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第1章 本章
第24話 異世界六日目・前編
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今日も一日が始まる。いつも通りの朝を迎え、朝食を済ませ、借りている部屋の自室で午前の訓練に備えている時であった。
部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえる。誰かが来たようなので「どうぞ」と返事をする。
チャップさんだ。
「おはようございます。ライチャスネス様。冒険者としても頑張っておられるようで」
「おはようございます。頑張らせて頂いております。訓練の時間にはまだ早いようですが、何かありましたか?」
「はい。本日は、訓練を行うことに関して提案がございましてな。どうでしょう。こちらの世界の言語でお困りではございませんか?」
「ああ…。そうですね。文字が書けないのと読めないのが…。というと、もしかして」
「はい。僭越ではございますが、“文字を覚えるための方法”について助言させて頂こうかと」
文字を覚える方法か。助かる。
「なるほど。して、その方法とはどのような?」
「ライチャスネス様は、冒険者になられましたね」
「ええ、皆さんの助けもあって、ですが」
「そこで、冒険者ギルドに『文字を覚えるため、勉学の依頼』を出してみるのは如何でしょうか?」
「なるほど……。そういう手もあるんですね」
チャップさんは頷くように一拍、間を置いてから、説明を再開する。
「例えばお城の中で、講師として文学や文字を教えられる者はおります。それでも良いのですが、この世界に慣れて頂くという目的も兼ねて、ライチャスネス様が始めた冒険者という職業の手助けになればと思いましてな」
ありがたい申し出を聞けた。
「チャップさん。助言ありがとうございます。是非、やってみます」
「ライチャスネス様の、一助となれば幸いでございます。では、本日の訓練内容は、冒険者ギルドの活用ということで、頑張ってみてください」
私は支度を整え、リンに付き添いをお願いし、冒険者ギルドまで出かける事にした。
~冒険者ギルド前に到着~
「ふう。今日も人がいっぱいだな…」
建物の中は、騒がしいという感じではないが、あちらこちらで会話が行われ、活気に満ち溢れている。初日に来た時と変わらず、賑やかだ。
私は依頼の申請手続きを行うため、注文窓口の列に並んでいる。様々な依頼が集まるのか、その列は長く、行列と化していた。
自分の番が回ってくるのを只管に待つ。
待っている間に、ギルドの建物の中に目をやると、広々とした空間の中に、テーブルとイスが沢山ならんだ場所で、談話している人達も大勢いた。
折角なのでリンに質問をしてみる。
「リン。あそこで話している人たちがいる所は、休憩所?」
「ええ、それも兼ねているわね。“仕事の話をしている人”や、“仕事仲間を募集している人”、“仕事が欲しくて、ギルド側から声が掛かるのを待っている人”など、様々。ね」
へえ…。色々な活用方法があるんだな…。っと、自分の番が回ってきた。
受付嬢から声を掛けられる。
「こんにちは。今日はどのような依頼ですか?」
「えーと、今日はですね。文字を覚えたくて、教えてくれる人を探しているんですが」
受付嬢から不思議そうな目で見られた。リンが透かさずフォローに入ってくれた。
「この人は、最近この国に来たばかりで、まだ色々と慣れていないの。それで、勉学のために申請に来たの」
リンの存在に気づいた受付嬢が、納得いったような表情に変わった。
「あら。リンさんのお連れの方なんですね。なるほど、左様でございましたか。でしたらあちらのテーブルで少々お待ちください。依頼書を発行いたしましたらお呼びいたします」
私は返事をした後、うしろに並んでいる人のために列を開け、人々が談話しているテーブル席のほうまで向かった。空いている席を見つけ、座りながらリンと一緒に待つことにする。
すると、奥の方から見た事のある人影が、こちらに近づいてくる。大柄な体格に、筋骨隆々のムキムキマッチョマン。
スタークだ。
「お! リン! と……。ラ、ラ」
「ライチャスネスです」
「そうだったそうだった! ライチャスネス! もうさん付けはしなくてもいーよな? 同じ冒険者の仲間になったしよ!」
相変わらず声がデカい。周囲の目線を集めてしまう。あ、リンが若干イラッとしてる。
リンはテーブルの下からスタークのすねを蹴った。
「痛ッたぁ~……」
「お静かにお願いできますぅ? 冒険者様ァ」
スタークが申し訳なさそうな顔になった。普段は良い人そう。
「わ、わるかったってよぉ。おめぇだって冒険者だろぉ?」
「元。ね」
スタークが含みのある笑いをしている。それを見たリンが稀有な顔になった。
「な、なによ…? 変な顔しちゃって」
「フッ。リンとライチャスネスは用事があってココにきたんだろ? なら、受付に聞いてみな。すぐ分かっからよ~。っと、俺は依頼を受注したから冒険に出てくるぜ。冒険者様なんでな~♪」
そう言ってスタークはギルドから外に出て行ってしまった。何だったんだろう?
受付嬢がこちらの方に呼びに来た。私たちの手続きが完了したんだろう。受付に行こう。
「お待たせしました。ライチャスネス様。依頼の受注を完了しました。掲示板に張って人を募集しようかと思ったんですが……。報酬は応相談という事でしたら受けても良いと言う方が、1人見つかりました」
ふむ。やはり文字を教えてくれる人はそんなにいないのかな。
でも1人でも見つかったなら渡りに船だ。
「その方はどちらに?」
「ええ、丁度あちらの待合席に座っております」
受付嬢が指し示す場所の方に目を向けると、鍔の広いとんがり帽子を被った女性が座っている。ゆったりとしたローブに身を包んだその姿は――。そう、誰がどう見ても魔法使いと呼ばれる人の姿。そのものであった。
魔法使いの恰好をした人も、こちらに気づき、近づいてくる。
「初めまして。あなたが語学を学びたいと言っていたライチャスネスさん?」
「ええそうです。初めまして。ライチャスネスです。あなたは?」
「私の名前はシティリア。それと、久しぶりね。リン」
腕を組みながら、リンのほうに目線をやるシティリアさん。
「シ、シッチー! 久しぶりね!」
リンの声がでかくなった。周囲の注目……。ちょっと恥ずかしい。さり気なく注意するか。
「リ、リン。ほら」
リンに小声で話しかけたら、リンも気づいたらしく、咳ばらいをした。
「ゴ、ゴホン。あー。えっと、自己紹介必要そうね。この見るからに魔法使いの恰好をした人は、シティリア。以前、一緒に冒険者をやっていた仲間よ。私はシッチーと呼んでるの」
なるほど、それでシッチーか。
「えーと、という事は、シティリアさんが私に文字を教えてくれるという事ですか?」
「ええ、そうよ。これからよろしくね。報酬は、ぼったくりはしないけど、高いわよ~。そうね。これくらい」
シティリアさんが指を3本立てる。金額を指し示しているようだが、分からない。
手持ちのお金で足りるのかな? リンに聞いてみよう。
「リン。僕の手持ちのお金だと――」
言葉を遮るようにリンも答えてくれた。
「足りないわね…。うーん。ライチャスネスの冒険者としての働きだと…。後払いになっちゃうわ」
「ウフフっ。そうなるわね」
シティリアさんがニヤリと笑っている。魔女か? 魔女なのか? いや、魔法使いだこの人。
「そこで、折衷案として、良い話があるわ。あなたたち二人。私の仕事のお手伝いをしなさい」
「ちょ、ちょっと待って。シッチー。ライチャスネスは冒険者だからともかくとして、なんで私まで?」
「あら? まだ聞いてないの? そこの受付嬢に聞いてみると分かるわよ」
ん? そういえばスタークも同じことを言ってた気が…。
リンは受付嬢のほうまで質問をしにいった。
「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど、スタークから何か聞いてない?」
受付の人は、その内容を把握しているのは確かなようだ。スムーズな回答をしてくれた。
「フフっ。その言葉。お待ちしておりました。実はですね。リンさんが冒険者を辞めてお城の兵士になったとき、処分してくれっておっしゃいました『リンさんのギルドカード』まだ残っているんです」
リンは驚いた。
「え、えー!? 処分してくれていたんじゃないの!?」
声…。
「確かに。二つの仕事は同時にできないからと、リンさんから以前、処分をするように承りました」
「しかし、ギルドマスターが『リンは優秀な冒険者だ。こいつは取っておいた方が、何かあったときのために、あいつのためにもなるだろ。俺が預かっておく』と、申されまして」
「リンさんが再び、冒険者ギルドに来るような事があるならば、用意しておくようにと、言付かっておりました」
その時、奥の方から一目で風格のある男が現れた。
「おいおい…。お前ら。ちょっとうるさいぞ! ここをどこだと思ってる! 城下町直下の冒険者ギルドだぞ!?」
いや、貴方も大概…。と思ったら、リンがその男を見て気づいた。
「あ。ギルドマスター」
ギルドマスターと呼ばれた男もリンの存在に気づいたようだ。
「おー! リンじゃないか! そうか。そういう事か。ん-ん-。なるほどな」
風格のある男が歩いてくるその佇まい。歩き方ひとつで、こうも。人は変わるのか。
ギルドマスターが現れた事で、更に注目を集めている。
「ん? 何をみているんだ? お前たち。見世物じゃないぞ! さぁ、受付も冒険者も仕事仕事!」
手を叩き、周りの視線を解散に促す。場を制するその統率力に周囲からの信頼が現れていた。
「で……。リンと一緒にいる君は。新人さんかな?」
「はい。私はライチャスネスと申します。先日、リンさんの紹介で冒険者になりました」
「そうかそうか。私はここでギルドマスターをしているソレイドという者だ。以後よろしく」
目線をリンの方に向け、話を続ける。
「さて、リン。私の意思は伝わったということで。良いのかな?」
リンはその場で考え込み……。覚悟が決まったようだ。
「はぁ。分かりました。これは独り言だけど、これも便宜を図るっていうことになるのかしらね。どこまでやれるか分からないけど、これがライチャスネスの助けとなるなら。私も頑張るわ」
「うむ? 何か分からないが。納得してくれたなら何よりだ。それと、リンにはまた後で会う事になるだろう。今日の所は、私も仕事が忙しいのでな。さらばだ諸君」
踵を返し、背中越しに語るソレイド。
「ライチャスネスは冒険者として励んでくれたまえ。リンのいう事をよく聞くようにな」
ソレイドは受付の奥の方へ去って行った。去り際の歩き方も風格あるな……。
「また後で会う事になるってどういう意味だろ…」
リンが疑問に思っている所に、シティリアが挟み込むように会話に参加をする。
「さて、色々あったけど…。詳しい話は私の家に来てからでいいかしら? その事についても私から説明するわ」
私はシティリアの問いに答える。
「了解です。リンはどうする?」
「勿論。ついていくわよ」
私たちはシティリアの後について行き、彼女の家まで向かう事にした。
部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえる。誰かが来たようなので「どうぞ」と返事をする。
チャップさんだ。
「おはようございます。ライチャスネス様。冒険者としても頑張っておられるようで」
「おはようございます。頑張らせて頂いております。訓練の時間にはまだ早いようですが、何かありましたか?」
「はい。本日は、訓練を行うことに関して提案がございましてな。どうでしょう。こちらの世界の言語でお困りではございませんか?」
「ああ…。そうですね。文字が書けないのと読めないのが…。というと、もしかして」
「はい。僭越ではございますが、“文字を覚えるための方法”について助言させて頂こうかと」
文字を覚える方法か。助かる。
「なるほど。して、その方法とはどのような?」
「ライチャスネス様は、冒険者になられましたね」
「ええ、皆さんの助けもあって、ですが」
「そこで、冒険者ギルドに『文字を覚えるため、勉学の依頼』を出してみるのは如何でしょうか?」
「なるほど……。そういう手もあるんですね」
チャップさんは頷くように一拍、間を置いてから、説明を再開する。
「例えばお城の中で、講師として文学や文字を教えられる者はおります。それでも良いのですが、この世界に慣れて頂くという目的も兼ねて、ライチャスネス様が始めた冒険者という職業の手助けになればと思いましてな」
ありがたい申し出を聞けた。
「チャップさん。助言ありがとうございます。是非、やってみます」
「ライチャスネス様の、一助となれば幸いでございます。では、本日の訓練内容は、冒険者ギルドの活用ということで、頑張ってみてください」
私は支度を整え、リンに付き添いをお願いし、冒険者ギルドまで出かける事にした。
~冒険者ギルド前に到着~
「ふう。今日も人がいっぱいだな…」
建物の中は、騒がしいという感じではないが、あちらこちらで会話が行われ、活気に満ち溢れている。初日に来た時と変わらず、賑やかだ。
私は依頼の申請手続きを行うため、注文窓口の列に並んでいる。様々な依頼が集まるのか、その列は長く、行列と化していた。
自分の番が回ってくるのを只管に待つ。
待っている間に、ギルドの建物の中に目をやると、広々とした空間の中に、テーブルとイスが沢山ならんだ場所で、談話している人達も大勢いた。
折角なのでリンに質問をしてみる。
「リン。あそこで話している人たちがいる所は、休憩所?」
「ええ、それも兼ねているわね。“仕事の話をしている人”や、“仕事仲間を募集している人”、“仕事が欲しくて、ギルド側から声が掛かるのを待っている人”など、様々。ね」
へえ…。色々な活用方法があるんだな…。っと、自分の番が回ってきた。
受付嬢から声を掛けられる。
「こんにちは。今日はどのような依頼ですか?」
「えーと、今日はですね。文字を覚えたくて、教えてくれる人を探しているんですが」
受付嬢から不思議そうな目で見られた。リンが透かさずフォローに入ってくれた。
「この人は、最近この国に来たばかりで、まだ色々と慣れていないの。それで、勉学のために申請に来たの」
リンの存在に気づいた受付嬢が、納得いったような表情に変わった。
「あら。リンさんのお連れの方なんですね。なるほど、左様でございましたか。でしたらあちらのテーブルで少々お待ちください。依頼書を発行いたしましたらお呼びいたします」
私は返事をした後、うしろに並んでいる人のために列を開け、人々が談話しているテーブル席のほうまで向かった。空いている席を見つけ、座りながらリンと一緒に待つことにする。
すると、奥の方から見た事のある人影が、こちらに近づいてくる。大柄な体格に、筋骨隆々のムキムキマッチョマン。
スタークだ。
「お! リン! と……。ラ、ラ」
「ライチャスネスです」
「そうだったそうだった! ライチャスネス! もうさん付けはしなくてもいーよな? 同じ冒険者の仲間になったしよ!」
相変わらず声がデカい。周囲の目線を集めてしまう。あ、リンが若干イラッとしてる。
リンはテーブルの下からスタークのすねを蹴った。
「痛ッたぁ~……」
「お静かにお願いできますぅ? 冒険者様ァ」
スタークが申し訳なさそうな顔になった。普段は良い人そう。
「わ、わるかったってよぉ。おめぇだって冒険者だろぉ?」
「元。ね」
スタークが含みのある笑いをしている。それを見たリンが稀有な顔になった。
「な、なによ…? 変な顔しちゃって」
「フッ。リンとライチャスネスは用事があってココにきたんだろ? なら、受付に聞いてみな。すぐ分かっからよ~。っと、俺は依頼を受注したから冒険に出てくるぜ。冒険者様なんでな~♪」
そう言ってスタークはギルドから外に出て行ってしまった。何だったんだろう?
受付嬢がこちらの方に呼びに来た。私たちの手続きが完了したんだろう。受付に行こう。
「お待たせしました。ライチャスネス様。依頼の受注を完了しました。掲示板に張って人を募集しようかと思ったんですが……。報酬は応相談という事でしたら受けても良いと言う方が、1人見つかりました」
ふむ。やはり文字を教えてくれる人はそんなにいないのかな。
でも1人でも見つかったなら渡りに船だ。
「その方はどちらに?」
「ええ、丁度あちらの待合席に座っております」
受付嬢が指し示す場所の方に目を向けると、鍔の広いとんがり帽子を被った女性が座っている。ゆったりとしたローブに身を包んだその姿は――。そう、誰がどう見ても魔法使いと呼ばれる人の姿。そのものであった。
魔法使いの恰好をした人も、こちらに気づき、近づいてくる。
「初めまして。あなたが語学を学びたいと言っていたライチャスネスさん?」
「ええそうです。初めまして。ライチャスネスです。あなたは?」
「私の名前はシティリア。それと、久しぶりね。リン」
腕を組みながら、リンのほうに目線をやるシティリアさん。
「シ、シッチー! 久しぶりね!」
リンの声がでかくなった。周囲の注目……。ちょっと恥ずかしい。さり気なく注意するか。
「リ、リン。ほら」
リンに小声で話しかけたら、リンも気づいたらしく、咳ばらいをした。
「ゴ、ゴホン。あー。えっと、自己紹介必要そうね。この見るからに魔法使いの恰好をした人は、シティリア。以前、一緒に冒険者をやっていた仲間よ。私はシッチーと呼んでるの」
なるほど、それでシッチーか。
「えーと、という事は、シティリアさんが私に文字を教えてくれるという事ですか?」
「ええ、そうよ。これからよろしくね。報酬は、ぼったくりはしないけど、高いわよ~。そうね。これくらい」
シティリアさんが指を3本立てる。金額を指し示しているようだが、分からない。
手持ちのお金で足りるのかな? リンに聞いてみよう。
「リン。僕の手持ちのお金だと――」
言葉を遮るようにリンも答えてくれた。
「足りないわね…。うーん。ライチャスネスの冒険者としての働きだと…。後払いになっちゃうわ」
「ウフフっ。そうなるわね」
シティリアさんがニヤリと笑っている。魔女か? 魔女なのか? いや、魔法使いだこの人。
「そこで、折衷案として、良い話があるわ。あなたたち二人。私の仕事のお手伝いをしなさい」
「ちょ、ちょっと待って。シッチー。ライチャスネスは冒険者だからともかくとして、なんで私まで?」
「あら? まだ聞いてないの? そこの受付嬢に聞いてみると分かるわよ」
ん? そういえばスタークも同じことを言ってた気が…。
リンは受付嬢のほうまで質問をしにいった。
「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど、スタークから何か聞いてない?」
受付の人は、その内容を把握しているのは確かなようだ。スムーズな回答をしてくれた。
「フフっ。その言葉。お待ちしておりました。実はですね。リンさんが冒険者を辞めてお城の兵士になったとき、処分してくれっておっしゃいました『リンさんのギルドカード』まだ残っているんです」
リンは驚いた。
「え、えー!? 処分してくれていたんじゃないの!?」
声…。
「確かに。二つの仕事は同時にできないからと、リンさんから以前、処分をするように承りました」
「しかし、ギルドマスターが『リンは優秀な冒険者だ。こいつは取っておいた方が、何かあったときのために、あいつのためにもなるだろ。俺が預かっておく』と、申されまして」
「リンさんが再び、冒険者ギルドに来るような事があるならば、用意しておくようにと、言付かっておりました」
その時、奥の方から一目で風格のある男が現れた。
「おいおい…。お前ら。ちょっとうるさいぞ! ここをどこだと思ってる! 城下町直下の冒険者ギルドだぞ!?」
いや、貴方も大概…。と思ったら、リンがその男を見て気づいた。
「あ。ギルドマスター」
ギルドマスターと呼ばれた男もリンの存在に気づいたようだ。
「おー! リンじゃないか! そうか。そういう事か。ん-ん-。なるほどな」
風格のある男が歩いてくるその佇まい。歩き方ひとつで、こうも。人は変わるのか。
ギルドマスターが現れた事で、更に注目を集めている。
「ん? 何をみているんだ? お前たち。見世物じゃないぞ! さぁ、受付も冒険者も仕事仕事!」
手を叩き、周りの視線を解散に促す。場を制するその統率力に周囲からの信頼が現れていた。
「で……。リンと一緒にいる君は。新人さんかな?」
「はい。私はライチャスネスと申します。先日、リンさんの紹介で冒険者になりました」
「そうかそうか。私はここでギルドマスターをしているソレイドという者だ。以後よろしく」
目線をリンの方に向け、話を続ける。
「さて、リン。私の意思は伝わったということで。良いのかな?」
リンはその場で考え込み……。覚悟が決まったようだ。
「はぁ。分かりました。これは独り言だけど、これも便宜を図るっていうことになるのかしらね。どこまでやれるか分からないけど、これがライチャスネスの助けとなるなら。私も頑張るわ」
「うむ? 何か分からないが。納得してくれたなら何よりだ。それと、リンにはまた後で会う事になるだろう。今日の所は、私も仕事が忙しいのでな。さらばだ諸君」
踵を返し、背中越しに語るソレイド。
「ライチャスネスは冒険者として励んでくれたまえ。リンのいう事をよく聞くようにな」
ソレイドは受付の奥の方へ去って行った。去り際の歩き方も風格あるな……。
「また後で会う事になるってどういう意味だろ…」
リンが疑問に思っている所に、シティリアが挟み込むように会話に参加をする。
「さて、色々あったけど…。詳しい話は私の家に来てからでいいかしら? その事についても私から説明するわ」
私はシティリアの問いに答える。
「了解です。リンはどうする?」
「勿論。ついていくわよ」
私たちはシティリアの後について行き、彼女の家まで向かう事にした。
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