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 そうしてナティアの介助をしながら船は海軍基地へ向けて航行を続け、あと一日で海軍基地へ着く所までやってきていた。その頃になるとロゼが招集をかけた海賊が50ほど集まり、毎夜のように士気を上げるための宴が開かれるようになっていた。
「まずは、私の招集に応えてくれてありがとう」
 ロゼの部屋で50人の船長達に礼を言うと、海賊団の船長達はそろって「ロゼ様のためなら」とロゼへの心酔と忠義を示した。
「いよいよ明日、海軍基地へ攻め入るわ。まず、先鋒を務めてもらうのはウチのジャンを乗せたゲルニカ海賊団とヴェルディ海賊団よ。砲弾の雨が降るでしょうが、この二つの船は小回りが利く上に両海賊団とも航海士が優秀。必ず突破しなさい」
「はい」
「かしこまりました」
「次に――」
 ロゼは次々と海賊団の船長達に指示を出していき、全ての海賊団の船長に指示を出し、作戦を伝える頃にはどっぷりと夜が更けて宴も静かになっていた。
 そんな真夜中、一人眠れない人影があった。
「……あれ、アリアナちゃん? どうしたの?」
 アルタイル号の甲板に座って空を見上げるアリアナの姿を見つけたのは、夜の見回りをしていたテトだった。
「あ、テトさん。見回りですか? ご苦労様です」
「うん、ありがとう。で、アリアナちゃんはどうしたの? 寝ないと明日一日持たないよ?」
「それが……明日が戦いの日だと思うと眠れなくて……」
 困ったように笑うアリアナに、テトは笑顔で「そうだったんだ」とアリアナの隣に座った。
「実はね、僕もこんなに大きな戦いは初めてなんだ。いつもは海軍との小競り合い程度だったんだけど、基地に行って戦うなんて事はした事ないんだ。だから、全く不安が無い訳じゃないんだよね」
「そうなんですか? その割に落ち着いていますね」
「うん。だって船長に付いて行けば絶対に勝てるからね。僕は船長を信じてるんだ」
 真っすぐな声でロゼへの全幅の信頼を話すテトに、アリアナはロゼがそれほどまでにすごい人なのかと改めて信頼の厚さを垣間見た様な気持ちになった。
「アリアナちゃんは、船長を信じていないの?」
「ロゼさんの事…信じてます。けど、やっぱり戦いは、人が死ぬのは怖いんです」
「そっか。じゃあ約束するよ。僕は明日、死なないし誰も殺さないように戦う。アリアナちゃんが怖いと思う戦いは避けられないけど、人が死ぬという所は、僕の努力できる範囲で減らしてあげるよ。ま、僕も人を殺すのは正直嫌だし、ちょうどいいね」
 明るく笑ってアリアナの頭を撫でるテトにアリアナも少しだけ不安が薄れて少しだけ笑えるようになった。
「テトさん、ありがとうございます」
「うん、どういたしまして。さ、部屋まで送るから今日はもう寝た方がいいよ」
 スクッと立ち上がり手を差し伸べるテトに、アリアナはテトの手を借りて立ち上がり、改めて礼を言う。テトはその礼を笑顔で受け取り、手を繋いだままアリアナを部屋までエスコートした。そして部屋に着くとテトは名残惜しそうに苦笑をした。
「……あーあ、着いちゃった。ちょっと名残惜しいかな」
「送ってくれてありがとうございます。テトさんのおかげでちょっとだけ気持ちが晴れました」
「これくらい何てことないよ。……ねえ、抱きしめても、いい? 僕、さっきは船長を信じてるからって気丈に言ったけどやっぱり怖くて……。ほら、ね」
 テトはそう言うとランタンを持つ手を示して見せる。確かに光は小さく揺れており、緊張が伝わってきた。アリアナはそれを見て自分と同じ気持ちの人がいるのだとちょっと安心し、さっき元気づけてもらったお返しが出来ればと両腕を広げた。
「はい、良いですよ」
「!! ありがとう!」
 テトは断られるのではないかと思っていた為、まさか受け入れてくれるとは思っておらず、ランタンを床に置くと喜びのままにテトはアリアナを抱き締めた。そんなテトを、アリアナはおずおずと抱きしめ返し、聞こえるテトの心音に耳を澄ませた。
「僕、絶対に生きて帰ってくるから。そうしたらまたこうして抱き締めたいな。……いいかな?」
「はい、生きて帰ってきたら、アルタイル海賊団のみんなにハグをします。だから、帰って来てくださいね」
「ハハッ、僕だけじゃない所がアリアナらしいね。でも、ありがとう。アリアナからのハグが待ってるなら絶対に死ねない。頑張るよ」
 ゆっくりとアリアナから離れるテトに、アリアナも同じようにゆっくりと離れ、ちょっと気恥しそうにうつむいた。
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
 気恥ずかしい空気のままちょっとぎこちない挨拶をかわすと、テトは最後にアリアナの頬にキスをした。
「へへっ、皆してるから僕もしちゃった。じゃ、おやすみ!」
 そしてテレを隠すように早口にまくしたてると、来た道を戻って見回りの続きをし始めた。アリアナは突然の事に驚きながらも、テトからの可愛らしいキスが思ったよりも嬉しく、思わず笑顔になって部屋に入った。そしてその気持ちのままベッドにもぐり、眠りについたのだった。

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