事が出来るのよ。
どうかしら……負けを認めなさい。
今、敗北を認めればアナタのざまぁな姿を皆んなにさらさずに済むわよ」
なんてこったい!
アンジの“ざまぁ返し”はざまぁの心の力をたくさん使用しているせいか、だんだん身体の動きが悪くなっていった。
しかしリュドミアは相変わらずの澄まし顔だ。
彼女の爽やかな表情は、ざまぁの心の力をほとんど使わないからっていうの?
……ざまぁの心の力ってなに?
……なぜ、マアガレットはなんにも教えてくれない……
はっ! マアガレットは悪役令嬢だから私にイジワルしているのか?
私は悪役令嬢のマアガレットを含む餓鬼ども四人衆の方に目をやった。
「ユリ……」
マアガレットが心配そうに私を見ている……
「ユリお嬢様……」
カレンダが私が負けて倒れるのを見越してお布団を用意している……
「ユリお姉様……」
ああ、エルサは私の事が心配で紅茶を入れる手が止まっている……
「ユリお姉ちゃん……」
ああ、テルザは私のざまぁの映像が観れるとワクワクしている……
私が皆んなの顔色を伺ったので、皆んなに余計心配させたようだ……テルザを除いて。
さて、どうしましょう。
でも、出来る事は今までのように連発するしかないし……
私は仕方なく再び右手を上げて手のひらをリュドミアに向けて叫んだ。
「ざまぁ! ざまぁ! ざまぁ! ざまぁ!」
「爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ、爽やかな風だわ」
またもやリュドミアは涼しげな顔でざまぁな爽やかな風を受け流した。
「ユリ、大丈夫なの?」
見ているだけのマアガレットは心配しか出来ない。
心配なら代わってもらっても良いですか?
私はそう言いたくなったが、ぐっと堪えた。
私の無双のざまぁに勝てないマアガレットは、リュドミアには勝てないのだから……
「だいぶお疲れのようね……アナタのざまぁの心の力はまだ残っているかしら……フフッ」
確かに私は疲れている。
同じ言葉をずっと言い続けてるし、右手も上げっぱなしだし……もう飽きたし……
私の声帯は限界に達し、右腕の体力も失われ……なにより、ざまぁ対戦には興味がないですから……
しかし……うーん。
やっぱり私には“ざまぁ”を連発するしか能がないわ。
……そうだ!
私は右手を上げてリュドミアに向けた。
リュドミアも髪をかき上げる準備をした。
「ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ……」
「爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかな風だわ爽やかなガセダワプシュ‼︎
噛んジッタァ~!」
リュドミアは私についてこれずに言葉を噛んだようだ。
縦ロールの髪をかき上げる動きもついてこれない。
私の早口言葉風、連続ざまぁ作戦が成功したわ‼︎
「ざまぁ!」
私はこの隙にとどめの“ざまぁ”を繰り出した。
リュドミアは口を押さえている。
どうやら言葉を噛んだだけではなく、舌も噛んだみたいで痛い表情でこちらを見た。
「ん~んん! んんん~ん!」
なにを言っているか分からないリュドミアは、私の“ざまぁ”を受け入れるしかない。
…………
…………
カラーン! カラーン! カラーン!
…………
さあ、リュドミア劇場の開演です。
ブラックアウトした周りが徐々に明るさを取り戻し、どこかの屋敷の中を映し出した。
部屋の中は黒い小物がたくさん飾られ、壁にも黒い装飾が備え付けられてあった。
「リュドミア、いい加減にしてくれないか!
屋敷の中が黒い物だらけになっているではないか!」
三十代くらいの男が黒い服を着ながら怒鳴り散らした。
部屋の中央には黒いテーブルに黒いテーブルクロス、そして黒いテーカップを持つ黒いドレスを着たリュドミアが黒いイスに座って黒服の男の罵声を聞き流していた。
「オレの友人たちは影でリュドミアのことをなんと呼んでいるか知っているのか!
皆んなオマエのこと魔女と、黒魔女と呼んでいるんだぞ!」
男は部屋中を怒鳴りつけながら回り続けている。
それでもリュドミアは涼しげな表情で紅茶をすすり続けた。
「結婚する前のオマエのあの白いドレス姿はどこに行ったんだ⁉︎」
“ガチャ!”
リュドミアは思わずティーカップをソーサーに音を立てて置いた。
「あんなモノ、ワタクシの趣味じゃございませんコトよ。
家族の者に無理矢理着せられたに決まっているではありませんか!」
「オレはあの純白で純真なオマエが良かったのに……オレを騙してやがって!」
「マッ! ワタクシは黒くても純真でしたのに……もういいですわ! 来なさい!」
“パンパン!”
リュドミアが手を鳴らすと部屋の外から楽器を持った楽団員がぞろぞろと入って来た。
「今日は……そうね……ドドスコスキーの『後奏曲、への一番』を聴かせて」
「かしこまりました」
こうべを垂れた指揮者らしき人物も楽団員全員、黒服だ。
さらに楽器まで黒く塗り潰されている。
しかも全員男性で黒髪で黒ヒゲを生やしている。
「こんな時に演奏だと!」
男はさらに怒りを露わにした。
「貴族ならどんな時でも優雅に過ごさなせればなりません」
なんだかリュドミアがかっこ良く見えた。
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!
忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。
生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。
やがてリオは、
一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。
しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる