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「逃がすな! 陣形を崩さないように注意しろ! 陣形が崩れれば逃げられるぞ! 俺とアロンがロゼとネオの相手をする! 他の者はアリアナの捕縛に当たれ! サーシャ、狙撃位置につけ!」
 ナティアがすかさず命令を下すと、崩れそうになっていた陣形はすぐに持ち直し、ロゼとネオの前に堅固な人の壁が連なった。そして背後から強烈な殺気を感じ、二人は同時に自らに振りかかってきた刃を受け止めた。
「さすがに、攻撃は当たらないか」
「当たり前よ。後ろから斬りかかるなんて、最低ね。作戦変更! ソヴァン、狙撃手撃破を頼むわ! テト、一人でもアリアナを守れるわね!」
「はい」
「もちろんです!」
 テトはニッと笑って剣を握り直し、ソヴァンは前線から引いて高所を取ろうとしているサーシャを追いかけた。
「良かったのか? あいつ一人で行かせて。サーシャはああ見えて強いぞ」
「えぇ、ソヴァンは過去、陸で起きた戦争の激戦地区を単独で切り抜けていた実績があるから私は心配していないわ。むしろ、サーシャが可哀想ね」
「そいつはサーシャには荷が重いな。ま、それよりも早く俺達がロゼを捕まえればいい話だが」
 ナティアはそう言うやロゼに向かって剣を振り下ろし、ロゼもまた、それをかわした瞬間にナティアの首に向かって剣を振っていた。ロゼもナティアも双方一歩も引かない激戦を繰り広げ始め、周囲にいる海兵たちはその隙のない打ち合いにただ固唾を飲んで見守る事しか出来なかった。
 一方、ネオとアロンも激しい打ち合いをしており、アロンは明らかな嫉妬をネオにぶつけながら戦っていた。
「俺、ネオさんが羨ましいです。ロゼちゃんの愛を一身に受けることが出来て。俺だってロゼちゃんの事が好きなのに、ロゼちゃんは俺の事を一切見てくれない」
「じゃあ、なんであの時に俺達と一緒に来なかった。ロゼを愛しているなら一緒に来ればよかっただろう」
「…俺達は、君達と違ってこの軍服を着て職務に励むことに誇りを持っているんだ。たとえ、組織の中で理不尽な思いをしようと、それを恨んで賊に落ちることはない。俺は俺の信じる正義を貫き通すと決めている。それに…信じている兄妹を裏切るわけにいかないから」
 辛そうに表情を歪めながら笑うアロンだが、ネオはそんなアロンに冷たい眼差しを向けて「そんな中途半端な気持ちじゃ、ロゼは振り向かねぇよ」とアロンの腹に鋭い蹴りを放った。アロンは間一髪で腹への直撃は避けたが、強烈な蹴りに吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。そして体勢を整える暇もなくネオがアロンの首に剣を突きつけた。
「海軍をやめることも、好きな女を追いかける覚悟もねぇ奴に、俺のロゼを奪わせるわけねぇだろ。身の程をわきまえてさっさと諦めろ」
「くッ…俺は海軍で働き続ける覚悟を決めたんだよ。確かに俺は海軍に残る決意をした。でもそれは、もしロゼちゃんが海賊をやめて戻ってきたいと思った時にロゼちゃんの居場所を作るためでもあった。…ロゼちゃんなら、すぐに海賊なんて馬鹿らしいと思い直して帰ってきてくれると思ったんだ」
「海軍に残った理由をロゼのせいにするんじゃねぇよ。それ以上戯言をほざくようなら、このまま喉を搔き切るぞ」
 怒りをあらわにしたネオは、アロンの喉に突きつけている剣に力が入り、アロンの首に少し傷をつけた。そこからツーっと血が流れる。それでもアロンは怯むことなく真っすぐにネオを見据えていた。
「殺したければ、殺せばいい。でも、後ろも気にした方がいいんじゃない?」
 アロンの口元が三日月型に歪むとその直後に銃声が聞こえ、反応が遅れたネオの腕に銃弾が埋め込まれた。
「グッ…!」
「少佐を助けろ! かかれー!」
 ネオに銃口を向けていた海兵が号令をかけると、海兵たちは一斉にネオに向かって斬りかかってきた。ネオは舌打ちをするとアロンから離れて海兵たちとの交戦を始めた。

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