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翌日の早朝、アリアナはもぞもぞと両側で動く気配に意識が引っ張られてうっすらを目を開けると、ティタとティオンがそれぞれ起床して身支度を整えている最中だった。
「……もう、朝?」
「あ、起こしちゃった? ごめんね。まだ寝ててもいいよ、俺達は朝ごはんを作りに行くだけだから」
「あぁ、まだ朝日も昇ってないから、寝てて」
それぞれそう言うと、アリアナの両頬にチュッとキスをしてさっさと身支度を整え終えると部屋を出て行った。アリアナはそのまま言葉に甘えて寝ようと思ったが、両側にあったはずの熱が無くなってしまうと寝付くことが出来ず、仕方なく双子の部屋を出て自分の部屋に戻ると服を着替えてから食堂へ行った。
食堂内はまだ暗いが、厨房の方は明かりがついており、アリアナは厨房の方へ顔を出した。
「おはようございます」
「寝てて良かったのに、来たか」
「はい。寝られなくなっちゃって……」
困ったように笑いながらも、アリアナを厨房の方へ入れるティタに、ティオンも野菜を切りながら嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、アリアナちゃんも一緒に料理しよ~♪ あ、料理作ったことある?」
「いえ、いつも料理は家に仕えてくれていたメイドが作ってくれていたので、私は作った事なくて」
「じゃあ、俺と一緒に野菜を切ってみよっか。俺のペティナイフを貸してあげるよ」
はい、と年季の入った小さな包丁をアリアナに手渡し、おずおずと受け取るアリアナは見よう見まねで包丁を握った。
「うんうん、持ち方はそれでいいよ。あ、刃には絶対に触らないでね。古いけどちゃんと手入れはしてあるからすごく切れ味いいよ。という事で、ジャガイモをこれくらいの大きさに切ってくれる?」
ティオンは言いながら見本として一つ切って見せ、アリアナは流れるように包丁を動かすティオンの手際に感動しながら、自分も切ってみようとあらかじめ皮が剥かれているジャガイモを一つ手に取るとまな板の上に置いて、グッと包丁に力を入れた。
ズダンッ!
「うわっ、危な! ちょ、アリアナちゃんストップ。えっとね、包丁は上から力を加えるんじゃなくて、刃を後ろに引いて前へ押すように切るんだよ。あと、怖いと思うけど食材はちゃんと反対の手で押さえてね。で、押さえる手は猫の手だよ。指を出してると怪我をしちゃうかもしれないからね」
「は、はい……」
アリアナの後ろに回り、アリアナの手の上から自分の手を重ねてアリアナの手を動かしながら実際に切って見せると、アリアナは背中から伝わる真剣な気配に緊張しながらも、手に伝わる食材を切る感触がさっきと違う事に気付いてこんなに違うものなのかと驚いた。
「今度はちゃんとできるね?」
「やってみます」
アリアナは次のジャガイモを手に取り、しっかりとジャガイモを押さえるとゆっくりと包丁を入れた。時間は少しかかるが今度はきちんと不安なく綺麗に切れ、ちゃんと切れた事が嬉しくてアリアナはパッと表情を明るくした。
「ティオンさん、できました!」
「うん、上手だね。じゃあ、その調子で一緒にこの大量のジャガイモを攻略しよう!」
「はい! あの、このジャガイモは何になる予定なんですか?」
「ジャーマンポテトと、スープの具になる予定。ティオン、ペースを上げないと間に合わないよ。でも、アリアナはゆっくりでいいから。怪我しないようにだけ気をつけて」
アリアナの問いにティタが答え、ティオンを小突きながらドンッと香料付の肉の塊を作業台に置いた。
「分かってるよ。これからスピードを上げるんです~」
憎たらしい口調で返しながら、トントンと心地の良い包丁の音を立てながら次々とジャガイモの山を小さくしていった。それを横目にティタも肉の塊を牛刀で手際よく肉を切り分けていた。
「簡単そうに切ってる……」
「アリアナ、手元をちゃんと見ないと危ない」
「ごめんなさい…」
注意をされて少しシュンとしながら謝ると、ティタはくすっと笑いながら「小さい頃の俺達を見てるみたい」と呟いた。
「あ、分かる。よくシスターに手元をよく見てって注意されたよね~」
「シスター? 教会によく行っていたんですか?」
「あー、違う違う。まあ教会でもあったけど……俺達ね、幼少時代は孤児院にいたんだよ。で、俺達に料理の基礎を教えてくれたシスターがいて、そのシスターによく注意されていたって話~」
手を止めることなく明るい口調で何てことないように言うティオンに、アリアナはまた驚いたように目を見開いた。
「二人とも孤児だったんですか?」
「そ。孤児は嫌だ?」
ティタがどこか皮肉っぽくアリアナに問いかけると、アリアナはなぜそんな質問がされたのか、質問の意図が分からず首を傾げた。
「いえ、別に何とも思いませんけど。どうしてそう思うんですか?」
「俺達の国ではね、孤児は犯罪を起こす問題児が多い国だったから嫌われてたんだよね。まあ、義父と義母とレストランの皆は気にしていなかったけど。ほら、アリアナは貴族だったんでしょ? だから孤児は嫌いかなって」
「そうだったんですね。でも、私は特に何とも思いませんよ。確かに、私の国でも孤児が犯罪に手を染めることは多かったで怖いなって思いますが、私はティタさんとティオンさんが孤児だと知ってもなんとも思いません。だって、目の前にいる人は美味しい料理を作ってくれる優しい人たちですから」
笑顔で語られたアリアナの言葉に二人は動かしていた手を止めると、同時にアリアナを抱き締めた。
「めっちゃいい子!」
「ありがとう」
「急にどうしたんですか!?」
「やっぱり、アリアナちゃんが欲しい~!」
「俺達の嫁にならない?」
「えぇ~!?」
本気なのか冗談なのか分からない口調で言った後すぐに作業に戻るため、アリアナは二人の本心に触れることが出来ず困惑するが、作業に戻ればすぐにそんな雑念は消えて三人で作った朝食は次々と完成していくのだった。
「……もう、朝?」
「あ、起こしちゃった? ごめんね。まだ寝ててもいいよ、俺達は朝ごはんを作りに行くだけだから」
「あぁ、まだ朝日も昇ってないから、寝てて」
それぞれそう言うと、アリアナの両頬にチュッとキスをしてさっさと身支度を整え終えると部屋を出て行った。アリアナはそのまま言葉に甘えて寝ようと思ったが、両側にあったはずの熱が無くなってしまうと寝付くことが出来ず、仕方なく双子の部屋を出て自分の部屋に戻ると服を着替えてから食堂へ行った。
食堂内はまだ暗いが、厨房の方は明かりがついており、アリアナは厨房の方へ顔を出した。
「おはようございます」
「寝てて良かったのに、来たか」
「はい。寝られなくなっちゃって……」
困ったように笑いながらも、アリアナを厨房の方へ入れるティタに、ティオンも野菜を切りながら嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、アリアナちゃんも一緒に料理しよ~♪ あ、料理作ったことある?」
「いえ、いつも料理は家に仕えてくれていたメイドが作ってくれていたので、私は作った事なくて」
「じゃあ、俺と一緒に野菜を切ってみよっか。俺のペティナイフを貸してあげるよ」
はい、と年季の入った小さな包丁をアリアナに手渡し、おずおずと受け取るアリアナは見よう見まねで包丁を握った。
「うんうん、持ち方はそれでいいよ。あ、刃には絶対に触らないでね。古いけどちゃんと手入れはしてあるからすごく切れ味いいよ。という事で、ジャガイモをこれくらいの大きさに切ってくれる?」
ティオンは言いながら見本として一つ切って見せ、アリアナは流れるように包丁を動かすティオンの手際に感動しながら、自分も切ってみようとあらかじめ皮が剥かれているジャガイモを一つ手に取るとまな板の上に置いて、グッと包丁に力を入れた。
ズダンッ!
「うわっ、危な! ちょ、アリアナちゃんストップ。えっとね、包丁は上から力を加えるんじゃなくて、刃を後ろに引いて前へ押すように切るんだよ。あと、怖いと思うけど食材はちゃんと反対の手で押さえてね。で、押さえる手は猫の手だよ。指を出してると怪我をしちゃうかもしれないからね」
「は、はい……」
アリアナの後ろに回り、アリアナの手の上から自分の手を重ねてアリアナの手を動かしながら実際に切って見せると、アリアナは背中から伝わる真剣な気配に緊張しながらも、手に伝わる食材を切る感触がさっきと違う事に気付いてこんなに違うものなのかと驚いた。
「今度はちゃんとできるね?」
「やってみます」
アリアナは次のジャガイモを手に取り、しっかりとジャガイモを押さえるとゆっくりと包丁を入れた。時間は少しかかるが今度はきちんと不安なく綺麗に切れ、ちゃんと切れた事が嬉しくてアリアナはパッと表情を明るくした。
「ティオンさん、できました!」
「うん、上手だね。じゃあ、その調子で一緒にこの大量のジャガイモを攻略しよう!」
「はい! あの、このジャガイモは何になる予定なんですか?」
「ジャーマンポテトと、スープの具になる予定。ティオン、ペースを上げないと間に合わないよ。でも、アリアナはゆっくりでいいから。怪我しないようにだけ気をつけて」
アリアナの問いにティタが答え、ティオンを小突きながらドンッと香料付の肉の塊を作業台に置いた。
「分かってるよ。これからスピードを上げるんです~」
憎たらしい口調で返しながら、トントンと心地の良い包丁の音を立てながら次々とジャガイモの山を小さくしていった。それを横目にティタも肉の塊を牛刀で手際よく肉を切り分けていた。
「簡単そうに切ってる……」
「アリアナ、手元をちゃんと見ないと危ない」
「ごめんなさい…」
注意をされて少しシュンとしながら謝ると、ティタはくすっと笑いながら「小さい頃の俺達を見てるみたい」と呟いた。
「あ、分かる。よくシスターに手元をよく見てって注意されたよね~」
「シスター? 教会によく行っていたんですか?」
「あー、違う違う。まあ教会でもあったけど……俺達ね、幼少時代は孤児院にいたんだよ。で、俺達に料理の基礎を教えてくれたシスターがいて、そのシスターによく注意されていたって話~」
手を止めることなく明るい口調で何てことないように言うティオンに、アリアナはまた驚いたように目を見開いた。
「二人とも孤児だったんですか?」
「そ。孤児は嫌だ?」
ティタがどこか皮肉っぽくアリアナに問いかけると、アリアナはなぜそんな質問がされたのか、質問の意図が分からず首を傾げた。
「いえ、別に何とも思いませんけど。どうしてそう思うんですか?」
「俺達の国ではね、孤児は犯罪を起こす問題児が多い国だったから嫌われてたんだよね。まあ、義父と義母とレストランの皆は気にしていなかったけど。ほら、アリアナは貴族だったんでしょ? だから孤児は嫌いかなって」
「そうだったんですね。でも、私は特に何とも思いませんよ。確かに、私の国でも孤児が犯罪に手を染めることは多かったで怖いなって思いますが、私はティタさんとティオンさんが孤児だと知ってもなんとも思いません。だって、目の前にいる人は美味しい料理を作ってくれる優しい人たちですから」
笑顔で語られたアリアナの言葉に二人は動かしていた手を止めると、同時にアリアナを抱き締めた。
「めっちゃいい子!」
「ありがとう」
「急にどうしたんですか!?」
「やっぱり、アリアナちゃんが欲しい~!」
「俺達の嫁にならない?」
「えぇ~!?」
本気なのか冗談なのか分からない口調で言った後すぐに作業に戻るため、アリアナは二人の本心に触れることが出来ず困惑するが、作業に戻ればすぐにそんな雑念は消えて三人で作った朝食は次々と完成していくのだった。
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