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第1章 本章
第24話 異世界六日目・後編
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リンが冒険者ギルドからギルドカードを受け取ったので、私たちはそのままシティリアの家まで移動を開始する。
道中、リンがお城の兵士と冒険者とで兼業する事になったことについて、私のために済まないと謝ったら、「これも自分で決めた事だから、ライチャスネスが謝ることではないよ」とフォローしてくれた。
シティリアとリンは冒険者仲間なだけあって、二人の会話に淀みはない。シティリアの家までの足取りに迷いがないことから、リンもシティリアの家は当然知っているのだろう。私は案内される側なので後ろからついて行く形をとっている。
意外と場所は遠くなかった。街の一角の集合住宅のようだ。他にも冒険者稼業の人が住んでいるらしい。
ここは冒険者ギルドからの依頼を受けやすいように借りている仮宿だそうで、本宅は郊外だと説明してくれた。部屋の中に案内され、落ち着けるようにテーブルの前のイスに着席した所でシティリアが話を進める。
「今日はお話をするためにこの場所を選んだけど、私がライチャスネスに語学を教える事について、正確には文字の読み書きかしら? それを教えるのは私の本宅になるわ」
ふむふむ。
「なるほど。了解しました」
リンが挙手をして発言をする。
「でー。シッチー。貴女の仕事のお手伝いって、具体的に何をやればいいの?」
「そうね。とりあえず、次に私が出発する予定の『冒険者ギルドからの依頼』を手伝って欲しいの」
「ギルドからの? 一般的な依頼とは別に?」
「ええ。実はね。情報の発信元は、隣の山を越えた町からの依頼なんだけど、“魔物の群れが発生した”という連絡が、王都の冒険者ギルドまで“伝書バトで届いた”のよ。でね。ギルドが討伐戦を計画しているそうで『手練れとなる冒険者』に応援要請を出しているの」
リンが神妙な顔になる。
「え。それいつの話? 初耳なんだけど」
「今日の今日よ。それで、私も冒険者ギルドに呼び出しをくらってね。応援に行けそうな冒険者をギルドマスターのソレイドが選別してる最中らしいわ。ま、この流れだと順番にあなたにも声が掛かると思って間違いないわね」
「ソレイドが言ってた“また後で会う事になるだろう”ってこの事か…。つまり、ギルドからの直接依頼だから報酬も高いだろうと踏んで、依頼の達成率を上げるために、偶然にも冒険者ギルドにいた私に声を掛けた……と」
「そして、ライチャスネスさん。あなたのためでもあるわね」
うん? どういう事だろう。
「私…ですか?」
「順を追って説明しましょう。先ず、私が貴方に語学を教えるという事は、私が普段の生活で冒険者として生活費を稼ぐ時間を、貴方に提供するということになります」
「はい。理解しています」
「子供のころからこの国にいるならばまだしも、いちから語学を学ぶというのは一朝一夕で出来るものではありません。つまり、時間がかかるという事です。ま、こうやってお話しするだけならば、貴方のように首から魔道具をかけておけばそれで済む話ですけどね」
!
「気づいておられたんですね」
「魔道具には魔力が流れますから、魔導士たるもの。知覚で感知するのは、そう難しい事ではありません」
そうなのか。魔力…。私にも魔力があるのか?
「質問です。私は魔法を使えないのですが、なぜ魔力が流れるのですか?」
「あなたの生命エネルギーを変換しているのです。量としては微々たるものなので、その魔道具は安全と言われているわ。それゆえに高級品でもあるのは、ご存じかしら?」
「身をもって体験しております」
「あら? そう。ウフフ」
リンがテーブルに肘をついてあきれ顔で話す。
「ちなみに、シッチーみたいな優秀でお金に目ざとい魔法使いはそうそういないけどね。さっき言った魔力を知覚することができる優秀な魔法使いがこの王都に何人いることやら」
「お褒めの言葉として受け取っておくわ。フフ。さて、話が反れたわ。先ほど『手練れとなる冒険者の応援要請』が来たと言ったわね。つまり、これにリンは該当するけれども、貴方は該当していない」
「ええ。それは分かります」
「けど、貴方は語学を学びたい。語学を教えられる者は、実は結構いる。しかし、教えるのに時間はかかる。その分、生活費を稼ぐ時間も減る」
私は挙手をして発言をする。
「そして、その『魔物の群れの討伐』に私も加わることができれば、成功報酬をシティリアさんへの授業料として提供できる。が、私は参加する事ができない」
シティリアは肯定するように頷く。
「そう。そこで、リンと私の推薦があれば。付き添いという形で貴方を『魔物の群れの討伐』に参加させられると私は考えた」
リンも状況を理解してきた顔をしている。
「シッチーは、次の依頼をこなすために『優秀な冒険者が必要』で私に手伝って欲しい。私とシッチーが推薦すればライチャスネスも『ギルドからの依頼』に参加できる。そしてシッチーへの語学の授業料も支払いの足しになる可能性が高い。と……」
シティリアは笑顔で答える。
「ご名答~♪ 補足するならば、私だけの推薦でもライチャスネスさんが『ギルドからの依頼』に参加できる可能性は低い。私は貴方の事を知らないからね。しかし“冒険者として優秀なリンが連れてきた”となれば、新人の貴方でも参加できる確率を上げる事ができる。ということね」
全て納得がいった。そろそろお城に戻るか。お城の人たちに報告しないといけないしな。
「シティリアさん。お話は分かりました。私は、実はお城に住まわせてもらっておりまして…。報告も兼ねて、戻ることにします」
シティリアさんは笑顔で答える。
「ええ。リンが一緒にいる時点で、お城の関係者だと予想はついていたわ。語学を教えることになったら、私の本宅に住み込みになるかもだけれど、その辺もお偉いさん方に説明しておいてくれると助かるわ」
「分かりました。では、今日はこの辺で失礼します」
「ふう。そうね、お暇するわ。シッチー。またね」
私とリンはお城へ戻ることにした。
道中、リンがお城の兵士と冒険者とで兼業する事になったことについて、私のために済まないと謝ったら、「これも自分で決めた事だから、ライチャスネスが謝ることではないよ」とフォローしてくれた。
シティリアとリンは冒険者仲間なだけあって、二人の会話に淀みはない。シティリアの家までの足取りに迷いがないことから、リンもシティリアの家は当然知っているのだろう。私は案内される側なので後ろからついて行く形をとっている。
意外と場所は遠くなかった。街の一角の集合住宅のようだ。他にも冒険者稼業の人が住んでいるらしい。
ここは冒険者ギルドからの依頼を受けやすいように借りている仮宿だそうで、本宅は郊外だと説明してくれた。部屋の中に案内され、落ち着けるようにテーブルの前のイスに着席した所でシティリアが話を進める。
「今日はお話をするためにこの場所を選んだけど、私がライチャスネスに語学を教える事について、正確には文字の読み書きかしら? それを教えるのは私の本宅になるわ」
ふむふむ。
「なるほど。了解しました」
リンが挙手をして発言をする。
「でー。シッチー。貴女の仕事のお手伝いって、具体的に何をやればいいの?」
「そうね。とりあえず、次に私が出発する予定の『冒険者ギルドからの依頼』を手伝って欲しいの」
「ギルドからの? 一般的な依頼とは別に?」
「ええ。実はね。情報の発信元は、隣の山を越えた町からの依頼なんだけど、“魔物の群れが発生した”という連絡が、王都の冒険者ギルドまで“伝書バトで届いた”のよ。でね。ギルドが討伐戦を計画しているそうで『手練れとなる冒険者』に応援要請を出しているの」
リンが神妙な顔になる。
「え。それいつの話? 初耳なんだけど」
「今日の今日よ。それで、私も冒険者ギルドに呼び出しをくらってね。応援に行けそうな冒険者をギルドマスターのソレイドが選別してる最中らしいわ。ま、この流れだと順番にあなたにも声が掛かると思って間違いないわね」
「ソレイドが言ってた“また後で会う事になるだろう”ってこの事か…。つまり、ギルドからの直接依頼だから報酬も高いだろうと踏んで、依頼の達成率を上げるために、偶然にも冒険者ギルドにいた私に声を掛けた……と」
「そして、ライチャスネスさん。あなたのためでもあるわね」
うん? どういう事だろう。
「私…ですか?」
「順を追って説明しましょう。先ず、私が貴方に語学を教えるという事は、私が普段の生活で冒険者として生活費を稼ぐ時間を、貴方に提供するということになります」
「はい。理解しています」
「子供のころからこの国にいるならばまだしも、いちから語学を学ぶというのは一朝一夕で出来るものではありません。つまり、時間がかかるという事です。ま、こうやってお話しするだけならば、貴方のように首から魔道具をかけておけばそれで済む話ですけどね」
!
「気づいておられたんですね」
「魔道具には魔力が流れますから、魔導士たるもの。知覚で感知するのは、そう難しい事ではありません」
そうなのか。魔力…。私にも魔力があるのか?
「質問です。私は魔法を使えないのですが、なぜ魔力が流れるのですか?」
「あなたの生命エネルギーを変換しているのです。量としては微々たるものなので、その魔道具は安全と言われているわ。それゆえに高級品でもあるのは、ご存じかしら?」
「身をもって体験しております」
「あら? そう。ウフフ」
リンがテーブルに肘をついてあきれ顔で話す。
「ちなみに、シッチーみたいな優秀でお金に目ざとい魔法使いはそうそういないけどね。さっき言った魔力を知覚することができる優秀な魔法使いがこの王都に何人いることやら」
「お褒めの言葉として受け取っておくわ。フフ。さて、話が反れたわ。先ほど『手練れとなる冒険者の応援要請』が来たと言ったわね。つまり、これにリンは該当するけれども、貴方は該当していない」
「ええ。それは分かります」
「けど、貴方は語学を学びたい。語学を教えられる者は、実は結構いる。しかし、教えるのに時間はかかる。その分、生活費を稼ぐ時間も減る」
私は挙手をして発言をする。
「そして、その『魔物の群れの討伐』に私も加わることができれば、成功報酬をシティリアさんへの授業料として提供できる。が、私は参加する事ができない」
シティリアは肯定するように頷く。
「そう。そこで、リンと私の推薦があれば。付き添いという形で貴方を『魔物の群れの討伐』に参加させられると私は考えた」
リンも状況を理解してきた顔をしている。
「シッチーは、次の依頼をこなすために『優秀な冒険者が必要』で私に手伝って欲しい。私とシッチーが推薦すればライチャスネスも『ギルドからの依頼』に参加できる。そしてシッチーへの語学の授業料も支払いの足しになる可能性が高い。と……」
シティリアは笑顔で答える。
「ご名答~♪ 補足するならば、私だけの推薦でもライチャスネスさんが『ギルドからの依頼』に参加できる可能性は低い。私は貴方の事を知らないからね。しかし“冒険者として優秀なリンが連れてきた”となれば、新人の貴方でも参加できる確率を上げる事ができる。ということね」
全て納得がいった。そろそろお城に戻るか。お城の人たちに報告しないといけないしな。
「シティリアさん。お話は分かりました。私は、実はお城に住まわせてもらっておりまして…。報告も兼ねて、戻ることにします」
シティリアさんは笑顔で答える。
「ええ。リンが一緒にいる時点で、お城の関係者だと予想はついていたわ。語学を教えることになったら、私の本宅に住み込みになるかもだけれど、その辺もお偉いさん方に説明しておいてくれると助かるわ」
「分かりました。では、今日はこの辺で失礼します」
「ふう。そうね、お暇するわ。シッチー。またね」
私とリンはお城へ戻ることにした。
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